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日本酒よもやま

不景気だと、チキンとパン屋(脚注)が流行る。
どちらも満足度が高く、材料費は抑えやすい商売だ。

そして、酒は甘くなる。
米不足で酒が少量しかできなくても満足でき、
肴が足りなくても口が寂しくないと
小泉武夫先生の本にあった気がする。

バブルの頃はまさに辛口の天下だった。

・新潟の酒は全てうまい。
・有名な銘柄なら特定名称酒でなくともうまい。
・辛口なほど通が飲むものだ。

こんな価値観であったように思う。

濾過をめいっぱいかけて無色透明(炭つかって)。
しっかり火入れして、多少手荒く扱っても元の味から変わらない。
ある意味では扱いやすいお酒が多かった。

それが、平成後半になると

・甘旨系の流行り

・獺祭、新政の台頭

・有名で、レアな酒米を使用

・精米歩合の競い合い

・さまざまな吟醸香。これが強いのが銘酒

こんな感じかな。

そもそも吟醸香のカプロン酸エチル(リンゴ)や酢酸イソアミル(バナナ)を安定的に出す研究は、酒総研や大手の蔵元が担ってきた。大手蔵元の功績は安いパック酒のみにあらず。
セルレニン耐性変異を利用してカプロン酸エチルを高生産する株を選出するとか(セルレニンはノーベルプライザー大村智先生が発見したもので、これがなければ吟醸酒の歴史はずっと遅れていたはず)。
酢酸イソアミルの元はロイシン→イソアミルアルコールだからロイシンのアナログであるトリフルオロロイシン耐性株を選出。さらに低温、高精白、突きハゼによって酵母をいぢめてアルコールアセチルトランスフェラーゼを働かせてイソアミルアルコールから酢酸イソアミルへの変換を促すとか。
分子生物学の進歩と酒の美味しさは結びついていると思う。


さて、こういう状態になると、なかなか差別化が難しい。

米は山田錦、精米歩合は40の大吟醸、そして蔵の知名度はこのくらい。。。
っていうので市場価値が決まってしまった。有名なものはより高くなり、無名なものは地元の人が地元の酒だからって理由で買うだけ。
酒場でのウリ文句も高精白であるとか、美味しさとあまり関係ない要素になってきた。これはちょっとな、、、



・・・そして、今の日本酒は面白いなあって!

-5℃の冷蔵庫がなければ売りませんよとか
このつまみに合うやつを作りましたとか
ワイン酵母使って白ワインみたいなリンゴ酸が出たとか
瓶内二次発酵のスパークリングとか
ペアリングの有名人が現れて技術者に向けて講演するとか

Kurandなんか眺めてると、若い人が楽しいことをやりたいって気持ちがよく伝わってくる。
高精白でも高級米でもない、無名な蔵の作ったものがきちんと定価で取引されている。

不景気でも原価を抑えたり一様に甘くする道ではなく、いろんな夢がある方向に進んでいる。

双方にとって健全な取引は望ましく、羨ましい業態だ。

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健康診断も終わった。
今日は、しっぽり飲もうと思う。


脚注:別業態からの新参が増えたなあという意味。でもさすがによく研究されていて、味も良く便利でお世話になっております。昔ながらのベーカリーも好きです。

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