見出し画像

【詩】穴ぐら

風は息をとめている
日差しはさえぎられて
冷たく、声を殺している
無作法な壁の連なりが
まなざしの行く手に立ちはだかり
むこうがわに、あるはずの
空の眺めを切り取って
遥かな地平をあきらめてしまう

みな、先を急いでいる
列をなし、群れをなして
入り組んだ迷路をくぐり抜け
思い思いの行き先に
憑かれたように、導かれて

長いエスカレータを上がっている
トンネルの出口をさがして
列の行く方を疑うもなく
前行く影を、追いかけながら
背中の足音に、急かされている
穴の底を逃がれ出て
漏れ射す光をめざしても
出口のむこうは、また入り口だ

日の当たらない毎日を
なりゆくまま、遣り過ごす
吐き捨てられて、埋もれた憂いが
行き場もなく澱んでいる

石とガラスを張り合わせ
積み木の巣穴を、重ねていった
得意気に、虚空に浮かんで
見渡す限りを埋めつくす
無秩序なたいらを、見下ろしている

地面は、日陰に沈んでいる
覆いつくす、つくられた岩盤に
乱雑に刻み込まれた細い溝
滑らかに、踏み固められた回廊を
穴から、穴へ
途切れることなく
表情もなく、流されていく

説き伏せられた、近視の目線は
空を忘れて、虚ろな水底を泳いでいる
うずめてしまった穴ぐらから
上へ、上へと背伸びをして
小さくひらいた天窓に
何を見ようとするのだろうか
星に焦がれる眼差しは
揺れて転びそうな、つま先立ちで
なすすべなく、もがいている

©2024  Hiroshi Kasumi

お読みいただき有難うございます。 よい詩が書けるよう、日々精進してまいります。