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かるがも団地 第6回本公演『秒で飛びたつハミングバード』上演台本

はじめに

冬の東京都青梅市。
仁科泰成は間もなく齢30を迎えようとしているフリーター。
学生時代にスキージャンプで国体に出場し、その後実業団に入ったものの、
ほどなくして戦力外通告を受け、今では暗澹たる日々を惰性で生きている。

人生のピークは過ぎた。あとはひたすら下降線を辿るだけだ。

澱みまくりな彼の人生は、
ある日、近所に住む鳥好きの教師・蒔田絵莉子との出逢いをきっかけに、
同棲を始めた大学の後輩カップルも巻き込んで、
ほんの少しずつ、しかしせわしなく動き出す。

これは、青い季節を終えて、人生の曲がり角で羽を休める、
ぎりぎり若者たちの一冬の記録。
しんと冷えた冬の朝。まだ来てくれない幸せの鳥。
秒で飛びたつハミングバード。

かるがも団地 第6回本公演『秒で飛びたつハミングバード』
あらためてあらすじを簡単に記してみました。

2022年3月に青春群像劇を上演した私たちが描く「青春の次の季節」として、冬の青梅を舞台に、大人になってしまった人々の日々の悲喜こもごもを描いた群像コメディです。

キャストオーディションは、過去最大数の応募のあった前回オーディションからさらに約1.5倍も応募数が増え…(M-1みたいな言い方なっちゃった)。
そこで出逢った素敵な皆さまを中心に”ワンチーム”で創作いたしました。
『なんとなく幸せだった2022』に引き続き、初めてご一緒する方が多く、私は終始きょどきょどしてしまいましたが、優しく心強い皆さまの支えのおかげで無事に幕を上げることができました。

初めての下北沢、本多グループ進出。
劇団旗揚げ丸4年の節目の本公演を、憧れのOFF・OFFシアターで上演することができ、そして前回にも増して沢山の方々にご来場いただき、本当に幸せな時間でございました。

沢山のご観劇本当にありがとうございました。毎度のことながら、よろしければどこかで感想を聞かせてもらえると嬉しいです。
ご感想なんてなんぼあってもいいですからね。

藤田恭輔


かるがも団地 第6回本公演『秒で飛びたつハミングバード』上演台本

作:藤田恭輔
脚本協力:古戸森陽乃、宮野風紗音、座組の皆さま
記録写真:古戸森陽乃
(※記録写真は全てのシーンを網羅しているわけではございませんのでご了承ください。)

■当日パンフレット・演出のことば■
本日はご来場いただきありがとうございます。
肌寒くなってまいりましたね。
秋口、大学の友人たちと本栖湖にドライブに行きました。
私以外の友人にはパートナーがいて、
同棲を始めていたり、結婚を予定していたり。

帰り路に一人が
「今が遊びたい時に遊べる最後の時間なのかもしれない」とこぼしました。
それでも今は、年末にまた集まろうかと約束して解散しました。

しょっちゅう会うことはないけれど、
何人かそんな距離感で偶に会う同級生がいて。
転職をした子がいて、子供を産んだ子がいて、
追っていた夢に区切りをつけた子がいて、
一度足を休めることにした子がいて。

もうすぐ27歳の私たちは、
人生の季節が確実に移ろっていく予感の中にいて、
だけどそれは、やっと、やっと、
自分だけの人生が始まる音のような気もしているのです。

穏やかな劇をお届けする心づもりでおりますが、
楽屋は大量の衣装・小道具の管理で阿鼻叫喚です。
肩の力を抜いてゆったりとご覧ください。
旅の舞台はしんと冷えた冬の青梅です。

【登場人物】

絵莉子 (蒔田絵莉子 まきたえりこ) (26) …… 柿原寛子
仁科 (仁科泰成 にしなたいせい) (29) …… 袖山駿
アッキー(清原晃希 きよはらあき)(27) …… 武田紗保
あきら (名取陽 なとりあきら) (28) …… 大嵜逸生
たなか(畠中廣道 はたなかひろみち)(23) …… 家入健都
東(東玖美 あずまくみ)(30) …… 一嶋琉衣(吉祥寺GORILLA/yhs)
氷室(氷室沙也伽 ひむろさやか) (32) …… 助川紗和子(知らない星)

森羅万象 (0~108) …… 宮野風紗音(かるがも団地)
 (→おおよそ 近所のおばあちゃん と 中学生・宮野として登場します)

※ほかにも沢山登場しますが、全容はあとがきに記します。

【おはなし】

○前説

   劇団員の宮野が出てきて前説。

宮野 (諸注意を述べる)……部屋の外と中のシーンが入り乱れているのですが、靴の脱ぎ履きが間に合わないので足元だけアメリカだと思ってください。ここからの進行はこちらのお嬢さんにバトンタッチします
絵莉子 はい、頑張ります
宮野 それでは私は着替えます
仁科 僕は寝ます

   宮野、次の衣装に着替える。
   仁科、舞台後方に横たわる。
   絵莉子、観客に向かって話し始めて、

絵莉子 こんにちは(こんばんは)。本日はご来場いただきありがとうございます。肩の力を抜いて、ゆったりとみて行ってください。出てくる人たちは、みんなマスクをしていませんが、コロナがいい感じにおさまった世界です。ちなみに私の住む部屋は198-0089 東京都青梅市森下町25-3 サン・グリーン青梅 301です。そうです、私は住所を暴露するタイプのヒロインです。おねがいします

   絵莉子、部屋の窓を開ける。
   がらがらがら。

第一話 仁科とスキージャンプ

○絵莉子の部屋

   2022年11月7日(月)・立冬。
   朝陽が差し込む。
   絵莉子、外の空気を吸って深呼吸する。

絵莉子 ベランダからみえる御岳の山々、私はこの見晴らしが好き

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