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【詩】青田

梅雨の晴れ間のあぜ道を
山風が、駆けてゆく
瀝たる汗を、吹いて運んで
滾ぎるほてりを、拭い去ろうと

走り穂を待つ、早稲のうねりは
すまして、平らにならんで
たわわに水を、たたえている
泥の水底に、首をそろえて
あおい背すじを、のばしている

風に波打つ、葉の海原に
遠い山なみの、眺めはしずんで
息づく呼吸が、におい立つ
鼓動のしぶきが、立ちこめる

陽に映える、黄みどり色と
雲がさえぎる、深みどり
せわしく揺する、葉擦れの先で
雲のすき間に、手をさぐり
風の背中を、撫でている

さざ波が、静かな波紋をひろげてゆく
陽炎が、むこう岸で揺れている
立ちのぼる、饐えたにおい
肌を打つ、熱気の兆し
おし寄せる、真夏の気配に包まれて

蜻蛉が、風の背中を泳いでいる
ふるえる翼で、宙に浮かんで
餌の羽虫を、追っている
見ひらく目で、四方を見据えて
透きとおる翅を、ひるがえす
躊躇いも、哀れみもなく
黙って待つのは、虚無だけだ

まもなく、梅雨は明けるだろう
若穂が、開花に疼くだろう
熱く、まばゆい夏陽を受けて
空に叫びを、放つだろう

©2023  Hiroshi Kasumi

お読みいただき有難うございます。 よい詩が書けるよう、日々精進してまいります。