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シワやヒダがキモ楽しい!触覚的なテキスタイルとしての有松・鳴海絞り

こんにちは、名古屋と京都を拠点に活動するデザインリサーチャーの浅野翔〈あさのかける〉です。これまでの3投稿が多くの方に閲覧されておいるようでとても嬉しいです!今回もよろしくお願いします。

さて、今回は打って変わってテキスタイルデザインを取り上げます。テキスタイルを5つのS〈エス〉から発想するとどんな試作が生まれるのでしょうか。

染色柄としての有松・鳴海絞り

テキスタイルと聞いてみなさんは何を想像するでしょうか。多くの人は「タテ糸とヨコ糸で織られた布」や「柄(パターン)がプリントされた布」をイメージしているかと思います。どちらも正解で、日本語で「織布」や「染色(捺染)」と書かれます。日本の繊維産業も例に漏れず、国家の近代化とともに大きな発展を遂げてきました。

今回取り上げる「有松・鳴海絞り」は、江戸時代から続く、染色を中心とした加工技術です。布を糸で絞り上げることで染色を防ぐことで柄を生み出すその手法は、浴衣や手ぬぐいなどのお土産物から、高級な着物まで応用され、庶民から富裕層まで多くの人に愛されてきました。
絞りの技法は、基本的には〈くくる・ぬう・はさむ〉の3つです。

風流な着物を求めるユーザーの声に応えるべく、たくさんの技法と柄を開発していきました。最盛期には150程度の平面的な絞染色柄があったと聞きますが、和装産業や繊維産業の冷え込みから、現在市場に出回るのはおおよそ20〜30程度にまで少なくなっているそうです。平面的な柄はプリント技術の発展により、追いやられていくことになりました。

くくりから生まれる伝統的な柄〈三浦絞り〉

平面から立体へ、形状記憶による再定義

転換点となったのは1992年に開催された国際絞り会議(World Shibori Network)です。日本を代表するファッションデザイナーを招聘して開催されたこの会議の中に、イッセイミヤケ代表の三宅一生氏がいました。産地を見学する中で彼が着目したのは、括りと染色の工程から生まれる布の「シワやヒダ」によって生まれる光の陰影だったそうです。縫製された衣服にプリーツを掛ける技術を開発し、93年に始めるPleatsPleaseの1年前。

それまで仕上げで平滑に伸ばされていた布が、立体形状のまま市場に出回るまで時間はかかりませんでした。プリーツに比べて無方向性を持つ絞りによるシワの形状記憶加工は、体にフィットするためフリーサイズ、持ち運びも容易で海外の旅行や出張が多い人が愛用していたそうです。しかし、景気が良い時代は長くは続きません。海外進出をしたもののパテントの問題などが引き金となり、下降の一途を辿っています。

くくりを施したテキスタイルに形状記憶加工を施したテキスタイルは動物的なヒダやシワが生まれ、伸縮性や通気性が付加される

触覚的なテキスタイルとしての魅力

平面的な染色から立体的な形状へとその価値を見直し、スターデザイナーの慧眼によって一時的に復活を遂げた有松・鳴海絞り。今救められているのは、「有松・鳴海絞りの魅力はなにか」ということです。

私自身も何度も工場を訪れ、多数の人を案内するなかである行動に目がつくようになりました。それは説明を聞きながら「布をサワサワ」する姿です。形状記憶加工を施したテキスタイルは立体形状ゆえに指や手に引っかかり、なんとも言えない気持ち良さを与えてくれます。フィジェットツールよろしく、言葉にならない声を出しながらクシャクシャしたり、サワサワしたりしながら、どこか遠い世界へ行ってしまう人たちをたくさん見てきました(笑)フラットなテキスタイルにはない魅力です。

絞りの基本技法である〈くくり・ぬい・たたみ〉をモチーフにしたパターンとタイポグラフィ

触覚的なテキスタイルを起点に、SHIBORI HAPTIC TEXTILE展

ロイヤル・カレッジ・オブ・アートのテキスタイルデザイン学科で教鞭をとるアン・トゥーミー氏は、テキスタイルデザインは3つのS〈エス〉から構成されていると言います。すなわち、視覚的な柄を生み出す表面の造形(=Surface)、素材に加えて織りや編みなどテキスタイルの構造(=Structure)、そして最後に、どのような生産工程をとるのか(=System)です。私はこの発想に「どのようなユーザーがどのようなシーンで使用するのか(=Scenario)」と「どのようにユーザーに活用されうるのか(=Strategy)」を加えて考えるようにしています。
3月4日[日]から10日[土]まで、東京・月島にあるセコリ荘で開催される「SHIBORI HAPTIC TEXTILE」では、有松で活動する4名のテキスタイルデザイナーと有松・鳴海絞りにおける5つのS〈エス〉を考えています。触覚的なテキスタイルとして絞り染めをとらえ直した時に、どのようなシナリオを描くことができるのか、どのようなテキスタイルが生まれるのかを問いかけました。さまざまな素材から生まれるテキスタイルが持つ触覚の面白さは、プロトタイプを直接触りながら感じてもらいたいと思います。

SHIBORI HAPTIC TEXTILE展

会 期|2018年3月4日[日]ー10日[土]
会 場セコリ荘(都営大江戸線・東京メトロ有楽町線 月島駅 10番出口より徒歩3分)
マップアクセス、Google Mapを開く
時 間|11:30ー20:00(5日[月]は15時閉場、10日[日]は16時閉場となります。)
入場料|無料・事前予約不要
*会場の都合により、来場者多数の場合は、入場を制限することもございます。予めご了承下さい。
*ご来場の際は公共交通機関をご利用ください。
出 展|泉水綾乃、得能慎司[有限会社 絞染色久野染工場]、村口実梨・伊藤木綿[まり木綿]

企 画浅野 翔(デザインリサーチャー)
協 力有限会社絞染色 久野染工場、まり木綿

ウェブhttps://shiborihaptictextile.com
https://www.instagram.com/shiborihaptictextile/

お問い合わせ|shiborihaptictextile@gmail.com[担当: 浅野]

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