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002-前書き

前書き

<環境>
1)OSS(Open Sorce Software):インターネットの発展の大きな成果として、ボランティアのソフトウエア開発者:ハッカーがフォーラムで議論しながらソフトウエアを開発し、成果物を色々なルールでOSSとして公開して行く仕組みが定着してきている事が挙げられます。著者は多少のコーディングはしますがソフトウエアのハッカーではありませんので多くは存じ上げませんが、古くは1980年代のLINUXから、パケット電話交換機ではASTERISKあるいはASTERISKのための課金ソフトウエア等を扱った事があります。そして、この本でご紹介するのも、IceCasatなどのインターネット放送サーバーのためのソフトウエアもOSSとして公開されています。
 他にもOSSの例は沢山ありますが、いずれも単独で開発すれば億円を単位とする予算がなければ取り組めないような規模のものです。
2)国内におけるインターネット:著者の自宅のネットワーク環境は、NTTドコモの提供する「ドコモ光」によるものです。speedtest.netでスピードテストをすると、下り 646Mb/s、上り173Mb/sと言う結果になります。1985年頃300b/sのモデムでパソコン通信をしていた時の200万倍の速度です。NTTの光アクセス回線への方針の転換と大きな投資のおかげと言えます。
3)クラウド内のサーバー・サービス:AWSやGCPに代表される、バーチャルサーバーも明快な価格表により使いやすくなっています。また、この大手2社以外にも、多様な価格体系で目的に合った多様なサービスを見る事ができます。

 この3つの成果が意味するものは、適切な企画さえあれば誰でもが大した費用をかけずにサービス提供者になれると言うことを意味しています。SNSに何か書けると言う意味ではなく、つまりAGAFM等のプラットフォームを使わずに、貴方が、わずかな投資で誰にも搾取されない放送事業者になることが可能だと言うことです。

<本書の目的>
 本書の目的は2つあります。
第一には、自分で音声放送(以下、単に「放送」は全てインターネットによる音声放送を意味します。)をやりたいと思う方々に方法論をお伝えするとともに、事業計画を立てる上での数字のお手伝いをすることです。この本をお読みになり「なるほど。これならすぐにできる。」と納得して頂くことです。
第二に、そんな皆さんにお願いがあります。放送を開始することは法制度上の問題はないのですが、放送に楽曲を使うと言うのは、音楽著作権と隣接権と言う2つの権利料の精算をするという課題があります。放送に楽曲を使えないのは「いい番組を作りたい」とお考えの皆さんには、ありえないことだと思います。この課題に対処するために皆さんと一緒に社会に認知される団体を構成したいと思っていますのでご参加いただきたいのです。この団体の詳細については、第◯章で詳細をご説明します。

 第◯章でご説明する様な少額の費用で、しかも無免許で放送局が立ち上げられると言うことは、営利を目的とする企業での実現も勿論可能ですが、全国の中学校、高校、大学、大学サークル、地域コミュニティ、NPO、そして個人など色々な情報発信者が利用可能であり、また、Webサーバーと、聴取用のスマホアプリを組み合わせれば音と映像を組み合わせたメディアとか、多様な形式での発展が期待されます。

<技術の進化がもたらすもの>
 この本の執筆は2022年に始めました。 この本で語る放送には直接関係しませんが現在インターネットの利用環境という視点では大きな2つの変革の時期にあると考えます。1990年に米国のPSINetで商用のインターネット接続サービスが始まって33年になります。Web1.0、Web2.0、Web3.0へと進んできましたが、2021年頃から大きく進化の方向が変わってきます。BTC(ビットコイン)で始まったブロックチェーンが今後ネットワークインフラの最上位に乗りトラストレスという今まで無かった概念のインフラを実現することになると、多くの先見者が語っています。詳しくはJOIさん(伊藤穰一さん)のブログをご覧ください。https://joi.ito.com/jp/archives/2022/06/08/005796.html
暗号通貨の発行などは、各国の中央銀行に任せておけば良いことだと考えますが、BTCやETHの開発環境で実践されたDAOという新しい組織形態、スマートコントラクトという従来無いプラットフォーム、通貨以外のトークンの使い道など、今もし新しく放送事業をお考えになるのであれば、新しい世の中の事業環境として、web3による変革を学ばれることをお勧めします。

 もう1つの変曲はOpenAIに代表されるサービスとして提供が始まったAIの力です。第◯章を初め複数の箇所で例を挙げますが、従来専門家に有料で聞くしか無かった例えばマーケット戦略の基礎になる情報を合理的なコストでAIに依存することが可能かもしれません。

 この本をお読みいただく中で、先にあげた3つの環境の変化、web3という方向、AIのサービス化から、そして、ハードウエアの時速的な価格低下と高性能化を併せた4つの変化が、放送という事業を大きく変えることになると自分は考えています。ご興味があれば従来と違う視点で放送について考えていただければと思うものです。

 ここでご紹介するのは、インターネット放送の立ち上げ方に限定しています。しかしweb3の世界では限界のない更なる展開が始まります。これは、変革の始まりの体験です。「シートベルトをしっかり締めて」入ってくる情報を適切に処理してください。

 前書きの最後に、自己紹介を簡単にさせていただきます。
私は1972年日本電信電話公社に入社しました。当時電電公社の電気通信サービスは全て国連のITUの標準に準拠している事が条件でした。銀行のコンピューターをつなぐX.25というプロトコルで組み立てられたパケット交換サービスの現場導入に始まり、勿論インターネット接続サービス、国際のインターネット接続サービスなどの企画、現場導入などを担当してきました。1988年頃だったか米国で、当時その速度は非常に遅かったのですが、インターネットを初めて見て「きっとこれだ」と感じたものです。
 2009年頃だったと思いますが、神奈川県葉山町の逗子・葉山コミュニティ放送株式会社、別名「湘南ビーチFM」と言う、ジャーナリストの木村太郎氏が1993年に開局した放送局のお手伝いを始めました。12年ほど木村氏の下で放送を勉強させていただきました。
 木村氏は、間違いなく日本で一番最初にインターネット放送を始めた方です。1996年、米国のRelaAudioのソフトでネット放送ができると聞き、ご自身でワシントンに飛びソフトを入手、帰国後ご自身でシステムを立ち上げました。その後直ちに音楽著作権、隣接権管理団体と交渉し、そのインターネット放送を合法的な位置付けにする努力をされ、2006年合意が整い正式にインターネット放送を開始しました。10年以上間の木村氏の権利団体との交渉の努力は彼が心から「インターネット放送の未来を信じる故」の事だったと思います。木村太郎氏がまとめたこの合意は「サイマル放送」と言う言葉で、その後、全てのコミュニティーFM局、radikoなどの合意に引用されています。
 私は、「木村太郎氏は日本のインターネット放送の父」と呼ばれるべき方だと信じています。
 最後に、放送の立ち上げは簡単です。しかし、いい放送局を作るには、いいコンテンツをつくることが一番大事です。どうか、昼も夜もコンテンツ作りには悩んでください。

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