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「製造業のまち」がサステナビリティに取り組むべき理由とは?【イベントレポート#1】

ものづくりのまちとして、自動車関連をはじめとした製造業が集積している愛知県刈谷市。

2050年までにCO2排出量を実質ゼロを目指す「ゼロカーボンシティ」を目指すことが宣言されるなど、同市は「製造業のまち」の責務として、サステナビリティに関する取り組みを重視しています。

2022年、新たな取り組みとして「サステナビリティアクションプロジェクト」が立ち上がりました。これは、刈谷市を日本No.1の地球にやさしいまちにすることをめざし、刈谷市の社会人・学生が共にあるべき未来を構想する事業です。

同年12月には、刈谷市内の企業に勤める社会人等を対象として、サステナビリティに取り組む2名のゲストを招いた講演会を実施。先進事例をもとに、最新のトレンドや工場を持っている製造業の取り組みや考え方について考えを深めました。

今回のnoteでは、講演会の内容を中心にレポートをお届けします。

サステナビリティ・アクションプロジェクトとは
2022年に刈谷市で開始した、市内企業に勤める社会人、高校生・大学生等を対象として、社会起業家やサステナビリティに関する先進的な事業者の取り組みを体感する機会を提供し、日本で最も地球にやさしい生き方や企業活動を創出することを目指したプロジェクトです。
詳細:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000025.000062589.html

なぜ、今「サステナビリティ」が重要視されているのか

まずはKIBOW社会投資ファンドで「インパクト投資」に取り組む松井さんから、サステナビリティを取り巻く潮流についてお話いただきました。

サステナビリティが重要視されるようになってきた背景は、「社会課題の顕在化」と「キャリア観の変化」の2点にあるのではないかと語ります。

松井 孝憲(まつい たかのり)氏
KIBOW社会投資ファンド インベストメント・プロフェッショナル

大学院修了後、株式会社シグマクシスで事業立案、人事・人材開発プロジェクト等に従事。並行してNPO法人二枚目の名刺へ参画、常務理事として活動。社会人とNPOが協働し社会課題解決に取り組む「NPOサポートプロジェクト」を運営。
グロービスに参画後、KIBOW社会投資のインベストメント・プロフェッショナルとして、社会起業家への投資と経営支援を行う。主な支援先は、(株)バオバブ(社外取締役)、エースチャイルド(株)、等。

松井:背景の1つ目は「社会課題の顕在化」。東京には、六本木や表参道のようにお金持ちの方が集まる場所もありながら、その隣にはホームレス状態の方々が集まる場所があったりします。

愛知県はまだ格差が見えづらく、豊かだと感じる方が多いのではないでしょうか。今の東京の姿は、これから愛知県でも起こりえるものです。

2つ目は「キャリア観の変化」。ジェネレーションXの人たちは、企業で勤めてキャリアを作り、家庭を持つことが幸せであるという大きな物語がありました。

一方で、今のミレニアル世代より下の世代は、生涯1つの会社に勤め続ける感覚が少しずつなくなりつつあり、より軽やかに生きている感覚を持っていると感じています。

これはどっちが良い悪いという話ではなくて、そういう変化が起こりつつあるということ。サステナビリティという大きなトレンドに向けた変化をしっかり捉えていく必要があると思っています。

社会課題解決を支える金融スキーム「インパクト投資」

このような社会状況の変化を受けて、社会課題解決と経済的リターンの両方を追求する「インパクト投資」という手法が発展していることについて共有いただきました。

松井:「インパクト投資」は、社会課題を解決する事業に対して投資をするという金融スキーム。社会課題解決と経済的リターンの二つを追求し、ビジネスとして持続的に社会課題解決に向かっていくことを可能にする仕組みです。

これまで社会課題解決の主体者は、寄付を中心とするNPOでした。しかし、中にはそれだけでは活動が大きくならなかったり、継続性がないケースもあります。

松井:継続が難しい活動を大きくしていくために、僕はビジネスの力が必要だと思っています。私がお伝えしたいのは、社会性と事業性は両立するということです。

寄付や助成金ではなくて、我々は事業に対して投資をすることで、社会課題の解決に取り組んでいます。

「社会にいいこと」を大きくしていくなら、ビジネスとして儲けて欲しい。能力をつけてほしい。そして事業を拡大してほしい。そんな思いをもって「インパクト投資」という活動をしています。

製造業として取り組むサステナブルなモノづくり〜ARASという新規事業〜

続いて、製造業の立場からサステナビリティを体現した事業に取り組む石川氏より、石川樹脂工業株式会社が取り組んでいるARAS(エイラス)という新規事業についてお話いただきました。

まずは、今の時代だからこそ取り組むべき新規事業とサステナブルなモノづくりについて語ります。

石川 勤(いしかわ つとむ)氏
石川樹脂工業株式会社 専務取締役
1984年生まれ。東京大学工学部を卒業後、世界最大の消費財メーカー Procter & Gambleに入社し、約10年間勤務。主に、経営戦略、経営管理、財務会計などに従事。日本での数年間の経験後、シンガポールに転勤。アジア全体の消臭剤・台所用洗剤の経営戦略に携わる。その後、帰国し日本CFOの右腕として、従事。“自分の手で、ものづくりをしたい”と一念発起し、自分の親の会社である現職につく。

石川:今は、予測不能で変化の多い時代です。実は変化が多い時こそ、ポイントを抑えれば新規事業は立ち上がりやすいです。今の時代の3つのキーワードとして、GX(グリーントランスフォーメーション)(*1)、DX(デジタルトランスフォーメーション)(*2)、D2C(Direct to Consumer)(*3)があります。

「トランスフォーメーション」とは、単にデジタル技術を投入して生産管理がデジタル化されたとか、そういう次元の話をしているのではありません。企業としてサプライチェーンとしての形が大きく変わることを指します。

(*1) GX:温室効果ガス排出削減目標の達成に向けた取り組みを経済の成長の機会と捉え、排出削減と産業競争力の向上の実現に向けた、経済社会システム全体の変革のこと。
(*2) DX:企業が、ビッグデータなどのデータとAIやIoTを始めとするデジタル技術を活用して、業務プロセスを改善していくだけでなく、製品やサービス、ビジネスモデルそのものを変革するとともに、組織、企業文化、風土をも改革し、競争上の優位性を確立すること。
(*3) D2C:メーカーが自社の商材を自社ECサイト上で直接消費者向けに販売するモデルのこと

石川:悪者にされがちなプラスチックですが、樹脂だからできるサステナブルの提案があると信じています。そのような考え方で作ったのが、ARAS(エイラス)という商品です。

1,000回落としても割れない、耐久性を持った素材を選んでいます。当然ながら環境に配慮しており、リサイクル可能な素材を新開発して、これからの社会に寄り添うことをコンセプトに作りました。

製造業だからこそのサステナビリティのあり方

続いて、ARASの事例をもとに、自社工場を持っていることの強みについて共有いただきました。

石川:自社工場で作るということは、素材の選定を適切にできる点で、大きな強みだと思っています。石川樹脂工業は長く使えることがサステナブルな取り組みだと考えており、ARASにもリサイクル可能な素材を用いています。

もし協力会社で製造をした場合、どうしても「そのリサイクル素材は使えないよ」といった発想になってしまいがちです。我々は回収した素材を捨てるのではなくて、少しでも回収してリサイクルを行うようにしてます。

さらに、自社工場だから出来るサステナブルな取り組みとして、梱包資材の簡素化をしたり、杉の間伐をした時に廃棄する皮を配合した樹脂を使用したりもしています。

また、新規事業を立ち上げたことでよかった点についても共有をしていただきました。ARASは社外の人も巻き込んだプロジェクトだったと言います。

石川:新しい素材の提案や新しい価値の提案というのは、なかなか素早くできません。OEM(*4)だとサステナビリティに取り組もうとしても、工程の改善以外でできることがあまりないんです。提案をしても「親会社に聞かないとできません」と言われがちだと思います。

自社ブランドとして新規事業を立ち上げていくと、自分たちで決めさえすれば動いていくので、迅速かつ柔軟に対応できることが特徴です。

PDCA(Plan・Do・Check・Action)というものがありますが、新規事業で大事なのは、Do(実行)・Check(評価)・Action(改善)。どんどん失敗して反省して分析して、次どうしようというのは、スモールアクションだからこそできると思います。

色々な人と協力しないと新規事業というのはできません。石川樹脂工業ではARASを通して、外部人材との連携がすごく強化されましたし、開かれた会社に少しずつなってきたと思っています。 これは本当に想像以上に嬉しいところです。

(*4) OEM:委託者のブランドで製品を生産すること、または生産するメーカーのこと。

講師のお二人からのメッセージ

最後に、登壇者のお二人より、刈谷市のものづくり企業に対してメッセージをいただきました。

松井:刈谷市がこれまで培ってきた財産やリソースを使って、メーカーであることの特性を最大限生かしてもらえると嬉しいなと思います。私自身、愛知県の出身としてその強みをすごく誇らしく思っています。

その強みが活きる場所は、社会課題や環境などに必ずあります。そうしたヒントが、次の進む時の道しるべになるといいなと思っています。

石川:刈谷市は本当に素晴らしいものづくりの技術がある地域だと思っているので、その強みは絶対に活かせると思います。

人間が人間である以上、物理的な物は必要です。ということは人間が人間である限り、皆デジタル化されない限り、ものづくりは永久になくならなりません。

ただ、自動車は電気自動車になるかもしれないし、自動車は姿形が変わるかもしれません。今の時代に合ったもの、売り方、顧客というのが絶対にあるはずなので、物はなくならないけど、その周辺は変わっていくということを理解してやっていくと、必ず何か答えがあると思います。

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講演終了後には、ARASの商品を手にして集合写真を撮影しました。イベントが終わった後も会場に残って、交流をしている参加者の姿が印象的だったと感じています。

今回はサステナビリティに取り組む2名のお話を聞く中で、ものづくり企業の集積地である刈谷市だからこそできるサステナビリティ・アクションの可能性をとても感じます。

今後の刈谷市の企業の取り組みが非常に楽しみであると同時に、UNERIとしてもその機運醸成の一役を担い、今後の刈谷市のサステナビリティの後押しをできるように頑張っていきたいと思います。

(記事執筆:佐竹宏平


※学生向けイベントのレポートも公開しております。詳細は下記よりご覧ください。

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