見出し画像

「うるさ型の株主」について

公開企業というものは、不特定多数の株主からいろいろなことを言われるのが宿命である。経営者は、そうした声に対して説明責任を果たすのが仕事の1つでもある。それが嫌ならば、株式を公開しなければ良い。

ジャフコはVC(ベンチャー・キャピタル)である。スタートアップ企業に投資して、多くの場合、IPOによって投資した資金を回収する。スタートアップ企業が正しい道筋を辿って成長して、めでたく公開企業になれるように、投資先企業と伴走しつつ、適切な指導を行なう立場にある。つまりはプロの投資家であり、マーケットや企業に求められるガバナンスというものを熟知しているはずの企業である。

そうしたプロであっても、村上ファンドのような「うるさい株主」は目障りだったのであろうか。

村上ファンドの村上世彰の著書を以前に何冊か読んだことがある。テレビ等で喋っているのを聞いたこともある。僕は彼がおかしなことを言っている人物だとはまったく思っていない。

彼は元官僚であるが、長年の経験に基づき、日本の株式市場がまだまだ未成熟であり、投資家にとってあまり魅力的なものになっていないことを問題視している。

特に、「株価純資産倍率(PBR)」が1倍未満の企業、つまり会社の純資産額より株式時価総額のほうが安くて、事業継続よりも解散した方が株主の利益になる可能性のある会社に着目する。こういう企業は、投資家目線から見た場合、経営者が十分な経営努力を果たしていない企業、企業の持てるポテンシャルを最大限発揮できていない企業ということになる。

「株価純資産倍率(PBR)」が1倍未満の企業というのは、多くの場合、遊休資産、たとえば現預金や有価証券、不動産等をうまく活用して利益を稼ぎ出すことができていない企業が典型である。老舗の成熟した企業に多いのだが、実はジャフコも「株価純資産倍率(PBR)」が1倍未満である。

利益を稼ぐ方策がないのであれば、株主に配当するとか、自社株買いをするとか、株主に還元すれば良いというのが村上の考えである。本来、企業は株主のモノだからである。株主からすれば当たり前のことをやらない企業に対して、当たり前の要求をしているのが村上ファンドの村上世彰であり、彼の主張は株主資本主義の立場から見たら、何も間違っていない。

もちろん、企業は株主のモノであるが、株主だけのモノではない。いろいろなステークホルダーがいて成り立っている。日本の場合、あまり株主資本主義的な主張をやり過ぎると世間の反発を買う。村上も元官僚ではあるが、「お上」からは常に睨まれている。インサイダー取引容疑で有罪になったり、金融商品取引法違反(相場操縦)容疑で強制捜査を受けたりしている。出る杭は打たれるというやつであろう。

繰り返しになるが、経営者は株主からあれこれと言われるのも仕事であるし、それらに対してきちんと説明責任を果たすのも仕事である。そういうのが面倒だ、鬱陶しいというのであれば、MBOでもして、さっさと非公開企業にすれば良い。自分以外に株主がいなければ、あるいは圧倒的なシェアを持っていれば、他人の意見など聞かず、自分がやりたいようにできるからである。

それもせずに、公開企業のポジションにとどまるのであれば、株主と真摯に向き合うべきである。経営陣と意見が異なる株主であっても、話くらいはちゃんと聞けば良い。もしかしたら、なかなか良い提案をしてくれるかもしれない。わかっていないなと思えば、わかるように説明をすれば良いのである。

日経の記事にもあるように、「うるさ型の株主がいる方が経営の規律は保たれる。村上氏が大株主としてVCの運営に口を出すとは思えず、ビジネスに悪影響が出るというのは詭弁(きべん)だ」(独立系ファンドマネジャー)との声もでた。」というのは正しい。

公開企業である以上、経営陣は常に株主から監視されているという緊張感を持つべきである。おかしなことをしたら株主から突き上げられると思えば、常に襟を正すことになる。人間は弱いので、そうした緊張感があった方が真面目に仕事をする。結果として企業は良くなる。

にも拘らず、日本企業の場合、系列企業、メインバンク、取引先等の「持ち合い」による「モノ言わぬ株主」に馴れ合って来たせいか、「モノ言う株主」は煙たいし、目障りと考えてしまうのだろう。そうしたことも日本経済の長年にわたる低迷の根本的な原因の1つかもしれない。

ジャフコは投資先に対しては、株主としてあれこれダメ出しをしているのだろうが、自分があれこれダメ出しをされるのはイヤなんだなあというのが、今回の一連の出来事に対する、僕の偽らざる感想である。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?