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無伴奏チェロ組曲

バッハの無伴奏チェロ組曲についてなら、無限に話し続けられると思う。


成立背景、好きな演奏者、弾くとき運指ここが難しいねとか(3番まで)、どんなお酒に合うよねとかまで。

バッハが作り、アンナ・マグダレーナがきれいに書き残し、カザルスによって再発見される。
この辺りの流れは、最近再版された『「無伴奏チェロ組曲」を求めて』に詳しい(オススメです)。

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録音では、カザルスの伝説の録音があって、フルニエとかトルトゥリエの勇壮な物がどんどん出てきて(トルトゥリエの2回目は60代後半とは思えない!)、その流れを古楽でまったく変えたビルスマで一区切り。ビルスマ新盤の語るバッハは今も再現できる人いないんじゃなかろうか。

同時代を生きた人では、職人技のシュタルケル、王者ロストロポーヴィチがいて、ヨーヨー・マはなんと3回目の録音を2017年に行った(国際線の機内で聞けたのが懐かしい)。弾いてるうちに解釈が変わるようで、マイスキーも新旧でぜんぜん違う。最近では、ウィスペルウェイの新録音とかモルクも好き。

デュプレはBBCに1、2番を残しているが、全曲録ってほしかったなあ。

ロストロポーヴィチのDVDというこの上ない解説もあるのだけれど、ちょっとだけ書いてみようかな。

ずっと思ってきたのは、番号と人生がリンクすること。曲が進むにつれて、複雑に、技巧難易度は高くなっていく。
おおざっぱに、1番は10代、2番が20代、、、6番が60代以降なのかな。

1番 ト長調
お酒に例えると・・・10代は飲めないのよ!
でも、青春とは酒なしの陶酔(ゲーテ)。
みずみずしい青春。三ツ矢サイダーとか美味しいよね。

1番有名な曲のいちばん有名な部分が最初の1小節という怖さ。
個人的には、スラーは最初の3音にかかるものと思っている。アンナの筆写譜もそう見える。そうでない録音ももちろん大好きだけど。

アマチュアが弾く場合、確かに高音も変な重音も無くて速すぎもしないが、ビルスマが語っていたように、弾くたびに音と音の間の新たな関係性が見つかる。理想には永遠に到達できない。

2番 ニ短調
ブレンデッドウイスキー。水割りとかハイボール。

1番とはうって変わって憂いに満ちた音楽。でも5番のような深みに沈む部分は少なくて、アルマンドなどちょっと激情的な若さも感じられる。

アマチュアが弾く場合、1番より取りにくい重音が多く、クーラントなどは速い。いろんな練習になると思う。暗譜しにくい音が多いように思う。

3番 ハ長調
ビール一択でしょ!それも真昼から飲むやつ。

C線の響きを生かした共鳴たっぷりの演奏が好き。
ブーレなんか耳に残るメロディだし、サラバンドはハ長調からまったく離れたのに自然に戻ってくるバッハの天才的和声感。

アマチュアが弾く場合、2番よりむしろとっつきやすいのかな。全曲の中で一番変に気負わずとも音を鳴らせる気がします。

4番 変ホ長調
ワイン。特に赤。
唯一主音が開放弦にない、くすんだ音色。

プレリュードはフェルマータで立ち止まって急展開というドラマチックさ。
4番以降は奥深さがぐっと増して大人の音楽だなあと思う。

アマチュアが弾く場合、いかに正気で音程を保てるのかが鍵。開放弦に来たときにえらくずれてること多数のはず(自分)。ブーレⅡの曲想は好きなのだけど、左手こんな形に開くか!ってなる。がんばろう。

5番 ハ短調
シングルモルトウイスキー。

低音楽器のチェロ1本でポリフォニーを体現した歴史に残る音楽。

プレリュードには物語がある。シュタルケルの職人技がこの曲で光る。
そしてサラバンドは静謐そのもの。単音にこんな宇宙の法則のようなものを入れ込めるのか。ロストロポーヴィチが愛奏したのも分かる。
ジーグは颯爽と駆け抜ける。これだけはたまに弾いてみている。

アマチュアが弾く場合、4番とフラットの数は同じだけれども、音程の着地点は見えやすいのかな。でもポリフォニーを表現できる弓の技術が必要。音楽性ももちろん!

6番 ニ長調
シャンパーニュ!
こんな輝かしい60代になれたらいいな。

ニ長調は独立記事にしたくらい好きな調。そして無伴奏6番はリズム感が際立つ演奏が好き。ジーグ冒頭のフラジオA→D, Fis重音が鳴ると、ああ終わってしまう!と感じてちょっとさみしい。

アマチュアが弾く場合、これを弾ける人は正当にチェロを習ってコンチェルトとかもこなしているだろうから、先生に聞くとよいのだろう。プレリュードを通せるようになるのが人生の一つの目標。

長くなってしまった。また書くかもです。

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