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大雨が降ると思い出す人々

今日は珍しく、ここ南カリフォルニアは大雨だ。
朝方4時の授乳後に外を見ると、無数の雨脚が街灯に照らされている。

大雨になると、思い出す人々がいる。

一人目は、上野公園で。

わたしは上野を庭にしていたことがあるので、よく変なところで
『上野駅はどっちですか?』
と声をかけられた。

日本人、外国人どちらでも。

もはや、上野公園界隈を歩いていると上野駅がわからなくなる魔法でもかかるのかと思うほど訊かれた。
五稜郭さながら。

その日は大雨で、傘をさして歩いていると、
白髪の小柄な老婦人に話しかけられた。
『上野駅はどちらですか?』

いつも通り、"ここを…"と説明する。
老婦人はわたしにお礼を言い、去り際に
『あいにくの雨ですね』
と添えた。

あまりの詩的な表現に、
わたしはその老婦人を"老貴婦人"と呼びたくなった。

もう、あなたは純文学2周していて司馬遼太郎あたりに落ち着いていてください、と思った。

わたしは『あいにくの雨ですね』を大変気に入り、
当時作っていた曲の歌詞にいれた。


二人目は、不動前駅で。

不動前駅は、目黒線の各停の駅だ。
オシャンな目黒の隣駅なのに、どこか庶民の香りがする。

わたしは仕事でその駅を訪れていた。
時間調整をするために、ホームで10分ほど暇を余していた。

隣に、メガネが曇るくらい高齢なおじいさんが座っていた。

小雨が急に土砂降りになり、ホームの屋根に雨がバタバタ当たる。

おじいさんは、きっかけを得たようにわたしに話しかけた。
『あんた、この辺の人かい?』

わたしは質問に答え、秘技のように
『あいにくの雨ですね』
と言った。

受け応えがいい若者だ、となぜか気に入られ、堰を切ったように話し続けた。

この辺の進学校の変遷はこうで、いまはこう。
わたしはクリーニング屋を営んでいて、最近引退したんだよ…。

快速が過ぎ去り、次に各停が来た。

各停しか停まらない駅なのに、おじいさんは見送るらしい。
おじいさん、どの電車待ってるんですか。

わたしはとっさに、『お元気で』と言い残し、電車に乗った。

雨の日は、知らない人と話したくなる。


<あとがき>
コニシ木の子さんのお話し、「ひとまずおじいさん」と「お待ちください女性」が引っかかり、ここまで来てしまいました。わたしは知らない人とスモールトークするのが好きです。アメリカは日本以上にスモールトークするのが好きな文化なので、早く英語を自由にあやつりたいです。

ではでは、良い一日を!

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