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MBOについて

「MBO」とは、「Management Buyout(マネジメント・バイアウト)」の略である。企業の経営陣が株式や一部の事業部門を買い取ることを通じて経営権を取得することを意味する。なお、似たようなスキームで、従業員が株式や一部の事業部門の買い取りを行う「EBO」というのがある。「Employee Buyout(エンプロイー・バイアウト)」の略である。日本では、「ユニゾ」で実例があった。

「MBO」の対象となる企業が、公開会社の場合、「TOB」(上場している企業を対象として株式市場外取引で株式の取得を行うこと)が手段として用いられることが多く、「MBO」「TOB」を通じて、公開会社は非公開化されることになる。

「MBO」には、いろいろとメリットがある。公開企業だと、投資家からの圧力によって、短期的な業績向上を迫られることになるが、非公開企業になることで、そうした圧力から解放されて、中長期的視点で経営に取り組めることが可能になる。

また、公開企業と違って、機動的でスピーディな意思決定が可能になるし、敵対的買収に晒されるリスクがなくなる。それに加えて、上場企業の場合、IRなど企業情報開示のための社内体制の維持、監査法人への報酬、証券代行費用等いろいろと余計なコストがかかるが、これらを節約できるのはバカにならない。

ということもあってか、「IPO」によって、上場企業をめざす企業群がある一方で、逆方向というか、「MBO」によって、上場を廃止して、非公開企業に戻ろうという企業も存在する。

「MBO」において、最大の問題となるのが、「株価」をどのように設定するかである。株式の買収を進める経営陣としては、コストを抑えたいと考えるものであるが、既存株主としては、できるだけ高く売りたいと考える。当たり前の話である。

今回の、「大正製薬ホールディングス」と「スノーピーク」の事例に関しても、株価が大きな争点になっている。株主としては、株価が不当に安く抑えられているとなれば、自分たちの利益が損なわれることを意味するから、臨時株主総会で反対したくなるであろう。

大正製薬について言えば、創業家である上原家は、雑誌「選択」1月号の記事によれば、何年もかけて株価を上げるどころか、ひたすら下げる努力をしてきたように見られるのだという。上場企業であれば、アナリストや機関投資家に対して、成長戦略をアピールして、株価を上げる努力を取り組むはずであるが、その真逆の動きをしていたことになる。創業家が何年も前から、「MBO」を画策してと考えれば、腑に落ちる話である。

22年春の東証の市場改革の際、大正製薬のような業界大手企業が、プライム市場ではなくスタンダード市場を選んだことも、「MBO」の布石だと考えれば理解しやすい。スタンダード市場銘柄となると、グローバルな大手機関投資家の投資対象から外れることが多く、株価下落要因となるからである。また、「MBO」を発表する直前に業績の下方修正を発表しているタイミングの「良さ」も偶然とは思えぬ。一連の会社の動きは、周到な株価下方誘導政策だと批判されても仕方がないことである。

スノーピークも同様である。業績が著しく低迷しているのは、「MBO」推進のためにわざとやっているとは思えないことであるが、「MBO」のタイミングとしては、「狙っていた」という感じもしないではない。何年か前の、前社長が不倫・妊娠で辞任した事件も、もしかしたら、「MBO」の伏線だったのかもしれないと、邪推したくなる。

上場企業であることを維持するのであれば、株価が上がることは、経営陣にとっても株主にとっても、「ウィンウィン」なことであるが、「MBO」となれば、利害が明確に対立してしまうが、経営陣と一般株主との間の、構造的な利益相反を解決するのは容易ではない。会社の経営状態について詳細に把握している経営陣と、一般株主とでは、情報量の「非対称性」は著しい。どうしても、経営陣が有利なゲームだからである。

日経の記事によれば、<経済産業省の「公正なM&Aの在り方に関する指針」はMBOでの公正な取引を担保するため、特別委員会の設置が望ましいとしている。一般株主の利益を守るため、取引の是非や条件を検討する仕組みだ。実際、スノーピークや大正製薬HDでは特別委員会が置かれ、MBO価格が最初の提案時から引き上げられた。>とある。

だが、「特別委員会」が、ちゃんとニュートラルな立場で職責を果たせるかどうかとなると、これもなかなか難しい。客観性を担保するのは容易ではない。これに関しては、<カギを握るのは特別委員会の実効性や透明性の高さだ。経産省の指針は社外取締役が委員を務めることに加え、特別委員会によるファイナンシャルアドバイザーの選任、一般株主の意志を確認する「マジョリティー・オブ・マイノリティー」条件の設定といったプロセスをあげている。>と書いてあるので、社外取締役の人選が重要な意味を持つのかもしれない。

ちゃんと専門的な知見を有して、経営陣寄りだと言われないようなジャッジができるかどうか。そもそも、社外取締役に「お友だち」ばかりを集めているような会社では、そんなことは期待できそうもない。大事なことは、一般株主からの信頼感と納得感である。

そうなると、証券取引所が特別委員会のメンバーの人選をすれば良いのではないのかと思うのだが、そこまで証券取引所が矢面に立つ覚悟があるかということになると、こちらの方もあまり期待できそうもない。

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