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国としての人材育成について

東日本大震災の後、原子力発電所の開発・建設についての議論は空転してきたが、ここに来て、再び、議論再開という方向になりそうな雲行きである。

一方で、あまり将来性の明るくない原子力専攻の技術者不足が懸念されている。学生の原子力離れは既に90年代以降、徐々に進んでおり、11年の福島第1原発事故がトドメを刺した格好となる。

文部科学省の集計では、大学・大学院の原子力専攻入学者は、70年代半ばから90年ごろまで500~600人で推移。92年の約670人をピークに減少傾向となり、2018年には約260人まで落ち込んだという。

技術者の高齢化も進んでいる。新規の開発・建設のみならず、既存の原発の安全性維持、廃炉等を支える人材が枯渇し、やがて誰もいなくなった場合、どうすればいいのだろう。

同じようなことは、医療業界でも起きている。

診療科については、医師の判断で自由に選択できることになっているので、需要と供給のアンマッチについては半ば放置されている。医者だって人の子である以上、ワークライフバランスや収入等の点で恵まれていそうな診療科に人気が集まるのは当然であり、体力的にも精神的にもキツそうな診療科(産婦人科、外科、救急医科、小児科等)は敬遠されることになる。

結果として、比較的、人材供給が潤沢な診療科もあれば、絶対数が大幅に不足している診療科もある。地方や過疎地ともなれば、不足はより深刻な状況となる。

コロナ渦で注目された感染症専門医も不足している。日本感染症学会によれば、全国にある400余りの感染症指定医療機関のうち、学会が認定する感染症専門医が在籍しているのはおよそ35%に当たる144施設にとどまるという。

防衛大学校に入学した学生は、陸海空自衛隊への配属が割り振られることになる。本人の志望も考慮には入るのだろうが、最終的には定員数や組織の事情が大いに影響する。防衛大学校に入校した時点で公務員として給料をもらう身分になる以上、これはある程度は仕方がないであろう。

同様に考えると、医師を養成するには多額の国費がかかっている。私立医大であろうとその辺の事情は変わらない。医師になるということは、「社会のために働く公務員に準じた立場」になることに等しいと言えなくもないし、診療科、勤務地等についても、ある程度は「お国の事情」が考慮されても良さそうである。

冒頭の原子力専攻の技術者の話に戻るが、理工系の専攻科目についても、個々の分野において最低限確保しないと絶対に困ったことになる「頭数」というのはありそうだし、国の安全保障であったり、国民の生命安全の維持という観点から、そこは何としても国として死守する必要がある。

憲法で言うところの職業選択の自由を侵害するわけにもいかないのだろうが、インセンティブの付与、つまりニンジンを目の前にぶら下げるようなやり方で、ある程度はコントロールできないだろうか。

希望者が少ない分野については、高額の奨学金をエサにするとか、学費をタダにするとか、めでたく就業した暁には就業期間中は特別手当を支給するとかである。

国策として優秀な人材を確保しなければならないのであれば、国もそれくらいの腹を括るべきである。

そもそも、該当する技術なり職能なりを備えた人材が世の中から枯渇してしまった後になって、慌てて高給をエサに人材を探し回ったところで、そもそも存在しないものが急に空から降ってきたり、地面から湧いてくることはない。人材育成には時間がかかる以上、政策的に何らかの手を早め早めに打っておかないと手遅れになってしまう。

そうなったらそうなったで、国として、他国から人材をスカウトして連れてくるくらいの覚悟や度胸があれば別であるが、そちらの方だって、国民感情としてはたぶん難しいであろう。

やはり、まずは自前で人材育成のために取り組むしかない。


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