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#青く染まれ


3



「今日はありがとう。また来ますね。」



終演後のライブハウス。

間もなく日付が変わる。


まだ今日の余韻を残したまま、東京へ向かう車に乗り込む。




自分たちが作った音楽を携えて全国各地へ。

そんな生活を続けて、もうかれこれ20年近くになる。






この間、音楽業界を取り巻く環境は大きく変わった。



CDは売れない時代になった。


ライブが出来ない期間もあった。




それでも、今、こうして音楽で飯が食えている。



それどころか、
この国じゅうに友人が出来て、
自分たちの音楽を聴いて、
待ってくれている人がいる。



ありがたい。
こんなに幸せなことはないよな、と思う。






それなのに何故だろう。


こんなにも満たされない気持ちになるのは。





何時もというわけではない。

ただ、時々そんな気分に襲われる時がある。

ライブから帰ってきた1人の自室で。

目を閉じても眠気がやってこない夜に。



深い、深い、闇の中へ沈んでゆく。











-そこには誰もいない。


一人きりの世界。


誰か、誰かいないのか?


いくら呼んでも、叫んでも、反応は返ってこない。





光を求めて彷徨う。


どこまで行っても暗闇は続いている。










「……さん?」



「ナオさーん?」


その声の主はタツヤだ。


俺たちのバンドのファンで、
「どうしても一緒に仕事をしたい」と猛烈にアタックされたことから、
スタッフとして付いてくれるようになった。


今日のようなライブ先の移動も
彼の仕事になっている。


「顔色悪くないですか?飲み物買ってきますよ」


「大丈夫。ちょっと疲れてるだけだよ」


「そうですか?なら良いんですけど。
でも他になんか欲しいものあれば言ってください」


「ありがとう。じゃあおにぎりお願いしていいかな」


「わかりました!」



タツヤは真っ直ぐという言葉そのもののような人間だ。

その真っ直ぐさはどこか危うささえ感じるほどである。


しかし、そんなタツヤは人の心を動かす力がある。自分もそんな彼に心を動かされた1人なのだと思う。


彼のすべてを信じきっているような瞳でこちらを見つめられる度、思う。

「嘘をつかずに生きなきゃならない」と。


強さも弱さもあるのが人間だ。

陰極まれば陽と転じ、陽極まれば陰に転ず。

まだまだ立ち止まってはいられない。




お気持ちだけで十分嬉しいですけれども、もしサポートしていただけましたら 我が家のかけがえのないにゃんこの命を守るために大切に使わせていただきたく存じます🐱(*^^*)