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中国巨大技術企業の抑止策(1)(ASPIの報告書)

写真出展:patrick gantzによるPixabayからの画像https://pixabay.com/ja/users/caropat-3683851/?utm_source=link-attribution&utm_medium=referral&utm_campaign=image&utm_content=1957719

 豪州戦略政策研究所(ASPI)は2021年6月に、中国の情報サプライチェーン分析に関する報告書を発表した。これは、「サプライチェーン及び世界のデータ収集生態系(中国の巨大技術企業分析)」と対を成す報告書であり、ここ数年のアメリカの対応を中心とした、中国巨大技術企業の抑止政策を取りまとめたものである。
 現状の把握及び今後の展開の予想に非常に有益と考えられることから、本報告書の概要を紹介させていただく。なおやや長文となるため、2回に分けて概要を紹介し、読後の感想については3回目に投稿させていただく。

↓リンク先(Reining in China’s technology giants)
https://www.aspi.org.au/report/mapping-chinas-technology-giants-reining-chinas-technology-giants

1.本報告書の内容(1)について
 ① Covid-19の影響

   IMFの試算によると、パンデミックの影響により2020年の世界経済が                                                    4.4%収縮したとされており、中国経済は2020年第1四半期に6.8%も収縮した。しかしデジタル製品やオンラインサービスの需要が増大するに伴い、巨大技術企業は利益を伸ばしており、GAFAの市場規模は8兆ドルにまで拡大した。中国の巨大技術企業27社の市場規模は2021年5月現在2.2兆ドル以上になっており、ファーウェイ、メグヴィイ、クラウドォーク以外は全て劇的に収入が増加している。
  中国企業の一部は途上国などに金融や物資の支援の行うことで取り込みを図っており、サッカーチームへの医療機器提供、病院、WHOへの連帯対策基金への寄付などの例がある。バイトダンス、テンセント、アリババの寄付は80%を占めている。
  テンセントの成長は著しく、音楽、映像サービス加入者数はそれぞれ4300万人、1.12億人増加した。その他、Covid-19の暴露状況を検証するWeChatのヘルスアプリはユーザーが12億人以上となった。時価総額は8000億ドルとなっており、中国最大級の企業となっている。
  バイトダンスはトランプ政権のTikTok禁止措置にも関わらず、2020年の利益は2倍となった。アリババは傘下のアントグループが急成長し、中国政府はアリペイヘルス記録アプリを導入した。監視カメラ企業のハイクビジョンは、2020年第1四半期は下落したが、体温監視カメラにより海外市場で大幅に成長し、第2四半期には盛り返した。
  Covid-19により、中国巨大技術企業は一時的に利益を得られたが、各国は中国への依存を低減するよう対応しており、今後は経済が鈍化すると見込まれる。

 ② 米中技術戦争の推移
  アメリカは中国の技術企業の制裁として、エンティティリスト(懸念対象企業)を活用した。また、国防総省の「中国共産党軍系企業」のリスト(CCMCリスト)に掲載されている企業への投資も禁じると共に、アメリカの会計基準を満たさない企業を証券取引所から排除する新たなルールも新設した。(エンティティリストには、2021年4月現在で、400以上の中国企業や組織等が登録されている。アメリカ政府の対応時系列は図1参照)

図1

 特に影響を受けたのは、ZTE及びファーウェイである。ZTEは、アメリカ製品をイランへ輸出したとして、2016年3月にエンティティリストに追加されることになった。この結果、ZTEは司法取引で約9億ドルの制裁金を支払い、和解することになったが、その後2018年4月にもイランへの輸出が判明したことから、7年間アメリカ企業との取引が停止されることになった。ただ、ZTEの制裁により中国で多くの職が失われるということで、2018年5月に一部制裁を解除した。2018年8月には国防権限法で、政府がZTEから機器を購入することを禁止した。
 ファーウェイは2019年5月16日に初めてエンティティリストに追加された。この際、関連企業や提携企業の66社も含められており、2019年8月、2020年8月には他の関連企業も追加された。
 2020年5月には、トランプ政権はファーウェイへの半導体販売を禁止し、2020年11月には大統領令で、中国人民解放軍の支援を受けている企業として指定されることになった。
 アメリカの措置により5Gネットワークに関して他国も追随することになり、ファイブアイズ各国は、5Gからファーウェイを排除する動きを見せた。EUでもルーマニア、ポーランドなどはアメリカとの共同声明や覚書の取り交わしを行っている。
 この結果ファーウェイの収益は大幅に低下し、中国市場以外ではすべてマイナスとなった。ファーウェイもこの危機に対応するため、ソフトウェア開発の強化、電気自動車の生産、低価格のHonorブランドでのスマートフォン販売などに乗り出している。その他、アフリカ、中東、東南アジアの一部の国々と5G及びクラウドコンピューティングティングの協定を結ぶなど、足がかりの確保に邁進している。

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