野村周平の底力を見せつけた、真剣で温かみのある社会派ドラマ『結婚相手は抽選で』

全体を通して素晴らしかった。銀林嵐望(大谷亮平)を除いては。

前クール「サバイバル・ウエディング」にタイトルが近似しているためか、ポップコメディ系の作品かと早とちりした人も多いはず。しかし実際は完全に社会派ドラマ。

中学時代のいじめが原因で病的な潔癖症を患い、女性とロクに話もできない宮坂龍彦。これを演じる野村周平がものすごく上手い、ハマり役。『ちはやふる』の少々かっこつけたキャラクターよりも、コミュ障おどおどキャラクターの方がはるかにハマってて驚き。同僚に誘われた合コンで、挨拶もろくにできなかったくせに、流暢にアニメネタを披露してしまったシーン。女性から投げつけられる「キモっ」に憔悴していくさまが、物凄くリアル。野村周平本人の性格からは相当遠いだろうに。

ただし、脱落者続出を心配したくなるほど、前半戦が暗すぎた。トーンも内容もあまりに暗く重たい。潔癖症を気持ち悪がられる龍彦(野村周平)の追い詰められ方、子供を産めない女性の苦しみ、恵まれない外見を吹き飛ばすべく仕事に全力を尽くす女性の悲しみ、それぞれの描かれ方がめちゃくちゃ丁寧なのだが、丁寧すぎかも。内容も演出もガチすぎて、45分間ずっと苦しかった。もう少しメリハリがあれば継続率上がったんじゃないかな。

とはいえ見続ければ少しずつ光が見えてくる。高飛車お嬢の冬村奈々(高梨臨)と龍彦が出会った瞬間から、ようやく温度が上がり楽しいドラマになってくる。人間不信だった龍彦に笑みが溢れる瞬間、わざと男性に嫌われようとして心を開かなかった奈々が龍彦をぐいぐい引っ張るシーン。この二人の取り合わせは、ちぐはぐでお似合いで、ずっと見ていられる幸福感があった。

「抽選見合い結婚法」を通して浮き彫りになるトランスジェンダーやLGBTの問題。それを社会として政治として個人としてどう受け止めるか。難しい課題を真面目に丁寧に描きつつ、最終的なカタルシスを生み出す展開。全体を通してとても真剣で心温まる、非常に良い作品だったと思う。

銀林嵐望(大谷亮平)を除けば。あれは本当にいただけない。

嵐望は育ちよし、顔よし、仕事能力よし、高身長、とにかく悪いとこなしのイケメン設定。だがしかしタイへの赴任時、現地女性との子供ができて連れ帰ることもできずにいたという秘密を抱える。彼が惚れた鈴掛好美(佐津川愛美)にそれを告白すると、「隠し子がいたなんて」と拒否反応を示され逃げられる。嵐望は彼女のもとを去るが、佐津川愛美のお腹には新たな生命が…。

いや避妊しろよまじで。気持ち悪すぎる。そして何が一番気持ち悪いって、この見境なく女を孕ませる馬鹿男に対して、全くお咎め無しでドラマが進んでいくこと。「表では真面目に働く高収入男子だけど、実は酒に溺れて少々暴れがち」「優しいけど、親密になった女性には向ける軽いDV気質」とか、そういう表現があれば全然いい。ちょっと難ありでも心を開いた以上は愛す選択肢だってあるだろうから、完璧ボーイの「内面的なキズ」をちゃんと描いてくれればすんなり受け入れられた。

だが実際は「真っ直ぐに佐津川愛美を愛する誠実極まりない男性」像のままで話を進めるから気持ち悪い。実際の行動は未婚の女性を孕ませまくる見境のない男性であるのに、キャラクター設定は誠実なまま、というズレが酷すぎて本当に見ていて不愉快だった。脚本の中で(原作はどうか知らないが)行動とキャラクターをもう少し近づけてくれればこの不快感はなかったと思う。せっかく素晴らしいドラマなのに、一人のキャラクターの描き方の甘さで台無し。

とにかく、一点を除けば非常に良作でした。いまいち話題にならなかったのがとても残念。今後もダークホース投げてくるかも知れないので、東海テレビ作品は要チェックです。

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