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イラストレーター かりそめのコンセプト「ゆるぽかん」を決めるまで

私は「かりそめ」という名義でイラストレーターをしている、ひとりの女性です。身長はちょっと高めで、髪の毛は短めです。最近は公園でお弁当を食べたり、知り合いと立ち話をしたり、自然を愛でたりと、老後みたいな生活をしています。でも世間ではまだ若いと言われる年頃です。(いや、びみょうかも。)

こんな私ですが最近、活動を応援してくれている友人から、「なんかがんばってるね。どんな心境の変化があったの?」としばしば聞かれます。

そう言われた所以は最近、Instagramのビジュアルを一掃したり(今までの投稿はすべてアーカイブに移した)、twitterもはじめてみたり、更新頻度も格段に増やしたりと、とにかくいろいろ目に見えて変わっているからだと思われます。

先月・4月に「かりそめ」の活動についてコンセプトを決めたことをきっかけに、自分の発信も合わせて変えていく必要があったのです。

急にそんなに変わったもんだから、友人はきっと疑問に思ったのでしょう。そのときはとっさに聞かれて、なんだかうまく答えられなかったので、文章にしてみようと思います。私が一人で絵を描いて活動することになった経緯についても振り返りながら、コンセプトを決めるにいたるまで。少し長くなりますが、お付き合いください。


アートと無縁のおつとめ時代

時はさかのぼり、2018年。
私は新卒でちょっとお堅めな職場に就職して、4年くらいのあいだ、事務職をしていました。毎月のルーティンに沿って書類を整理したり、データをチェックしたり、それはまあデザインやイラストとはかけ離れた日々です。

無機質なデスクに、部屋に、事務服。それでも、気分を上げるためにかわいい文具を飾ったり、自分の資料はデザインをちょっと工夫したり、お気に入りのピアスをしておしゃれを楽しんだりしてました。そのときは、そういう環境面は仕方ないと思って大きく問題視してなかったんだけど、今思うと一つ一つが心に影を落としていたんだろうな。

2021年の秋、その職場をやめました。人間関係も、良いときもあれば悪いときもあったってかんじで、直接的な理由ではなかったかな。一番の理由は、このまま続けても、私がなりたい大人になれないと思ったからです。失敗するかもしれないけど、好きなことを仕事にしてみたかった。


やりたかったことはもちろん…?

そのときやってみたかったことは、「飲食店経営」です。これまた全然、今やってることとちがう。自分の好みで素敵な店内をつくって、一人で、のびのびやっていきたいな〜と思っていました(今は、そんな甘くないと分かっています)。

前の職場に勤めながら、半年間ですが週1で学校にも通い、店舗経営の勉強もしてました。退職後は、どこか飲食店で何年か修行しつつお金を貯めて、自分のお店を開こうと思ってた。なので、辞める前の有給消化期間は、働き先を探す毎日でした。気になるお店に行って、料理を食べて、メモをして…(きょろきょろしていて怪しかったかも)。

週5日フルで働いていた人が、急に暇になることは結構しんどいです。次のやることが決まってなければなおさら。だから、今思うと毎日せかせかしていました。でも、働きたいお店があってもタイミングが合わなかったりで、職探しはなかなかうまく行かなかった。


「かりそめ」 爆誕

そんな時期に、好きな店員さんがお店を辞めるというので会いに行った日がありました。話をきくと、彼女はものづくりが好きで、その道に進むとのこと。それだけでも当時の私には眩しく思ったのですが、それと並行して、語学も好きだから先生の仕事もしたい、と言ったのです。他にもいろいろやりたいことがあるんだ、と楽しそうに話していました。

「2個やるのも、ありなのー!」
と、目からウロコでした。感動するとすぐ影響されるので、「私もものづくりが好きだし、お店をやりながらものづくり、していきたいな〜。自分のお店で売ったりもして…」とまたたく間に妄想が広がっていきました。
当時、ピアスづくりにハマっていたので、それを売ってみたいな、と思い立ち。それで生まれたのが「かりそめ」です。

「やるならちゃんとコンセプトを決めたい!」と、いっちょ前に店舗経営の勉強をした知識をひっぱり出し、ノートにいろいろアイディアを描き出しました。そう、実ははじめにコンセプトはつくっていたんです。

お気に入りをもうひとつ。
明日は何にでもなれる、
今は かりそめ のわたしたちへ。

これが、当時のコンセプトです。いちいち説明するのも恥ずかしいのですが、説明しますね。

”お気に入りをもうひとつ”
「お気に入り」と出会って心がときめくことは、私にとって幸せな瞬間のひとつです。だから、自分でつくったものが誰かにとってのお気に入りとなり、生活を彩ってほしいと思いました。

”明日は何にでもなれる、
今は かりそめ のわたしたちへ。”

やっぱりものづくりが好きなので、ピアスだけじゃなくて、絵を描いてグッズにしたりもしたいし、つくった曲を発表したりもしていきたいと思っていました(それは今も)。今まで好きなことと離れて遠回りしてきた自分が、何にでもなれるような場所をつくりたかった。また、そんな自分の活動をとおして、自分みたいな誰かに「私にもできそう!」と思ってほしかった。

この思いは、今でも変わらず根底にあり、大切にしています。でもこれはどちらかというと、自分に向けたメッセージ。私は、放っておくと私を雑に扱ってしまうので…。みんなそうかな。明るい未来を思っていた、黙々と絵を描いていた、小さなころの自分を抱きしめるように活動を続けていきたいと思っています。


飲食店経営の夢はどこへ?やりたいことが見えた

ピアスは、なんとか近所のお店に売り込みしに行ったら置いてもらえることになりました。事前連絡もせず、今となっては不躾すぎて、穴があったら入りたい。ごめんなさいすぎます。(幸い、その雑貨屋さんとは良好な関係を築き、今でもたいへんお世話になっています。)
そのときは、つくったピアスと、シルクスクリーン・リソグラフ印刷でつくったポストカードを置いてもらっていました。

自分がつくったものが売れるということ。
それは、とてつもなく嬉しく、何にも代えがたい体験です。思い付きで作家活動をはじめたはいいものの、一人で黙々とつくっていると、だんだん「こんなもの誰が買うのか」「必要とされてないことに時間を費やしている」と、どん底ネガティブモードになり、不安になります。一つでも誰かが作品を買ってくれたという事実は、それを吹き飛ばすには、じゅうぶんです。売れるって、愛です。

それで、今、全くピアスはつくってないんですが、同じ名義でイラストを描く仕事をしています。やっぱり、仕事として続けていけるかどうかはやってみないと分からないものですね。ピアスの説明書や、ショップカードをつくったりしているうちに、「こっちのほうが好きだな、向いてるな」って気付いたんです。

私がやっていたピアス作りは、既存のパーツを繋げるものだったので、個性を出すのに限りがあった。あと、同じものを何個もつくる作業が辛く感じてしまっていました。一つ作り終わったあと、もう片耳分つくるのでさえ気がすすまなかったくらいです。自分がつけたいものをポンッとつくるのはいいけど、商品としてつくっていくのが苦しくなってしまいました。

それで、もう一つ気付いたことがあります。飲食店経営をやりたいと思っていた理由です。お店を自分好みにしたり、ロゴやショップカードをつくったり…。私はそういうことがしたいんじゃないかって。料理は好きだけど、私がお客さんに言ってもらいたいのは、「美味しい」より「かわいい」だな、って。

自分のお店をつくれば、好きに絵を描いて、デザインできる。そう思ったんですね。また私は知らずのうちに、それを仕事にしていくことを諦めていた。それに気付いて、進もうとしていた道の軌道修正をしました。


はじめの仕事まで、試行錯誤の日々

いつかイラスト関係の仕事だけでやっていけるようになれたらいいな、と思いつつも、すぐにそうなれる見込みもないので、並行してアルバイトをしつつ「かりそめ」を続けていました。

はじめのころは絵を描いてSNSで発信したり、ロゴデザインなどのコンペに応募したりしていましたが、箸にも棒にもかからず状態です。よく言いますが、はじめの仕事を受けるまでがほんと〜〜に大変。気持ちの維持も大変です。私の場合はすべてが独学で、試行錯誤だったので、効率も悪かったのだと思います。

ひとつめの仕事を任せてくれたのは、SNSで知り合った方です。デザインの募集をしていたところに名乗りをあげたら、数ある応募の中から、私の過去の作品を見て採用してくれました。対面で打ち合わせもして、納品したデザインもとても喜んでくれて…。ちょっと前の自分には考えられないような、ちゃんとした「仕事」を経験できました。

そこからは、ぽつりぽつり、というかんじですが段々と依頼が入るようになり、流れなんかも掴んできました。退職してから、積極的に人と知り合ったりコミュニティに所属したりしていたことも、のちのち報われています。はじめに依頼してくれた人がつないでくれたり、そこからまた繋がりができたり。オンライン上でももちろん仕事はするのですが、人と実際会う以上のことはやっぱりないと思います。


「なにしているの?」の質問がこわかった

そんなかんじで、「かりそめ」として仕事はしていたのですが、いざ「何をやっているの?」と聞かれると、うまく答えられませんでした。依頼も少なく、はじめは何でも嬉しかったので、分別なくできることをやっていたということもあります。イラストレーターなのか?デザイナーなのか?クリエイターなのか?自分が何なのか、分からないのは常に悩みでした。決めようとしても、毎日自分の気持ちが変わっていました。

”いつでも何にでもなれる”「かりそめ」なのだから、あえて決めなくてもいいのでは?と、思ったり。でも、そもそもこのコンセプトもしっくり来なくなってきて、大々的に出すことをやめていました。

はじめは、「仕事でイラストを描いたり、デザインをする」…その夢が叶った事実だけでお腹いっぱいだった。でも仕事としてやってみると、実際やりがいに感じるのは「その先」です。自分が描いたものを見て喜んでもらったり、誰かにとってプラスな影響を与えたりすること。

その後、並行していたアルバイトも辞めて、イラストやデザイン専業になりました。それが2022年の暮れくらい。それにともなって、より本腰を入れてテコを入れて行かなければ、という意識になっていきます。


ブランニュー「かりそめ」!

フリーでやっていく、となると当然お金のことも考えなければならないので、マーケティングやブランディングもひととおり勉強したり、敬遠していた、「仕事」というジャンルの本を読んだり…。それで、いろいろな側面から自分の現在の活動を見て、分析して、どうなっていきたいのかを考えました。

「自分の仕事をとおしてみんなにどうなってほしいのか」を考えたとき、「肩肘張らない」「力が抜けた」「ラフに」「心穏やか」…そんな、ゆる〜っとした言葉がたくさん出てきました。自分もそうありたいってことなんですが、これはルールや他人の目線に縛られていたお勤め時代、さかのぼって学生時代のときから感じていた辛さがベースにあるなあと思います。

描く絵にも、少なくともそれは反映されていて、他人に全く左右されないマイペースで、おだやかな雰囲気をまとっているように思います。2023年のはじめ、個展をしたこともそのヒントになりました。自分の絵を見て、みんながどう感じるのか。ありがたいことにたくさんの感想をいただいて、「温かい」「じんわり」「ゆるい」「ぽかんとした」…そんな言葉が多かったんです。

で、決めました。仕事として絵を描いたりデザインしたりするようになってから、ずーっと決めたかったコンセプトを。

ゆるぽかん、と人をつなぐイラストレーター

これが、新しい「かりそめ」のコンセプトです。

"ゆるぽかん"
聞いたことのない言葉だと思います。なぜなら私がつくったからです。
意味はだいたいお察しのとおりです。

"ゆるぽかん、と人をつなぐ"
自分が今までやった仕事で、特に楽しいな〜と思ったものも、注意喚起をやんわり伝えるようなもの、暗いイメージを抱かれやすい業種のチラシを明るいイメージでつくること、ビジネス!な場面で使われる名刺に似顔絵を添えて雰囲気を和ませること…、そういうものでした。マイナスをプラスに変えるようなものなのかな。そして、それをきっかけに人と人とをつなぐもの。そういうことの一つ一つがきっと、私がそうあってほしい「肩肘張らない」「おだやかな」世界をつくることにつながるのかな、と思います。

イラストレーターと名乗ることにしたけど、今までどおりデザインもします。そう名乗ることにしたのは、デザインするとき、基本的に私は自分の描いた文字や絵を使うからです。そこに私の味があり、強みがあると思っています。それに、せっかくのオーダーメイドなら、他にはない一つだけのものをつくりたい。あくまで絵を描くことをベースに、仕事をしていこうと思っています。


おわりに

すごく長くなってしまいましたが、書きながら、自分でも整理できました。はじめのラフな自己紹介から、うっかり読みはじめてしまった人、後悔してないかな…大丈夫かな。でも、読んでほしくて書いたんです。ここまで読んでくれて、ありがとうございます。これが「かりそめ」はじまりの物語です。
そんなに売れっ子でもないので、「事務職OLが月50万稼ぐまで」みたいな成り上がり物語のような結末も、ノウハウもなく申し訳ないです。いつか成り上がれたら書こうかな。

友人よ、また、急に私がせかせかと動き出して「どうした?」と思っている人よ。こういう心境の変化があったのでした。


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