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夏のヒース・レジャー祭り

ばばーん。やってきましたヒース・レジャー祭り。なんでいまさら?と思われるかもしれませんが、やりたくなったんだからしょうがない。こんな暑い日が続くんだからヒースの1本や2本観たくなるのが人情ってもんでしょう。「ヒース・レジャー?ああ、ダークナイトの人ね」って人が多いだろうし、それ自体は彼の功績を象徴することに繋がるのでなんら間違ってはいない。でもそれ以外にもとびきりな演技をしている作品がたくさんあるんだぜ!ってことで紹介してみようと思います。というか私自身今回初めて観た作品が何本もあったので、いろんなタイプの彼の演技が観れて楽しかったというのが本音。

さて、それでは一応簡単な人物歴を。

ヒース・レジャー(本名:ヒース・アンドリュー・レジャー)はオーストラリア州パース出身の俳優。10歳の頃から劇団に所属し、舞台やテレビに出演。ゲイという役柄を演じたこともあり、街中で嫌がらせやいじめを受けることもあった。その後ハリウッドに進出してからは『恋のからさわぎ』『パトリオット』等の作品でキャリアを積んでいく。2004年製作の映画『ブローク・バック・マウンテン』では主人公イニスの複雑で苦悩を抱えた人物像を演じ、観客・批評家から数多くの支持を集める。その後『ダークナイト』でジョーカーを演じることとなる。人間の負の側面を露わにする存在である”ジョーカー”。その禍々しい存在を自身に宿らせるため、ヒース・レジャーは過去の映画に登場した悪役や、実際の犯罪者についても調べ、徹底した役作りをしたようだ。ここから生まれた新たな「ジョーカー像」は高く評価され、現在も彼のキャリアを代表する役とされている。2008年、28歳という若さで死去。


なお、今回ご紹介するのは、私がここ最近NetflixとU-NEXTで観たものに限るのでぜんぜん網羅的な内容ではありません。じゃあどんな基準で作品を選んでいるかと言えば、観た中で「ここのヒースいい~」と感じたもの、というとっても単純な理由。並び順はランキング形式ではなく年代順になってます。おすすめ度も併記しておきますが、ヒース・レジャーという人物の魅力が発揮されている作品ほど星の数を増やしてますので、作品の出来の良さとかはあまり重視しておりません。さて、それでは、楽しいレジャーのはじまりはじまり。

パトリオット(2000年)

アメリカ独立戦争時代を舞台とした戦争映画。尺をたっぷり使いながらアメリカの「愛国心」を描きます。ただ平気で子供を戦いに巻き込む描写があるので、不快に思われる方もいるかもしれません。特にメル・ギブソン演じる父ちゃんが10歳くらいの子供たちに銃を持たせて「狙え、外すな」と言うあのシーン、戦争映画を見慣れてない人にはかなり衝撃的かと。これが戦争か……。でも正直こういうロマンチックな英雄譚ってやっぱり面白いと感じちゃいますし、アクションシーンは(全体的に綺麗すぎるきらいはあるものの)見応えあります。
肝心のヒース・レジャーはこの映画の一番美味しい役どころで、メル・ギブソンの息子役として一緒に戦いの地へ。全体的に頼りない場面が多いものの、少しずつ成長していく姿と、彼の繊細な演技は見るものを虜にするでしょう。若かりし彼はとてもセクシーで良き。でも、もっと活躍してる所を見せてほしかったかな。
レジャー満足度★★★★

ROCK YOU!(2001年)

14世紀の馬上槍試合でのし上がろうとする若者を描いた騎士道譚。主演のヒース・レジャーは無鉄砲な若々しさを放っており、観ていてわくわくさせられます。劇中ではクイーンの曲を流したり、現代のスポーツ風に試合を描写したりと、演出がキャッチーなのもこの映画の特徴。いわゆる「チームもの」であり、主人公以外の各登場人物が最初から最後まできちんと役割を持っているので少年漫画感があって楽しかった。
馬上槍試合についてもとてもわかりやすく、試合に向けて練習とかしてますがルールもへったくれもない、すれ違いざまのどつきあいなので、至極単純です。また、それを何試合も行うわけですが、編集の妙や、サイドで挟まれる人物同士のやり取りでテンポよく魅せてくるので飽きることがありませんでした。ヒースファンも映画好きも満足させられるであろう掘り出し物な一本。おすすめです。
レジャー満足度★★★★★

チョコレート(2001年)

アメリカに巣食う人種差別の問題を年配の白人男性と若き黒人女性に焦点を当てて描いた2001年の作品。BLMが記憶に新しいように未だそこに根付く問題は解消されていないし、それが20年前ならなお過激な状況だったことだろう。
物語は刑務所で看守を務めるハンク(ビリー・ボブ・トンプソン)と、同じく看守の仕事をしている息子のソニー(ヒース・レジャー)を中心に始まり、死刑囚の夫を持つレティシア(ハル・ベリー)とハンクの心が徐々に近づいて行くというもの。
人種差別だけでなく、「男性性」の悪しき部分も強調されており、それが悲劇に繋がっていく。全体的に性行為のシーンが多い映画なのだけど、それは相手が「白人」か「黒人」かで、ハンクやソニーがどのように違う反応を見せているかを浮き彫りにするため、あえて多くしてるんだろうな。

※※※ここからネタバレ※※※

最も衝撃的なシーンはソニーが拳銃で自殺するシーン。ヒース・レジャーの魂の叫びと、悲痛な表情は目に焼き付きます。無駄にカットを割ることも、下手に劇伴や編集を入れることもなく、あの場面を見せることで、あっけなく命が失われてしまったことを感じさせる衝撃的なシーンでした。ヒースは劇中で死ぬこと結構ありますね。それも様になってますが。

レジャー満足度★★★

ロード・オブ・ドッグタウン(2005年)

舞台は70年代アメリカ。スケートボードに明け暮れる若者たちの青春群像劇です。スケボーのシーンはシンプルにかっこいいし、ファッションや音楽もイカしてる。ブームが生まれ、成熟するにつれ、人間関係も複雑になり、仲の良かった友達は離れ離れになっていくけれど、最終的にはなんだかハッピーな感じで終わる。そんな映画。ただねえ、観るのは3回目くらいなんだけど、なんでか中盤あたりからだれるんだよなあこの作品。たぶん話の焦点が「誰に」向けられたものなのか分かりづらく、ブレ気味なせいだと思うけど……。ヒース・レジャーは若者と大人の中間の立ち位置で良いポジション。彼を始め、主役たちのナチュラルな演技はとても良いです。全体的な男くささも含めて。
レジャー満足度★★★★

ブラザーズ・グリム(2005年)

だははは、バタバタごちゃごちゃしてて、見にくい映画だなあ。監督であるテリー・ギリアムの特徴が悪い方向に出ちゃってる気がします。色んなグリム童話を詰め込んで大冒険!ってコンセプト自体は良いですし、世界観を作り出すアートワークも見応えあり。でも脚本がとっ散らかってる上、ギャグはいまいちハマってない、汚いシーンは気持ち悪いだけで面白味がない等など……全体的に下手っぴな部分が悪目立ちしちゃってます。マット・デイモンとヒース・レジャーの演技がいいのに勿体無いなあ。まあでも眼鏡で弱っちいヒースが見れたから元は取れた気はしてる(チョロい)。
レジャー満足度★★★

ブロークバック・マウンテン(2005年)

始まりは友情だった、いずれそれは恋に形を変え、やがて愛へと至る。
ブロークバック・マウンテン。二人にとっての桃源郷。1963年の夏に始まったその愛の形は20年にわたって紡がれてゆく。惹かれ合う二人の男性を切実に、情熱的に映し取った静かで美しい傑作。

観るのはかなり久しぶりでしたが、主演二人の演技や、心に残る情景の数々、グスターボ・サンタオラヤによるアンサンブルなどなど、要素要素が主張し過ぎることなく溶け合っており、改めて素晴らしい作品だと思いました。

この映画が制作された2005年はまだLGBTへの偏見・抑圧が強く、俳優にとってもそれは同様だったはずです。その様な状況においてこの難しい役を引き受けた主演二人は覚悟が違うのでしょう。彼らの演技はこの映画の主題となる「愛」を過不足なく繊細に表現していて魅せられます。さらに、時代的に許されざる関係性へと進んでいくことに対する戸惑い、家族への罪悪感もしっかりと織り込み、それでも押しとどめることが出来ない気持ちが画面全体から濃厚に溢れてくる様でした。

悲哀、焦燥、空虚。逢瀬の場となるワイオミングの山々の美しさとは対照的に二人には社会的な重圧がのしかかり、愛する人が隣にいるにも関わらず苦悩する姿が切なく痛々しい。
そう、この映画はそこまで深く深く男たちの、いや、というよりも人間同士の惹かれ合う魂を描写しているのです。
その、複雑な社会と純粋な想いの中で葛藤し、それでも不器用に生きていこうとする彼らの姿に、私は涙が止まりませんでした。
レジャー満足度★★★★★

ダークナイト(2008年)

観るの何度目かな。IMAX上映とかでリバイバルされる度に観てるからもう回数はわかんないや。当然本作品におけるヒース・レジャーの演技は素晴らしく、神がかったものがありますが、『ROCK YOU!』や『ブラザーズ・グリム』など、初期の頃から"役に入り込む"俳優さんではあったので、それだけ「ジョーカー」というキャラクターが尋常ではなかったということなんでしょうね。

原作のアメコミ『ダークナイト』を2008年当時の世界情勢に置き換えてビルドアップさせた本作は、監督であるノーランの異常な拘りが画面構成ひとつひとつに至るまで行き渡っており、隙がありません。冒頭の銀行襲撃から、留置所でのバットマンとジョーカーの対話など名場面の数々でほんとに何度観ても面白い、面白すぎる。

「選択」というものがキーワードになっており、観る者の倫理観を問い、翻弄させてくる異常に良くできた脚本。ハンス・ジマーのガツンガツンとした硬質な音楽が響き渡り、「混沌」そのものをフィルムという箱に封じ込めた、傑作中の傑作です。
レジャー満足度★★★★★

Dr.パルナサスの鏡(2009年)

悪魔と契約し不死の命と引き換えに、自身の娘が16歳になったら差し出すことを約束したDr.パルナサス。トニーという男との出会いから現実とファンタジーの世界を行き来する興業を開始し、めくるめく夢幻の世界が幕を開けるーー。
こちらはヒース・レジャーが撮影途中で急逝したことから、彼の友人でもある俳優たちを集めて完成させた遺作。世界観やメイク・ファッションは全体的にケバケバしく、テリー・ギリアム味がしっかり出ているため、合う合わないが出やすいかと思います。加えてギャグや汚物描写も健在なので、評価がはっきり分かれてるのも頷ける。個人的には『ブラザーズ・グリム』よりかはテーマ性と世界観がマッチしてると感じたので結構好き。ヒースの演技はここでも素晴らしく、彼の後を引き継いだジョニー・デップ、ジュード・ロウ、コリン・ファレルにも拍手を贈りたい。
レジャー満足度★★★

というわけで今回のヒース・レジャー祭りはここまでです。色んな作品を観てると改めていい俳優だなあと思うと同時に、もし彼が生きていたらどんな作品に出演し、どんな怪演を魅せてくれたのだろうと少し感傷的な気分になりました。それくらい彼の演技はすごかった。ありがとうヒース・レジャー。でもまだ観れてない作品もあるんだよなあ。どうやら日本未公開の作品は配信もソフト化もないみたいなのでこれを機に(どんな機だ)一斉に配信とかしてくれるとありがたいのですが。
あ、ところで今回『ダークナイト』を見直すにあたってもう一人注目していた人物がいまして、誰であろうキリアン・マーフィのことなんですが、この人小者っぽい役似合いますよねえ~。ノーラン作品の常連さんですが、最新作『オッペンハイマー』ではついに主演に抜擢されたのを見るに妙な感慨深さを感じます。てか『オッペンハイマー』いつ公開するんですか配給さん。私この映画今年のラインナップの中で1番か2番目くらいに楽しみにしてるんですが。
まあ、それはそれとして、ヒース・レジャーは最高でした。希代の俳優に感謝を。

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