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性加害報道について

昨今、話題になっているジャニーズ事務所というか、故ジャニー喜多川による、いわゆる「性加害問題」に関して、僕の思うところを書いておこうと思う。

前にも書いたが、僕は他人の性的な趣味嗜好については、あまり関心がない。かつては英国の数学者チューリングの例を挙げるまでもなく、同性愛は犯罪であり、同性愛者であることがとバレると社会的生命を失うことになったが、今やそのような時代ではない。LGBTQであることを公にカミングアウトしている有名人は少なくないし、正直なところ、「だから何なの」という感じである。

異性を好きになろうが、同性を好きになろうが、あるいはその時々でどちらでもオッケーだろうが、そんなことはどうでもよい。僕自身に危害が及ばぬ限りは、他人の趣味嗜好に興味はない。

今回の故ジャニー喜多川の過去の行状に関する問題の本質は、彼が同性愛者で、若くてかわいい男の子を寵愛していたことではなくて、相手が未成年であったことにある。現在の刑法では、「不同意性交等罪」(刑法第177条)、「不同意わいせつ罪」(刑法第176条)が定められており、16歳未満の未成年者に対する性的行為やわいせつ行為は、相手の同意の有無に関わらず処罰の対象になる。つまりはジャニーのやった行為は、少なくとも現代であれば完全にアウト、つまり犯罪行為である。

これらの法律は、23年になってそれまでの法律が見直されて改正されたものなので、刑事・民事を含めた法的な責任追及が可能か否かについては、専門外の僕にはよくわからない。ジャニーが既に故人であるし、彼の生前は法整備が追いついていなかったし、刑事事件として立件するのはおそらく無理だろう。民事上の不法行為としてもどこまで追いかけられるものやら、難しいことはよくわからない。不法行為に対する損害賠償債務というのも相続されるものだから、ジャニーの相続人(彼は未婚で子どもがいないから、姪のジュリー?)に請求できるような気はする。ただし損害賠償請求権には時効がある。こういうことに詳しい人がいたら教えてもらいたいが、ポイントはそういうことでもない。

今の我々の感覚であれば、相手が男性だろうが女性だろうが、同意していない相手に対して性的関係を強要するのは、明らかなルール違反である。この場合の不同意には、十分な判断能力が備わっているとは言えない未成年も含めるべきだし、法整備が十分に追いついていなかった過去の話だから何も問題ないという話でもない。前にも書いたが、「コンプライアンス」とは法律さえ守れば良いという意味ではない。世の中の社会通念とか、世間の倫理観、もっとアバウトな言い方をするならば、「世の中の空気」的なものにも配慮する必要がある。少なくとも、今の世の中の感覚では、そういうことになる。厳密な法律の運用としてアウトかセーフかという話をしているのではなくて、社会通念上、許されることか否かに基づいて判断すべきなのである。

ここまでの話を整理するならば、ジャニーズ事務所のような業界内でも高い知名度を誇る大手芸能事務所が、そうした世間の感覚を無視して、創業者の過去の悪行について「頬っかむり」をしている態度や姿勢こそ、今回の事件の最大の問題なのである。自分たちの立場に長らく安住して、感覚がズレてしまっているのであろう。

性加害問題は、ジャニーの生前から既に公然と語られていた話であり、いろいろな告発本が出版されたりもしている。また「週刊文春」との間では裁判にもなっており、本件に関する一連の報道は名誉毀損には当たらないという東京高裁の控訴審判決が04年に確定していることでもある。つまり、相当前から世間では半ば周知の事実であったし、根も葉もない話というわけではないと、裁判所も認めた話ということになる。

にもかかわらず、当局も動かず、マスコミも動かず、たいした問題になることなく、ジャニーが天寿を全うすることができたのは、要するに世間がジャニーズ事務所に対して忖度していたからであろう。それだけ、往時のジャニーズ事務所は絶大な権力を持っていたということになる。

それが、最近になってこの問題が再燃してきているのは、当人が既に死んでしまっていることに加えて、同事務所の権力が急速に衰えてきていることが背景にある。

ジャニー・メリーの姉弟がともに没して、ジュリーは人望、経営手腕ともにイマイチで、所属タレントが次々と離脱している。明らかに全盛期ほどの権勢はなく、昔ほど各方面に睨みがきかないからこそ、昔ならば公の場で話をする機会さえ与えられなかった人たちが、モノを言うことができるようになったと考えるべきであろう。

繰り返しになるが、僕はジャニー喜多川が同性愛者であることに興味はないし、それ自体に価値判断をするつもりはない。問題なのは、自分の立場を利用して、未成年のタレントに性的関係を強要していたことである。たまたま彼の場合は欲望の対象が男性、それも未成年の若い男の子であったが、それが女性であったとしても同じことである。芸能界では、「枕営業」疑惑がたびたび噂話として飛び交うが、根っ子の部分はすべて同じである。力関係での優位性を盾にして、年若いタレントの人格や尊厳を無視し、彼らを自らの性欲の捌け口としてモノのように消費するオトナたちの姿勢が問題なのである。

とはいえ、衰えたりとはいえども、ジャニーズ事務所の威光には一定のパワーはあるようで、この件に関して口をつぐんでいると思われる人たちは少なくない。

たとえば、ジャニーズ事務所に現在も所属していたり、かつて所属していた大物タレントたちである。当然に実情を知り得る立場だったわけであるが、これだけ世間で騒がれていても、敢えて話題にはしない。彼らは事務所から既に大きな利益を得た「勝ち組」であり、いまさら事務所を敵に回しても得することは何もないからであろう。下手に関わり合いにならない方が利口だということなのだろう。

それに、ジャニーの「お気に入り」だったと噂される現役有名タレントなどは、「ジャニーさんに掘られました」とカミングアウトするのはさすがに勇気が要るに違いないし、女性ファンからドン引きされるリスクは大いにある。

あとは、週刊誌でも話題になった「ジャニーズ事務所御用達」の某大物ミュージシャンである。彼にとっては、本件の真相究明云々よりは、ジャニーズ事務所との「ご縁とご恩」が優先されるということであろう。

結局のところ、ジャニーズ事務所に儲けさせてもらった人たちは、敢えて事務所を敵に回す必要はないし、余計な言動は慎み、事件が鎮静化するのを待っているのが賢明ということなのであろう。

しかしながら、僕がジャニーズ事務所の経営者ならば、ここまでいろいろな話が出てきて、それらに尾ひれがついて、あることないこと好き勝手に語られるくらいならば、外部識者による「第三者委員会」でも組成して、徹底的に調査をしてもらい、「調査報告書」を公表するくらいのことをやって、膿を出し切った方が、中長期的には事務所を守ることになると判断するだろう。

調査の過程で、いろいろと不都合な事実が明るみに出たとしても、どうせ、当事者は既に死んでいるのである。再発防止策を掲げて、幕引きを図ることは決して難しいことではない。

現時点の経営者であれば、創業者のイメージよりが毀損することよりも、自浄能力を有しないと見なされることで毀損する事務所の企業イメージの方を重視すべきであろう。


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