みんなの部屋フライヤー

(稽古場日誌3)登場人物を立ち上げる

このnoteでは3月に上演したシチュエーションコメディ作品『みんなの部屋・改』内において登場人物が立ち上がるまでにやったことを書いていきます。

稽古当初はとにかくシチュエーションコメディのテンポ感を身体に覚えこませるのが最優先。

役者の気持ちいいテンポと作品にとってベストなテンポは往々にして一致せず、特に笑えるタイミングを作るのが命のシチュエーションコメディで役者の気持ちよさを優先しないよう呼吸の間まで詰めるようかなり細かく意識を共有。
役者同士のやり取りでも、「今の反応の頭に呼吸が半分くらい入ったから詰めたい、もう一回やらせて」的な発言がでたり、稽古後半戦は役者陣もかなり頼もしい。

ただ、テンポが良いだけでは面白いにつながっていかない。

テンポの次にぶつかったのは登場人物がだれなのかわからないことでした。テンポはいいけど、そこに登場人物がどんな人で、何を感じていて、何を考えている人なのか、という情報が伝わってこない。情報がない人は、愛せない(少なくともこの作品においては)。

ベストのテンポ感を維持しつつ、個々の役者が与えられた時間のなかでその登場人物の情報を詰め込んでいく、が次の課題となりました。

登場人物がどんなひとなのか伝える手段として使えるものはあらゆるものがあって、立ち姿、動き、反応のスピード・大きさ、衣装、表情、声質、声の方向、声量などなど台詞の情報以外にもいくらでも伝える手段がある。

テンポをまずは優先したのでそれらの要素をどう載せていけば適切にその登場人物像が伝わるのか役者と解釈をすり合わせつつ進めていきます。

その登場人物のことはその役者が一番よく知っている、どう見せたいか持っていると思っているので基本的にはお任せしつつ、他の登場人物との関係性や作品のバランスを見ながら調整してゆきます。

これでうまくいくか、と思いきやこれがまた面白くならないし、通し稽古を観ても何が起こっているのかさっぱりわからない。

原因はそれぞれの情報が一貫性を欠いていて情報が溜まっていかない、理解するための手掛かりがない状態に陥っていることにあった。

こっからはまたバランスの調整調整調整の連続。
シーン単体ではよくても後ろのシーンとのバランスを考えて少し抑えめに、ただ抑えすぎると面白さが損なわれるからもう少しだけ挙げていこうか、みたいなことを延々と続けていく。

これはやっているうちに本当にこれは面白いのか、の無限自問自答に陥っていくパターンです。本番の幕が開いてお客さんの笑い声を聞くまで結構不安でした。

コメディなのでお客さんが笑ってくれるかくれないか、わりと目に見える(聞こえる)明確な成功失敗基準があるなんて、こんなに怖いジャンルの芝居はなかなかないです。

登場人物をお客さんに知ってもらう、理解してもらう、(もしかしたら)愛してもらう、だから彼らの悪戦苦闘が実感を伴って観ることができる。

本番の結構直前に気づいたのは、割とシンプルだけど他の多くのジャンルの作品と同じく登場人物を立ち上げることの大切さでした。


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