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中国巨大技術企業の抑止策(2)(ASPIの報告書)

写真出展:patrick gantzによるPixabayからの画像https://pixabay.com/ja/users/caropat-3683851/?utm_source=link-attribution&utm_medium=referral&utm_campaign=image&utm_content=1957719

本記事は、中国巨大技術企業の抑止策(1)(ASPIの報告書)の続編である。前回の記事は以下のリンクを参照。

https://note.com/karzy_kemaru/n/na9804d0b1954

1.本報告書の内容(2)について
 ③ 他の主要企業への制裁

  国家の管理下にある監視カメラ技術企業のハイクビジョンが、2019年10月にアメリカのエンティティリストに追加された。各国も制裁の動きを見せており、インドでは政府調達から排除され、オーストラリアでは、一部の州でハイクビジョン製カメラは全て撤去されることになった。  
  PCR検査キットなどを取り扱うBGIグループ、ドローンメーカーのDJIなどは、エンティティリストに追加されたにも関わらず、海外市場での売り上げが好調となり、最大級の成長を達成した。
  ただ、アリババ、アントグループ、バイドゥ、バイトダンス及びテンセントはほぼ制裁を免れていた。トランプ政権は大統領令で、バイトダンスのTikTokやテンセントのWeChatの取引停止措置を命じたが、最高裁により停止された。また、アントグループの上場廃止措置は、最終的に保留されることになった。

 ④ サプライチェーンの分散
  Covid-19のパンデミックに伴い、中国の指導者層は技術やサプライチェーンの自立の重要性を認識し、技術企業の動員及び経済成長の二重循環モデルを提唱した。
  技術のチョークポイントを克服するため、国家チーム編成を推進し、民間企業に研究開発に投資するよう促している。コロナ禍下の経済対策として、中国製造2025年を焼き直した2兆ドルのインフラ事業を立ち上げ、5G、AI、ビッグデータ、リニアなどのハイテク部門にテコ入れしている。また民間企業の中国国内投資も計画されており、3大携帯電話企業は、5Gの基地局建設に340億ドル投資することを発表し、テンセントはクラウドコンピューティングに5年間で770億ドル、アリババは新しいインフラ投資に3年間で300億ドルを投資すると公約した。
  また半導体の自給自足に向けての動きも見せている。2021年第1四半期の半導体輸入額は1556億ドルにも達しており、この状況を鑑みて半導体技術の共同体を設立した。この共同体は90の中国技術企業から構成されており、この中にはファーウェイ、テンセント、アリババなどが含まれている。
  サプライチェーン強化に関しては、2021年3月11日に採択された第14次5か年計画において「二重循環」成長モデルが提唱され、海外への技術や資源依存を脱却しつつ、他国が中国に依存するよう、二重の循環による経済体制を構想している。今後この二重循環は、経済的な脅迫の道具として用いられることになるだろう。


 ⑤ 中国共産党による巨大技術企業の抑止策
  中国では、国家市場監督管理総局(SAMR)などの中国独占禁止当局が巨大技術企業の抑制を行っている。SAMR は2020年1月に独占禁止法の改正を提案し、無秩序な資本拡大を防止する行動原則が共産党中央委員会で採択された。
企業への抑制策は2020年に活発化しており、2020年10月のジャック・マーが、上海で金融規制当局を痛烈に批判したことをきっかけとして、アントグループの金融業務が人民銀行により案視されることになった。更にSAMRは技術部門における独占的行動を禁止する規則案を発行し、このことにより巨大インターネット企業であるテンセント、シャオミィ、美団、JD.comの株価が合計で2800億ドル失われた。
 2020年12月から2021年4月にかけて、テンセント、バイドゥ及びバイトダンスを含む11企業に対し、過去の調達及び投資についての情報公開に不備があったとして、規制当局が罰金を課した。
  2021年1月、SAMRの長は、2021年の優先事項の一つは「産業政策及び競争政策の協調を促進する。」ことであると強調しており、規制の目的は独占禁止だけではなく、国家による技術管理にまで至っているのである。


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