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読書記録。くもをさがす

西加奈子『くもをさがす』を読んだ。

以前から気になってはいたけれど、同年代の人のノンフィクションのがんの闘病記だと思うと、やはり怖くて読めずにいた。

それが、目に鮮やかな黄色の本を実際に手に取ると、なんだか読みたくなってきた。

諸表の一つにこのような文章があった。

読みながら泣きそうで、でも一滴も泣かなかった。そこにはあまりにもまっすぐな精神と肉体と視線があって、私はその神々しさにただ圧倒され続けていた。

金原ひとみ(作家)

その通りだった。

関西弁のカナダ人たちが読み手の恐怖を軽減してくれているのは確か。それでも、淡々と綴られる筆者の言葉が嘘偽りのない言葉であり、日々病気や自分と向き合うということはこういうことなんだと感じさせ、泣いている場合ではなく、筆者の想いについていくのに必死になった。

治療後も感じている恐怖。きっと現在進行形だろう。ハッピーエンドで終わっているわけではなく、生活は続いている。そんなところからも、涙涙の闘病記ではなく、だからこそ、読者に日々生きることを考えさせてくれるのだろう。

私は、ケチなのかもしれない。この美しい瞬間のことは、きっと書くべきだ、皆に知ってもらうべきだ、そう思う心のどこかで、強く、「教えたくない」と思っていた。本当に、本当に美しい瞬間は、私だけのものにしたい。誰にも教えたくない。こんなにこの文章を読んで欲しいと願った「あなた」にもだ。

西加奈子『くもをさがす』

本当に美しい瞬間とはどんなものなのだろう。それを書いてくれていたら、涙が出ていたのかもしれない。

違うタイミングで読んだら、また違った感情を抱くかもしれない。今回は私の中では腑に落ちていない言葉も多く、不完全燃焼。だから、またもう少し歳を重ねたときに読みたいと思う。

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