ダメになる会話「腹話術ショー」

お兄さん「こんにちは!今日はお兄さんとケンちゃんのショーを見に来てくれて、どうもありがとう!」

ケン人形「いい年こいて定職にもつかず、人形に向かってひとり言を言い続ける物悲しいショーの始まりだよー!」

お兄さん「ケンちゃん!そういう言い方はよくないなあ。これは腹話術って言う、立派な芸なんだよ。」

ケン人形「何言ってやんでえ!腹話術ってのは、人形が話してるように見せかけて、本当はお兄さんが口を動かさずにしゃべってるっていうアレじゃねえか!」

お兄さん「うわぁ、開始5秒で全部バラしちゃったよ。いや、まあそうなんだけど、それは言わない約束なんだよ。見てる人もそこはわかってるけど気付かないフリで二人の会話を楽しむっていうのが、腹話術の楽しみ方ってもんなんだよ。」

ケン人形「なんだよ!見る方も承知の上で見るなら、そこには1ミリのファンタジーもありゃしないじゃないか!」

お兄さん「いや大人はそうだけど、ほら、純真な子供たちは『わあ~お人形がしゃべってる!ふしぎー!』ってなるからさ、そういう夢のある芸なんだよ。」

ケン人形「そうなのかよ!じゃあ子供たちには多少はファンタジーを感じてもらえるわけだな!」

お兄さん「うん、まあ、そのファンタジーをたった今ケンちゃんが打ち砕いたけどね。」

ケン人形「まあ気にすんな!子供の夢なんて砕かれてナンボだ。」

お兄さん「そんな事無いよ!それじゃ子供に厳しすぎるよ!子供の夢は大事にしてあげないと。」

ケン人形「冗談だよ!こう見えて子供には優しいんだぜ?」

お兄さん「本当かい?ちょっと信じられないなあ。」

ケン人形「じゃあさ!迷子の子供に親切にするところを見せてあげるよ!」

お兄さん「え、急にそんなこと言われても都合よく迷子の子供なんて見つからないよ?」

ケン人形「まってろ、その辺の親子連れから子供をかっさらってくるから。」

お兄さん「マッチポンプすぎるよっ! しかもそれ迷子じゃなくて誘拐だよ!」

ケン人形「そうか、えーと、この場合は親の方をさらえばいいのか?」

お兄さん「もういいよ!そのプランは改良しても正解にたどり着かないよ!」

ケン人形「ちぇっ、なんだい。じゃあお兄さんは子供を喜ばせた事はあるのかい?」

お兄さん「もちろんあるさ! すごく喜ばれた事があるんだよ。」

ケン人形「えー?ほんとにぃ?」

お兄さん「本当さ。しかも、それがこのお仕事をはじめたきっかけなんだ。」

ケン人形「へえ~!面白そう!そのお話聞かせてよ!」

お兄さん「あれはね、お兄さんが失業して餓死寸前だった時のことだよ。」

ケン人形「うわぁ、予想以上に悲しい出だしだぁ。」

お兄さん「歩く気力も失って道路の脇にすわりこんでいたら、目の前にアイスを食べながら歩いてる子供がいたんだ。」

ケン人形「子供よりお兄さんの健康状態が気になってしかたがない!」

お兄さん「そしたらその子、手を滑らせてアイスを落としちゃったんたよね。すごく悲しそうにしてたけど、諦めて立ち去ったんだよ。」

ケン人形「あれ~?子供を喜ばせた話じゃないの?」

お兄さん「ところがさ!そのアイスを拾って食べたら、なんとアイスの棒に『当たり』って書いてあったんだ!」

ケン人形「拾って食べたところはスルーしていいのかな?」

お兄さん「その子を探しだして『さっきのアイス、当たってたよ!』って渡してあげた時のその子の顔!」

ケン人形「えー、それで喜んだの?」

お兄さん「ものすごい苦笑いだった。」

ケン人形「ダメじゃねぇかっ!」

お兄さん「なにかお礼がしたくて、たまたま持ってた小さな人形で、腹話術のマネ事をしてみせたんだ。」

ケン人形「そんなんで うまく出来たの?」

お兄さん「初めてだったし、全然ヘタクソだったよ。でもその子、すごく喜んでくれたんだ。満面の笑顔でね。」

ケン人形「そうだったんだぁ。」

お兄さん「その時、お兄さん思ったんだ。」

ケン人形「嬉しかったんだね!」

お兄さん「子供チョロいなって。」

ケン人形「オマエ最低だなっ!」

-END-


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