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ちゃんとひまわり

袖無かさね



ボクは小さな虫です。飛び回るのがとっても得意です。


それなのに、ある日、教室の窓からうっかり入ってしまって、出られなくなってしまいました。あっちに行け、とみんなに言われてしまったので、ボクはしょんぼりと教室の天井に止まりました。

「今日はひまわりを描きましょう。」

教室の前に立っている人が言いました。みんなは、うんうん、とうなずいて、その人を「せんせい」と呼ぶので、そういう名前の人なんだと思います。


ひまわりを描く、ってせんせいが言ったら、教室のみんなは嬉しそうでした。


ふん!あんな花のどこがいいんだ。


ボクもひまわりのことは知っています。あいつらは、大きな黄色い花を咲かせて、いつも上を向いていばっているんです。ボクは、いばってるお花は好きじゃないんだ。


しばらくすると、音がなりました。キーンコーンカーンコーン!

「明日、続きを描きましょう。」

せんせいが言うと、みんなは教室の後ろの棚に画用紙を並べて、教室から出て行きました。あたりはしーんと静かになりました。


みんながあいつらをどんな風に描いたか、ちょっと見てやろう。ボクは天井から降りました。ぶぅーん。ほとんどの画用紙には黄色い花びらがいっぱい広がっています。 


やっぱりいばってる。ふん!


でも、その中に一枚、色のついていない画用紙を見つけました。白と黒だけ。へーぇ。「たぐち まき」と書いてあります。まきちゃんは、ひまわりのことを知らないのかな。


次の日も、ボクは教室の天井に止まっていました。

「今日は、ひまわりの絵を完成させてくださいね。」

ボクはそーっと飛んで、まきちゃんを探しました。みんなの画用紙は黄色ばかりだったので、白と黒の画用紙を見つけるのは簡単でした。まきちゃんの画用紙はいつになったら黄色くなるんだろう。不思議に思っているうちに、またあの音が鳴りました。キーンコーンカーンコーン!


せんせいが、みんなの席の間を歩いて画用紙を集めています。そして、まきちゃんのところで立ち止まったので、ボクはヒヤヒヤしました。ああ、まきちゃんはひまわりをちゃんと描かなかったから、せんせいに怒られちゃう!


でも、せんせいとまきちゃんは楽しそうに笑って、まきちゃんは張り切ってせんせいに画用紙を渡したのです。


謎だ。一体まきちゃんは何者なんだ。


そのうち、みんなは一斉に「さようなら」とせんせいにお辞儀をすると、教室から出ていきました。まきちゃんの謎を解かなくては。ボクはこっそりまきちゃんについて行くことにしました。

「お母さん、ただいま!今日ね、絵をほめられた!」

「そう!どんな絵を描いたの?」

「ココアのひまわり!」

そして、まきちゃんは部屋の隅にある四角いカゴをのぞき込んだんです。

「ココアー。ひまわりの種、食べますかー?」

四角いカゴの中では、薄い茶色のふわふわな生き物がちょこちょこと走り回っています。まきちゃんは、そのカゴに白と黒の小さな種を入れました。


あ!あの白と黒は、まきちゃんのひまわりの絵だ!


ふわふわな生き物は両手を伸ばして、まきちゃんが差し出したひまわりの種を受け取ると、小さな手でひまわりの種を大事そうに抱えて、丸い目をクリクリとさせて、夢中で食べ始めました。


まきちゃんの謎が解けました。まきちゃんはきっと、ひまわりが黄色い花だってことは知っているんだけど、ひまわりはそれだけじゃないってことも知っていたんです。


まきちゃんのお家の窓が開いていました。ボクは、今度は上手に窓から外に出ることができました。


公園に、黄色く並んだひまわりが咲いていました。ぶぅーん。ひまわりの花の間を飛んでみたら、しょんぼりとうつむいているひまわりがいたんです。ひまわりって、いばってるだけかと思ってたんだけど。


その、うつむいてるひまわりの顔をのぞいたら、もう黄色い花びらはなくなっていて、まきちゃんが描いたみたいな白と黒の種が、たくさんついていました。

「しょんぼりすることなんて、ないよ。」

ボクはそのひまわりの花に止まりました。

「たしかにね、教室のみんなは、ひまわりっていったら黄色い花が好きみたい。でも、まきちゃんも、まきちゃんのお家のふわふわな生き物も、白と黒の種のことが、大好きだよ。」





おしまい

photo by chin.gensai_yamamoto


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