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【詩】川の眺め

空走る雲の道、青々と突き抜けて
河原を駆けるひなたの風が
絶え間なく吹き寄せる
川面に散らす光のしぶきが
さざ波に煌めきながら
ひととき、沈黙を語っている
 
溢れ出る草の吐息、深く立ちこめて
土手に茂る無数の茎と葉が
自由気ままに手を伸ばす
気紛れに咲く女郎花が
風に揺らめきながら
人知れず、まぶたを伏せている
 
前を向けば海の神
沸きあがる雲、潮の風
大海のめぐみを打ち寄せる
 
振り向けば山の神
立ちのぼる雲、陸の風
大地のみのりを注ぎ込む
 
さかのぼる風、かけくだる風
川は、休みなく、深い呼吸を繰り返す
河原は、息吹きの通り道だ
 
なぜ人は、風を遮ろうとするのだろう
地を這う四肢は、あまりに華奢だ
命は、つかの間の影に過ぎず
手も足も、力尽きる
さからえば、失われる
人もまた、通り道の石ころに同じ
運ばれて、流れつづけていく
 
川は、たゆみない鼓動の波で
俗世のけがれを、洗い流してゆく

©2023  Hiroshi Kasumi

お読みいただき有難うございます。 よい詩が書けるよう、日々精進してまいります。