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「波よ聞いてくれ」について

4月からスタートしたテレビドラマについて少し書いてみたい。

僕が、定期的に視聴しているのは、「波よ聞いてくれ」、「かしましめし」、「隣の男はよく食べる」、「ホスト相続しちゃいました」、「教場0」、「合理的にありえない」、「Unknown」、「それってパクリじゃないですか?」等々である。今クールは、ちょっと多めである。忙しい。

いわゆるゴールデン・プライム枠ではない深夜枠のドラマが最近は多くなったことに気づかされる。上記のドラマだと、「波よ聞いてくれ」、「かしましめし」、「隣の男はよく食べる」、「ホスト相続しちゃいました」の4作品が該当する。漫画作品が原作というのも、相変わらず多い。この4作品だと、前3作品が該当する。優秀な脚本家が枯渇しているのかもしれない。

これらの作品の中で、今クールでいちばんのおススメは、「波よ聞いてくれ」である(テレビ朝日系、毎週金曜日 23:15 - 翌00:15)。

何がそんなにおススメなのか。

それは、主人公の「鼓田ミナレ」役を演じる 小芝風花 の魅力に尽きる。NHKドラマの「トクサツガガガ」あたりから、コメディエンヌとしてのセンスの良さは光っていたが、本作での、突き抜けたハジケっぷり、滑舌の良さ、せりふ回しの小気味良さは本当に際立っている。彼女の演技を見るだけでも、このドラマを毎週見る価値はあると断言できる。

物語自体はかなり非現実的である。主人公は、カレー店のバイト従業員である。思慮が浅く、がさつであり、思い込みやうっかりミスによって私生活でも失敗ばかりしているが、あまり反省もしない。彼氏にフラれて、カネをだまし取られて、バーでやけ酒を飲んでいたところ、たまたま隣に座っていたのがラジオ局のチーフディレクターの麻藤だったことがきっかけで、深夜帯に「波よ聞いてくれ」という冠番組を与えられ、カレー店で働きつつ、ラジオパーソナリティとしての活動を開始するという話である。

抜擢された理由は、「26分間一度も噛んでない。素人ならば、台本を渡してリハしてさえあり得ない」と麻藤に言わせるくらいに、常任離れしたレベルで口が良く回ること。ミナレの番組は、麻藤の方針により、毎回、趣向を変えることになっているので、自身の失恋に基づく「架空実況」、同じマンションの下の階の住人の部屋の「心霊現象」(実は、単なるミナレの不始末が原因と判明、途中から「公開謝罪」に変更となる)、「公開プロポーズ」ならぬ「公開説教」等々、いくら深夜枠とはいえ、いずれも限りなく放送事故に近いような番組を繰り広げるという話である。

ただし、いくら僕が文章で書き連ねたところで、この番組の面白さは伝わりにくい。是非、実際に視聴してもらえばわかるはずである。とにかく、小芝風花のマシンガンのような喋りが秀逸である。

深夜枠のドラマが増えたのにはいろいろと事情があるようだ。1つは、コロナ渦でリモートワークが進み、「おうち時間」が増えて、夜更かしする人が多くなったこととか、「TVer」等の見逃し配信が普及して、アクセス数が多い連続ドラマ枠を局側が増やしたことが考えられる。

2つめは、YouTubeの影響で、あまり長い尺の番組は敬遠されるようになり、1時間番組よりも30分番組の方が視聴者に好まれる一方、ゴールデン・プライム枠で30分枠の番組を増やしにくいという事情で、深夜枠を利用する動きになったことである。

3つめとしては、ゴールデン・プライム枠よりも局として多少の冒険が許容されることがある。ゴールデン・プライム枠でやるには内容的に「攻めすぎた」企画であっても、視聴者の反応を見るために、とりあえず深夜枠でトライしてみるといったことであろう。

「波よ聞いてくれ」にしても、局側としては、内容的にゴールデン・プライム枠でやる勇気がなかったのかもしれない。「隣の男はよく食べる」、「ホスト相続しちゃいました」なども同様であろう。しかもこの2作は30分ドラマでもあるから、余計にハードルが高い。

昨今のテレビ視聴者は、僕もそうであるが、リアルタイムでテレビを視聴するよりも、録画しておくか、見逃し配信サービスを利用するような非同期型の視聴者の方がパーセンテージとしてはむしろ多いはずである。したがってリアルタイムの放映時刻がゴールデン・プライムなのか、深夜なのか、あるいは平日の昼間なのかは、あまり重要な問題ではない。要するにコンテンツとして面白いかどうか次第なのだ。

こういう潮流が当たり前となってくると、テレビでゴールデン・プライム枠に高い広告宣伝費を気前よく払ってくれるスポンサーがいつまで続くのだろうかということが気がかりになる。どうせリアルタイムで視聴されないのであればCMは無駄になる。録り溜めた番組であれば、CMはスキップされるからである。それならば、見逃し配信サービスにCMを流した方がまだマシであろう。今までテレビCMに多額の広告宣伝費を投じていた企業が、徐々にテレビからデジタルマーケティングの方に予算をシフトする動きがあるというのも理解できる。

ゴールデン・プライム枠から深夜へのシフト、リアルタイムの視聴者から非同期型の視聴者へのシフト、企業の広告宣伝費のテレビからネットへのシフト等は、これからも大きな流れとして続きそうな気配である。

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