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【詩】大淀川

堤防の道を歩いた
くだっていく、水と一緒に
ゆっくりと、声を失って
光る水鏡に、影絵をのせて
川は、橋のたもとを流れてゆく

やがて、さざ波が寄せてくる
ひたひたと、ひろがる波紋
下流から押そうとする波が
うっすらと、水鏡を乱して揺れている

山なみにかかる白い雲が
物言わぬ水面を見おろしている
照りつける太陽のかがやきを
無秩序に、散らしている
下ろうとする川の流れと
上ろうとする潮の襞と
ぶつかり合い、かさなり合う

わたしは立ちどまり
水面に描かれたつづれ織りを
ひととき、眺めている
浮き葉の舟に、ゆだねるように
人は、流れに押されるまま
浮きただよって生きているのか

河口が近づけば
岸辺に、潮が打ち寄せる
川は潮の勢いに押しもどされて
後ずさりをはじめる
海が遡ってくる

遠い海原をのぞむ河口に
砕ける白波が、見えている
ほのかに、磯のにおいが漂いはじめた
わたしは深いため息をついて
まだ聞こえない潮騒に
耳をすましている


©2022  Hiroshi Kasumi

お読みいただき有難うございます。 よい詩が書けるよう、日々精進してまいります。