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『サクセッション(メディア王)』継ぐのは誰か?

世界的巨大メディア企業を経営するローガン・ロイとその子どもたち、そして彼らを取り巻く人々との愛憎劇を描いた海外のドラマシリーズ。この度最終シーズンまで観終わりましたので感想を書き残しておきます。なお、今回は(てかいつもか)シーズン4のオチまで書いてるので、これから見ようと思ってる方は読むの非推奨な記事です。

年老いたローガンが突然倒れたことで、家族は引退後の後継問題について考え始めるが、ローガンに現役を退く気はなかった……。それぞれのエゴと苦悩と欲望と愛、そして愚かさについて、ユーモアを交えながら力強く描ききったやり過ぎなくらいやっちゃってるブラックコメディ。

いやー、面白かったなあ。「ビジネス」に関するお話ではありますが、「家族」の物語でもあって、個々のキャラクターや関係性がわかりやすい上、奥行きもあるため観ればみるほど面白くなっていきました。だいたいみんなクセが強く、はっきり言って”良い人”たちではありません。でもそここそがこのドラマの訴求力にもなっていて、彼らのダメっぷり、バカさ加減、セレブならではの感覚ってやつにどんどん惹きつけられていきます。唐突に人物の表情をアップにしたりと、ドキュメンタリーちっくなカメラワークにはクセがありますが、すぐ慣れますし平気へーき。というかあの撮り方だからこそセレブたちの生活や本音を「盗み見」している感覚を味わえるので、むしろこうでなくっちゃね。
権力を手にし、そこにしがみつく白人、そしてその一族たちをこんなにも滑稽に映し、アメリカという「お国柄」をバカバカしいものとして可笑しく見せる。なおかつ重厚感もたっぷりと、こいつはすげえドラマです。役者さんみーんな演技が上手く、ドラマの中でちゃんと「生きて」いるのも良いですね。

テーマは、「資本主義国家」であるにも関わらず「家族至上主義」でもあるアメリカの歪さを、そこに囚われた兄弟たちの姿を通して映し出すってとこにあるのだと思います。最終シーズンではそれまでのお話で積み上げてきたものを全て使って刻一刻と変化していく人々の相関図とビジネスの状況を、皮肉たっぷりに、下品に、格式高く、情熱的に、馬鹿馬鹿しく、愛を持って魅せてくれました。

基本はコメディなこのシリーズ、シーズン2ではイノシシゲームをみんなでしたり、ケンダルのラップが披露されたり、クルーズ船の醜聞があってもその公聴会の前に豪華客船に乗って出かけたり、ブラックユーモア満載で、やってんなーって感じです。でも台詞や表情ひとつひとつに色んな「駆け引き」や、個々の権力に対する「指向、思惑」が感じられ、とにかく脚本がよく出来ています。

シーズン3、全9話のうち前半はローガンVSケンダルの構図になってましたが、ケンダルは次第に息切れしていき戦いの場から身を引いていきましたね。ローマンやシヴもそれぞれ思惑を持って動いており、誰が誰の敵で、どう絡んでいくのか。裏切り、共謀、蹴落としと、様々な策略がうごめいている様子が見ていて楽しかったです。後半からはGoJoという海外のIT企業が話に絡み、風刺として見てもいいと思いますし、家族ドラマとして見てもすんごく面白い。企業経営や政界とのつながり、メディアの横暴、白人特権階級の傲慢さといったことを描いてはいるけれど、何より人間ドラマとしての出来の良さが際立っており、だからこそ多くの人にとって楽しめる作品になっているのでしょう。

あとこのドラマ、全体を通して卑猥で下品なジョークが連発されます。だいたいみんな口を開けばブラックジョークと下ネタばかり。あんたらそういうの挟まないと会話できんのか。特にローマンは色んな意味でやばかったな。ジェシーとの関係性とか特に。いや、というか父親も「ナニ」がどうのこうのと、家族内で言うか普通?ってレベルの発言をたくさんしてますし、そういう家系ってことなんですかね。てか字幕ではだいぶマイルドになってる気もしたので、実際にはもっときつめなジョークを言ってる気もするなあ。

セックス、ドラッグ、殺人といった刺激的な要素も無いわけではないですが、そういったものを一要素に過ぎないレベルに留めて、ビジネスをメインにこれほどスリリングなドラマを作れるのは凄すぎます。

んで最終的にトムが継承することになったのは予想外だったけど、終わってみるとすごい納得感もあったなあ。常にローガンの様子をうかがい、時勢を見ながら適応してきたわけだし、人を見る目があるのは確かだもんね。自分で自分を売り込むことにも長けているし、そりゃそうなるか。ドラマ上では三兄弟の目線から見た「トム」が描かれていたため軽薄でポンコツに見えていたけど、勝ち馬に乗る才能と、常に会社に忠実という点で言えばトムは間違いない。
っていうか三兄弟はみんな欠点が多すぎるんだよなあ。そこも含めて人間味があって好きなんだけど。仕事に私情を持ち込みすぎだし、庶民的な目線が欠如している上、父親の幻影に囚われているせいで肝心なところで空中分解してしまう……。

あと、個人的にはこのドラマ「人はそう簡単に変わらない」ということを描いているように感じながら観ていました。ケンダルは強烈な体験をして変わるチャンスはあったけど、「父親のように」あるいは「父親とは違うように」ということを意識し過ぎていて、そのせいで何もかも上手くいかない。そのくせ父親の悪しき男性性みたいなところを変に引き継いじゃったせいで、最終的には時代にそぐわない言動ばかりになってしまい、より一層孤独な人に。というか彼は水難の相があるので今後は水にはなるべく近寄らないようにすべきですね。
シヴが最後に考えを変えた理由はいくつかあるだろうけど、やっぱり台詞通り「ケンダルには無理」だと感じたからなんだろうな。そして彼女自身も自分の限界(というか状況の限界か)を悟ったようにも見えたし、最後の絶望感はどちらかというとケンダルよりシヴのがひどく見えたな。あの状況から逃れる術は無そうですし……。
ローマンは良かったですね。いや状況だけ見たらぜんぜんよく無いんですが、地位とか財産以外で言えば、このドラマで一番何かを得たのは彼だと思います。自分たちのことを「クソだ」という彼はようやく”ローガン”という呪縛から解き放たれたんじゃないでしょうか。

白人の男性が新CEOとなり、美味しいところは海外の企業に全部持って行かれ、共和党のファシストが新大統領として誕生する。その人間模様や状況設定は、『ゴッドファーザー』を彷彿とする部分が多々あり、であるがゆえに旧来の家族愛や兄弟愛や夫婦愛といったものを徹底的に破壊する方向に舵を切る脚本からは、アメリカに根付くそういった概念の斜陽を描いているように見えました。
練り上げられた脚本と、俳優たちのすばらしい演技(マジでみんな演技がすごかった)、印象的なカメラワークと衣装や舞台美術。そして要であるブラックジョーク。どれも一流の出来であり、「ドラマシリーズ」というものの面白さを再確認させられる作品でした。

ただ邦題については『メディア王 〜華麗なる一族〜』なんて大衆受けを狙ったダサいものにせず原題のまま「サクセッション」で行ってほしかったな。そっちの方が「継承」というこのドラマのテーマが見えやすくなるし。

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