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【詩】鸚鵡

坂の途中の路地のほとり
小さな鳥籠に吊り下げられて
君は止まり木に坐っていた
饒舌だった嘴を閉じ
虚ろにみつめる瞳を開けて
身じろぎもせず
目の前の空間を眺めていた
鮮やかな翠色の羽をたたんで
乾いた瞼を見開いていた

ケージの中で生まれて育ち
温もる部屋で暮らした君は
熱い雨林を知ることなく
果てない空を知ることもない
風に打たれたこともなく
雨脚に追われたこともない

君が見てきた小さな世界は
ひろがる宇宙のわずかなすきまだ
君が過ごした出会いの日々は
流れる時間の短いはざまだ

君は黙ってみつめている
不満も、恨みもなく
迎える死を、思い煩うこともない
人はなぜ、悔やみ悩むのだろう
広い大地を我がもの顔で
駆けまわり、飛びまわる
口やかましく、喋り散らし
満たされず、疲れ果てる
見えない答えを追いかけ続けて

鸚鵡よ、君は眺めているのか
人の言葉の虚しさを
言葉が語った空々しさを
その場限りに過ぎていった
お喋りどもの行き着く果てを


©2023  Hiroshi Kasumi

お読みいただき有難うございます。 よい詩が書けるよう、日々精進してまいります。