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百貨店のストライキについて

しばらくサボって記事を更新していなかった。あまり書きたいことがなかったというのもある。

先月末の話なので、既に旧聞に属するが、西武百貨店池袋店のストライキがあった。百貨店としては、実に約60年ぶりのストライキなのだそうである。百貨店というのは、一般消費者相手の商売であり、ブランドイメージがことさらに重要である。にもかかわらず、ストライキを敢行するというのは、自傷行為みたいなものである。

前にも書いたが、僕は百貨店業界には少々うるさい。銀行時代に経営不振の某百貨店の経営再建に携わったことがあるからだ。

そういう立場でモノを言うが、「百貨」店という名称は、もはや「誇大広告」だと思っている。せいぜい、「二十貨」店、「三十貨」店である。高級衣料、高級雑貨等のファッション分野と、あとはデパ地下といった得意分野に活路を見出すしかない。家電、書籍、CD・DVD、家具、医薬品、スポーツ用品、玩具、カジュアル衣料品等の分野は、「カテゴリーキラー」と呼ばれる専門業者に売り場を任せて、「場所貸し業」に徹した方が良い。ただし、得意分野に関しては「目利き力」を活かして専門性や独自性を発揮しなければならない。

西武百貨店池袋店は、今も単独店舗としては、伊勢丹新宿店、阪急本店に次いで売上高で全国3位であるが、バブル期には全国1位だった時期もあり、燦然と輝くイメージがあった。

バブル崩壊後、経営破綻を経て、まるで畑違いなセブン&アイ・ホールディングス傘下に入り、この度、外資(米ファンドのフォートレス・インベストメント・グループ)に売却されることになった。労組からは雇用の確保を迫られ、地元からはヨドバシを低層階に入居させるなとか、外野にいろいろと好き勝手なことを言われているようだが、そもそも業界全体がオワコンな上に、経営破綻を経験してブランドとしても落ち目な西武にあまり過大な期待をしても仕方がないのだ。

外資への売却が決まる前から、近年の西武百貨店池袋店は業績的には厳しい状況が続いている。売上高は15年度辺りを境にずっと低落傾向にあるし、自前の売り場を減らしてテナント面積の比率をアップさせてきている。先ほども、「百貨」店としては業界自体がオワコンなのだから、得意分野で頑張るしかないと書いたが、その際には、消費者にブランドとして支持されることが大前提である。「目利き力」が信頼され、「〇〇百貨店に置いてある商品だから大丈夫」と消費者に思われることが重要なのだ。

言いたくないが、経営破綻した西武・そごうは、ブランドとしては脛に傷を持つ前科者ということになる。イメージを売り物にする業界だけに、そういうのは決して軽視できない。お客さんのところに手土産を持参するとして、三越・伊勢丹と、西武の包み紙のどちらを選択するかとなると、答えは明白であろう。

セブン&アイ・ホールディングスとしては、土地勘のない百貨店など買収したのがそもそもの失策であるが、それを反省して売却するのは決して悪い判断ではない。むしろ遅すぎたくらいである。ついでに言えば、祖業のイトーヨーカ堂だって聖域ではない。食品スーパーとして生き残りを模索するくらいならば、どこかに売却する選択肢もあって良い。

話は戻るが、池袋の駅前に、あんなバカでかい売り場を自前で維持するのが難しくなってきたのは、昨今の西武百貨店池袋店の業績が物語っている。それはオーナーが代わっても基本的には同じであろう。地元もああだこうだと注文をつけるヒマがあれば、自分たちでも具体的な代案を示すべきであろう。たぶん、画期的なアイデアなどない。百貨店に入居しているブランドショップ、ヨドバシをはじめとする各分野の専門店群、そうした自前の競争力を持った店舗が売り場を割拠することになるのだろう。

東京はまだマシであるが、地方の百貨店などは、もはや目も当てられない惨状であろう。24年1月に、島根県の一畑百貨店が閉店して、これで百貨店が1つもない「デパートゼロ県」は、山形、徳島に続いて3例目となる見通しだそうだが、そんなもので終わるはずがない。閉店予備軍はもっとたくさんある。百貨店の商圏が確保できるのは、せいぜい政令指定都市くらいであろうし、さらに言えば、すべての政令指定都市というわけでもない。大手系列に属さない地元の独立系百貨店はいずれすべて廃業する可能性は十分ある。

そういう意味では、今回の西武百貨店池袋店の騒動は、百貨店業界の「終わりの始まり」に過ぎないと思う。労組の幹部も業界の先行きの厳しさに対する認識がまだまだ甘い。いずれ、いちいちストライキなんかしている場合ではないと気がつくに違いない。



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