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【詩】風音

大きな山のふところに立ち
広い空の下、白い雲を見上げている
風の音が聞こえている
草のみどりが美しい
花のにおいがしている

鳥のさえずりも、梢のざわめきも
草葉の波も、虫の羽音も
地上の音はすべて、青々とした空に
吸い込まれていく
つつまれて、とけ込んでいく

空高く、あつい日ざしが降りそそぐ
草は、無数の手をひろげ
よろこびに、ふるえている
樹は、両腕に力をこめて
懸命に、背伸びをしている
ゆったりと、その場にすわりこんで
耳をすましている

鳥も虫も、木も草も
無心に、風に吹かれるまま
迷いもなく、定めのみちびきに
逆らうことなく、限られたひと時を
あるがまま、過ごしている

しずかな鼓動が聞こえてくる
止むことのない、季節の息吹き
命をはぐくむ、大地の吐息だ
どこからか、人の気配が響いている
静寂を閉ざす、不穏なざわめき

なぜ人は、騒々しく生きるのだろう
風にあらがい、行く先を案じて
飽きもせず、戯れ言に興じている
満たしきれない、幻想を追って
慌ただしく、通りすぎてゆく

風は、何事もなく吹いている
山はだまって、見おろしている

©2023  Hiroshi Kasumi


お読みいただき有難うございます。 よい詩が書けるよう、日々精進してまいります。