きれいなのはきれいな言葉だけじゃない

小学4年生の時に、祖母について書いた作文が、市だか県だかの文集に載った。

祖母が入院し、そのお見舞いに行った時のことを書いた作文だ。「早く元気になってほしいです」。そう結ばれた文章を読んで「涙が出ちゃったよ」と、先生はほめてくれたけれど、私はちっとも嬉しくなかった。

実のところ、私は祖母のことがあまり、というか全然、好きではなかったし、早く元気になってほしいなんて、1ミリも思っていなかった。それなのに、「早く元気になってほしいです」なんて書いたのは、「大人は、こういうのがほしいんでしょ」と思っていたからではなくて(ちょっとは思っていたかもしれないけれど)、そういう書き方しか知らなかったからだ。

教科書と童話ばかり読んでいたその頃の私にとって、文章を書くとは、なにか「きれいっぽい」ものを並べることでしかなかった。それ以外の文章なんて、思いつきもしなかった。

中学2年生の時の国語教師は、元レーサーだった。事故で右手の指を何本か失っていたけれど、残された指で器用にチョークを持ち、黒板にとても美しい文字を書いた。私は彼の授業が大好きだった。

それは詩をつくる授業だった。雨を題材に、生徒たちはそれぞれ詩をつくった。私は美しいと感じる言葉をつなぎ合わせ、ノートに並べ、自信満々に前を向いた。教壇に立っていた教師は、私と目が合うと、歩いて私の席の隣に立ち、ノートを覗き込んだ。そして、私の詩をよんでから、静かに「とてもきれいだけど、すぐに忘れちゃいそうな詩だね」と言ったのだ。教師の顔を仰ぎ見ると、彼は「きれいなのはきれいな言葉だけじゃないよ」と教えてくれた。

次の授業で、書き直した詩を提出すると、国語教師は、大きく笑って、「とてもいい」と言ってくれた。

私は、その詩を今も覚えている。

今でも、時々、祖母の作文を書いた時みたいに、苦い気持ちになる文章を書いてしまうことがある。そんな時には、国語教師の言葉を思い出し、静かにデリートキーを押すのだ。

私は彼を笑顔にする言葉が書きたい。

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