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【詩】大樹

大きな樹には 静寂がある
おおいかぶさる梢の
力いっぱい ひろげた枝の
たわわに揺らす 葉の繁みに
日の光が 薄く翠りにかがやき
見上げる瞳に 眩しく触れている

雲が 空を流れていても
梢はやさしく 撫でるだけ
風が 山に騒いでいても
枝葉をしずかに 揺するだけ

深く まるい傘の下を
匂いのしぶきで つつみこみ
風を さえぎる砦となり
深い呼吸に 満たしている

大きな樹のたもとで
なぐさめが 足をとめている
慌ただしさも 息苦しさも
苛だちも 諦らめも
束の間 わすれて

 枝をわたる 鵯の声
 葉擦れにうたう 蜘蛛の糸
 繁みをゆする 鴉の影
 樹皮にうごめく 虫の群れ

樹は 命の揺りかごだ
やわらかく 苔むす幹の其処此処に
生まれ 育ち 滅びてゆく
しなやかに 伸ばした梢の頂きに
訪れ 宿して 飛び立ってゆく

無数の 命のいとなみを
あるがまま 見守りつづける
刹那の 通りすがりは
弛緩して  降りそそぐ
安堵のしずくに 立ちすくむだけ

©2023  Hiroshi Kasumi

お読みいただき有難うございます。 よい詩が書けるよう、日々精進してまいります。