ダメになる会話「剣豪二人」

剣豪1「後をつけておる者、すでに気取られておるぞ。出て参られい。」

剣豪2「さすがは名のある剣豪。こうも簡単に気づかれてしまうとは
   私も焼きがまわりましたな。」

剣豪1「うむ、というか、どれだけ気配を消していても、真っ赤な羽織に
    黄色のマフラー、鈴のついた下駄で笛を吹きながらついて
    こられたら、気づくとかいう以前の問題でござる。」

剣豪2「ふふふ、さすがに笛はまずかったか。」

剣豪1「いや、笛だけ反省されても全然足りないでござるが。」

剣豪2「しかし、こうなっては仕方がない。そなたのお命、頂戴いたす。」

剣豪1「む…顔に見覚えはなし、誰ぞのかたき討ちでも引き受けられたか。」

剣豪2「とぼけても無駄なこと。懐に隠した物をこちらに渡してもらおう!」

剣豪1「なに?! しかし、これは…」

剣豪2「渡せぬというなら、奪うまでよ!」

剣豪1「まて、こんなもので良いなら渡してもかまわぬが……
    食べかけの団子だぞ?」

剣豪2「うむ、先ほどから腹が減ってな。腹が減っては戦はできぬと
    申すであろう?」

剣豪1「これから戦に向かわれるのか?」

剣豪2「いや、団子をくったら、そなたを斬る。」

剣豪1「…じゃあ、あげない。」

剣豪2「なにぃっ!?」

剣豪1「心底驚いた顔をしておるが、当たり前であろう!?
    腹が満ちたら切りかかってくる相手に、なんでわざわざ
    団子をわたさねばならんのだ!」

剣豪2「いいではないか!食べかけた団子くらい!金か?!
    金が欲しいと申すか?!」

剣豪1「いやだから、そんな事はいうておらんだろうが!
    あれか?団子を渡せば、斬り合いをせずに済むのか?」

剣豪2「そういうわけにはいかん。」

剣豪1「なぜだ?」

剣豪2「黒岩鉄斎どのから、貴様を暗殺するように依頼されたのでな。
    もう前金ももらってしまった。」

剣豪1「なに?!鉄斎様が!」

剣豪2「ちなみに黒岩殿の依頼ということは絶対に内密にとの事だ。」

剣豪1「さては先日の騒ぎの黒幕は鉄斎であったか。」

剣豪2「………」

剣豪1「………」

剣豪2「おのれぇ!秘密を聞かれたからには生かしておくわけにはいかぬ!」

剣豪1「ええ?!俺のせいなの?そなた、かなり自発的にバクロして
    おったではないか!?」

剣豪2「だまれだまれっ! 観念して団子を渡せいっ!」

剣豪1「まだ団子かよ! どんだけ腹減ってんだ!」

剣豪2「もう何日も飲まず食わずで力が出ないのだ!」

剣豪1「なぜでござる? 前金はもらったのであろう。」

剣豪2「貴様の後をつけていたら、貴様が立ち寄った呉服屋でシャレた
    赤い羽織を見つけ、思わず買ってしまった。」

剣豪1「あの時からいたのか。けっこう前だぞ。」

剣豪2「その後、貴様が立ち寄る店々で、小洒落たマフラー、
    可愛い鈴のついた下駄、いい音のする笛と、たて続けに買い物して
    しまったら、前金を使い果たしてしまったのでござる!
    どうしてくれる!」

剣豪1「完全に自業自得でござる!1ミリもせっしゃのせいでは
    無いではないか!」

剣豪2「だって、今まで貧乏だったから、欲しいものがなかなか
    買えなかったでござる!たまに小金を手にした時くらい
    ハメをはずしたいでござる!」

剣豪1「そなたがハメを外したければ存分に外せばよかろう!
    せっしゃの知ったことではないでござる!もう行くぞ!」

剣豪2「まて!団子を!その団子を置いていかねば、ここで腹を斬るぞ!」

剣豪1「なんなんでござるか!?なんで私の命を取りに来た者が
    自分の命をたてに団子を欲しがってるでござるか!
    ああもう面倒くさい!こうなったら団子などくれてやる!
    その後でカタナのサビに…あっ」

剣豪2「ああっ!団子落っことしちゃった!」

剣豪1「…なんでごさるか。」

剣豪2「…泥がついちゃって、これではもう食えんでござる…」

剣豪1「な…そんな目で見るな!わざとでは無いのは分かるであろう!」

剣豪2「………グスン」

剣豪1「泣くなぁーっ!いい年した男が食べかけの団子を食いそこねた
    くらいで泣くな!見てる方が情けなくなるわ!」

剣豪2「ぉなかすぃた………」

剣豪1「へんなしゃべり方をするな!あーもう!わかった、わかった!
    銭をやるから、あそこの店で団子を買ってこい!」

剣豪2「これはかたじけない!では早速!」

剣豪1「なんなんだ一体。なんで俺があいつに団子を買ってやらねば
    ならんのだ…ブツブツ…ん?早かったな?
    手に持ってるのはなんだ?団子はどうした?」

剣豪2「とっても楽しそうなデンデン太鼓が売ってたから…」

剣豪1「子供かっ!」

-END-

#小説 #会話 #剣豪

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