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『ブラック・ミラー』で好きなエピソードあれやこれや

Netflixを代表するSFドラマシリーズ『ブラック・ミラー』。最近になって見始めたのですが、見事にハマりました。なにこれすっごく面白いじゃーん。1話につきだいたい60分~90分くらいの短編ドラマとなっているため、基本的にどこから見ても問題無く、映像も俳優もレベルが高い。暗い話、ブラックな笑い多めの話、風刺もりだくさんの話、回によってはかなりどぎつい話もありますが(てかそんな話ばかりですが)、ハマる人はどハマりするであろうすばらしいシリーズでした。近い傾向の作品で思い浮かぶのは藤子・F・不二雄先生の『異色短編&SF短編』あたりでしょうか。ああいったブラックユーモア満載なSFがお好みの方ならきっとにっこりしちゃうと思います。実際私はにこにこしながら観ましたし(あまり参考にならない情報)。
というわけで今回は、そんな『ブラック・ミラー』の中で特に私が気に入ったエピソードを紹介してみようと思います。


シーズン3「殺意の追跡」 (原題:Hated in the nation)

まずはこれ。タイトルからして物騒ですね。
SNSで批判をあびたジャーナリストが殺されるところに端を発し、刑事たちが犯人を追うというサスペンス風の近未来SF。1時間30分とシリーズの中では最も長尺で見応えあります。裁判シーンもあるので裁判フェチの方、あるいは聴聞フェチの方にはおすすめですね!(そんなやつあんまおらん)。あと途中でヒッチコックの『鳥』ならぬ『虫』が始まります。まんま言っちゃうと虫が大量に出てくるシーンがあります。こわいよー。なので苦手な人は注意しましょう。SNSの誹謗中傷と、過熱する集合意識。暴走したそれらがドローンミツバチとなって具現化し襲ってくるという「絵」の強さ。いま、このタイミングで起きていることを、すこしだけ先にあるテクノロジーによってわかりやすくして見せる思考実験的な愉悦。『ブラック・ミラー』のテーマは作品によって異なりますが、その中心には「人々の欲望」というものがあると私は思います。その意味でこの作品は、中心となるそのテーマをストレートに味わうことができる作品といえるでしょう。


シーズン6「ジョーンはひどい人」 (原題:Joan is Awful)

メタメタです。戦慄が走るほどのメタ展開を怒濤の勢いで突っ走る一遍。観ながら笑いと恐怖が同時に来るという希有な体験ができました。いやー、こりゃひどい。
若くして成功を収めた女性ジョーンは人気配信プラットフォーム(どう見てもNetflixです)で自身の生活を元にしたドラマが作られていることを知る。サルマ・ハエックが演じるそのドラマはジョーンの身に起こったあらゆることを逐一配信していくというとんでもない内容だ。しかしそれらは配信サービスの利用規約許可した内容のため法的にはまったく問題なし。混乱の度合いは話が進むほど増していき、それに伴って彼女の実生活はどんどん悲惨なことになっていく。やがてジョーンとサルマ・ハエックが邂逅し、筒井康隆ばりのメタ的でドタバタな展開を見せていくことに。観ていて「自分もふだんの生活やちょっとした言動をすべてドラマとして世界に配信されたとしたら」なんて想像してしまい、悪寒を覚えました。コメディテイストですが怖いったらないね。しかもこのジョーンのまわりの世界それ自体もひとつの仮想的な作品であり、一部の人たちはそのことをちゃあんと認識していて、一階層上にはまた別の「自分」がいるという……まあとにかくむちゃくちゃです。
アルゴリズムによって規定されたあなたの生活、代用がいくらでもいる自分という存在、利用規約をまったく読まない私たち(笑)、扱ってるテーマが身近すぎて嫌でも感情移入しちゃいます。そしてこんなにぶっ壊れた設定なのに何故か最後はあたたかい気分になるという……いったいなんなんだこの話は。


シーズン1「国家」 (原題:The National Anthem)

シーズン1の1話目にして最大の問題作。そして『ブラック・ミラー』シリーズを象徴する話でもあります。
イギリスで国民から人気のスザンナ姫が誘拐される。犯人も目的もわからず、国中が混乱する中、英国首相にある”要求”が突きつけられてきた。それは「首相が豚とセックスしているところをリアルタイムで放映しろ」というもの。これに対して国民たちは大盛り上がりし、中継を流せ流せと迫ってくる。スザンナ姫を人質に取られていることもあり、苦渋の決断の上、首相はその行為を実行に移すこととなり……という内容。あくまで寓話ではあるのだけど、SNSの醜悪な部分や、もっと根本にある人間の欲望について、えぐみたっぷりに見せつけてくる作品です。1番最初にこれを持ってくる気骨とセンスがまずすばらしいですね。衝撃的な内容ということもあり冒頭から最後の場面まで眼を離すことが出来ませんでした。つまりそれは、私もまた大衆が持つ醜悪さから逃れられていないということを意味しているわけで……。
まぎれもなく傑作、だけどよい子は見ちゃだめだよー。


シーズン3「サン・ジュニペロ」 (原題:San Junipero)

こちらはすごーく感動的なSFです。ブラックユーモアや風刺だらけの性格の悪いSFばかりが特徴の『ブラック・ミラー』ですが、それらはこの作品を光らせるためにあったんじゃないかと思うほど観る者の胸を打ちます。
始まりは1987年、クラブで出会ったふたりの女性ヨーキーとケリーは互いに惹かれ合っていく……。しかしケリーは姿を消し、今度は舞台を90年代に移し、再び彼女たちは出会う――。
まあつまりこれはVRおじさんの初恋と同じ構造のお話です。現実の世界では余命の短い二人の女性がバーチャルな空間で若い姿のまま出会い、現実では知り得なかった人生を謳歌する。そこには同性愛者婚や安楽死を厳しく取り締まる世の中に対する問題意識も読み取れることでしょう。生命とは「誰」のものなのか。その命を「どう」使うのか。彼女たちの胸をこがす愛は確かにそこに存在し、新たな価値観を通して、あるコミュニティにコミットすることでしあわせを見つける物語。SFが持つ「寛容さ」が、この短編には美しく理想的なかたちで確かにあります。名編。


「バンダースナッチ」 (原題:Black Mirror: Bandersnatch)

新感覚! 近いもので言えば『街』とか『428』といったサウンドノベルになるでしょうか。ドラマ作品ではあるものの、画面に選択肢が表示され、視聴者の選択によって話が分岐していくというめずらしい体裁のインタラクティブな映像作品。しかし天下のネットフリックスがしかけるこの「アドベンチャー型のドラマ」は、それぞれのルートの先を見せてくれるだけでなく、ループしてる感覚そのものもストーリーに組み込んでいるため、仮に”明らかに間違った選択肢”を選んでしまっても、迷宮に迷い込んだ体験そのものがエンタメの一部となっている。おそらくハマった人は色んなルートを覗いてみたくなるんじゃないかな。中にはアクション要素強めのルートや、メタフィクショナルな展開になるルートなんかもあったりするし。配信時代ならではの体験型映像作品であり、集中力を途切れさせずに楽しませようとする遊び心が感じられてグッド! 私はだいたい1時間半くらいで、(おそらく)正規のエンディングにたどり着きましたが、探せば他にも自分好みのルートがありそうな気がします。てかもしかしたらこの作品、「ひとつの正しいエンディング」ってやつに対する問題提起も込めてるのかもしれないなー。終わるまでどれくらい時間がかかるのかわからないように作られているのも「時間換算しながら作品を視聴する」ことに対する疑義にも感じたし。まあとはいえあんまり難しいこと考えず、思うがままに選択肢を選び、何度も失敗しながら答えを探しながら映像を観るというのは新鮮な楽しさがあります。万人ウケ、どころか少数の人にしか刺さらなそうな気がするけど、こういう冒険心のある作品は応援したくなりますね。

全体を通してハイクオリティな話が多く、観ていて飽きない、とても充実感のあるドラマシリーズでした。この他にもスぺオペ、AI、ミリタリー、ポストアポカリプス、医療……と手を変え品を変えて楽しませてくれます。オチに関しては胸くそや鬱っぽいのが多いですが、その分コクのある余韻に浸れる作品もたくさんあり、SFや風刺の持つ力、面白さをたっぷり味わえることでしょう。こういうブラックな短編SFは人気が出ないとすぐ打ち切られますし、作る面でも大変でしょうから、これからも応援していきたいと思います。全体のテーマとしては「人々の欲望」や「現実の虚ろさ」や「テクノロジーと社会」あたりなのかなと。いやー、しかし面白かったな。大好きなドラマがひとつ増えてしまった。




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