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【詩】風道

風を浴びている
峡谷の河原で、目の前にせまる
山を見あげて、風を聞いて
山を覆う森の、みどりの斜面を
空が、かけ降りてくる
足もとを、くだる川のしぶきが
つきることなく、ざわめきながら
勢いにまかせて、かけ抜けていく
川は、宇宙の通り路だ
とどまることなく、風となって
吹き抜けていく

照りつける日の光
山をわたる風の音
森に息づく命のにおい
空にはばたく鳥のさけび
風におよぐ木の葉のきらめき
岩をはなれた砂れきの濁り

命あるものも、なきものも
意思持つものも、持たぬものも
すべて、逆らうことなく
風洞の斜面を、かけ降りる
人はただ、その有り様をみつめて
立ちすくむばかりだ
なすすべもなく、風を浴びている
水面にうつす、迷いの翳りが
流れの底に、透きとおっていく
過ぎゆく水は、もどらない
目に見える姿は、刹那のまぼろし
眺めは、いつも後のまつりだ

ポチャンと、イワナが跳ねた
煌めいて、ひろがる波紋に
人は、振り向いて
空中の痕跡をみつめている


©2022 Hiroshi Kasumi

お読みいただき有難うございます。 よい詩が書けるよう、日々精進してまいります。