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『SISU/シス 不死身の男』フィンランドのおんじコルピ

「おしえてお爺さん、金塊を見つけたらどうすればいいの?」
「そうか教えてやろうハイジ、これは戦いだ。戦争だ。どんなことがあってもその金塊をナチスの豚どもに奪われてはならん。向かってくる奴らは容赦なく皆殺しにしろ。叩きのめせ、身の程をわからせてやるんだ。このツルハシこそがお前を守る。何があってもあきらめるな」

ジジイに萌える映画です。これ以上なく、これ以外ありえないというパワーを持って、もはや笑いがこみ上げてくるほどに。

時は1944年、第二次世界大戦末期、焦土と化したフィンランドで金塊を掘り当てた老兵アアタミ・コルピはナチスの豚どもとツルハシ1本でわたり合い、過激な戦闘を繰り広げる。だが、戦況は数の面でも武器の面でも圧倒的に不利。いくら何でもツルハシだけで戦車や銃弾に立ち向かうなんて正気の沙汰じゃありません。その命はもはや風前の灯。老兵は消えゆくのみなのであろうか。

否。断じて否である。

なぜなら、彼には”SISU”の魂があるからだ。ここにおいて「ジジイ=強者」という我々ボンクラが待ち望んでいた夢は果たされる。彼こそは最強の一人暗殺部隊。銃弾の雨を浴びせられてもなんのその。全身全霊をかけて荒野から脱出し、金塊を持ち帰ります。すべては「換金」という目的のために。

もうね、この映画を観て「普通死ぬだろ」とか「どうやって生き延びたんだよ」とか言ってる人はSISUのなんたるかがぜんぜん分かっちゃいません。もはや肉体の強さや、戦闘技術云々の枠を超えたところに彼の強さはあり、だからこそ絶対死ぬことがない。死神さえ近寄ろうとしない強靭さを理解させるために必要なことはただ行動あるのみで、だからこそ最後の最後までこの男は一切しゃべることがないのです。言葉などいらない。言葉なんて不純なものは不要なのだ。その通り! 肉体は精神に宿り、精神は行動となる。すべてはこの武器さえあればいい、その武器とはもちろん、

TSU☆RU☆HA☆SHI。

なんてエクストリームな暴力。彼がツルハシを手にしたが最後すべては可能となるのです。
『トルネコの大冒険 不思議のダンジョン2』をやったことがある方ならご存じでしょう。ツルハシという武器がどれだけ便利で強力な道具なのかを。地を削り、道を切り開き、決して壊れることのない最強のアイテム。これさえあればダンジョン攻略なんて軽いかるい。これぞまさにデウス・エクス・ツルハシ! いやというか、もっと純粋に「老兵×ツルハシ」という絵面のかっこよさ、その説得力。映画ポスターに描かれたその粋な後ろ姿から感じるとびきりな何かは、映画を観た後も決して裏切られることはありません。ツルハシを携えた老兵。この時点でもはやこいつの勝利は決まっていた。

映画ではこのシーンの後すごいことが起きます。

ジョン・ウィックがアクションにアクションを重ねることでグルーヴ感に近い感動を生み出していたのとはまた違く、ロバート・マッコールが闇の中で早く、鋭いモーションを行い暗殺の美しさを魅せていたのともまた違う、『SISU/シス 不死身の男』のアクションはバイオレンスで泥臭い、しかし爽快感たっぷりの強烈さを持っている。頭部に極太ナイフを横からガシンッと突き刺したり、水中の中で屠った敵の肺にある空気を吸ってやり過ごしたり(そんなこと可能なのか?)、地雷原があるならそれを有効活用じゃあ、これがほんとのエコってもんよと敵に投げつける。縛り首にされたんなら、自然とずり落ちるのを待てばいいじゃないってなもんで、なんと自分の傷口を出っ張りの金具に引っかけて耐えるというイカレ具合。思いついてもやらんだろ普通、ヤバすぎ。とにかく絵面がつよつよな作品で、もはや笑えてくるレベル。

ヨルマ・トンミラ扮する不死身のジジイが苦痛に顔をゆがめ、敵を睨みつけ、決してあきらめず立ち向かう姿は観ていて相当痛々しいにも関わらず、血だらだらで、どんどんぼろぼろになっていけばいくほど、何故か彼のセクシーさは俄然増していき「ジ、ジジイがんばれ~!やっちまえ~!!」という気持ちがふつふつとこみ上げてきます。
そう、やはりこの映画の成功のカギは劇中最後の場面に至るまでまったく一言も台詞を発せず、肉体による「アクション」「俳優の顔」で、凄まじい説得力を与えたことが要因です。

それはコルピに限らず悪役であるナチスの兵士たちも同様で、彼らのうすぎたなく生気の感じられない顔。反して目だけはギラギラと生きる力を失っていないブルーノ中尉の疲れ切った表情。非道な行為をされ、それでも闘志を燃やし続ける捕虜の女性アイノの精悍な顔つき。アクションの面白さだけでなく、「顔」こそが雄弁に彼らの精神を物語るのです。

だからこそ、女性たちが武器を持ち、反撃を開始する場面は『マッドマックス 怒りのデスロード』的なカタルシスがあり、血沸き肉躍る。銃を手に持ち横一列で並び歩く場面のなんと爽快なことだろう。彼女たちはコルピに救われたのではない、彼女たちもまた”SISU”魂の持ち主なのだ。それゆえに女性たちは解放されていく。肉体も、精神も。

後半コルピが「追われる者」から一転「狩る者」へとなってからは、ツルハシという名のエクスカリバーが俄然その輝きを増し、猛威を振るう。彼こそは不屈の精神の体現者。フィンランド発のこの映画はバイオレンスなアクションシーン盛り盛りで、とにかく、傷つくことでより美しく、よりタフになっていく老兵の姿に終始画面に目をくぎ付けにされてしまうことでしょう。

「SISU」。言葉に置き換えることが不可能なその意味を理解したいのならこの男の戦いを見れば十分だ。血沸き肉踊り、気分爽快、今日も明日もオールオッケー。わずか91分で最高に”効く”映画です。教えてやろう、ジジイの凄さを。その不屈の精神を。

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