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公務員にもマーケティングは必要ですか?(7) ~ペルソナを作る~

前回の記事に少し写真を追加してみました。
三芳町さんのホームページや広報紙は、やっぱりインパクトありますね!
イイ意味で全然行政っぽくない。

7.ペルソナを作る

前回は、3Cから4Pや4Cへ展開するためのツールの2つ目としてUSPをご紹介しました。
USPとは自社(の商品やサービス)のみが持つ独特の強み、つまり"ウリ”のことだと説明しましたが、そこにはなくてはならない3つの要素があります。

①どんな人に?(メインターゲット)
②どんなイイコトが起きるのか?(ベネフィット)
③他と何が違うのか?(差別化、ポジショニング)

要は、STPがしっかり反映されていることが必要だということです。

私は、この3つの中で人によって一番ブレやすいのが「①どんな人に」だと思っています。
メインターゲットのイメージは、顧客側からは漠然としたものでも構わないし、何なら見えなくてもいいのですが、担当者においては詳細に設定して把握しておかないと、PDCAのあらゆる場面で支障が生じます
どんなに仲の良い人同士でも「30代女性」という人物像についてお互いのイメージを話したら、自分のイメージと相手のイメージが同じになることはありませんよね。
ましてや、人事異動などで担当者が変わった時はなおさらです。

公平性・公正性がターゲティングの邪魔をしてしまう

少しでもイメージを近づけて共有するためには、詳細な設定を決めておくことが必要なのですが、行政においては、その施策や事業を「なぜ実施するのか?」といった目的や意義は必ず明文化しますが、「誰のために?」というターゲットの部分は非常に曖昧で幅を持たせていることが多いです。
「年代」「性別」「子ども」「高齢者」など大枠の対象者しか決めておらず、もっと言えば「住民」という全く細分化されていない状況であることも多いです。

これは行政において「公平性・公正性」という、絶対的な概念が存在することが大きな要因と考えています。
住民に差をつけてはいけない、特定の人に有利・不利になることがあってはならない、という公として遵守しなければならない姿勢が徹底されていればいるほど、ターゲティングはできなくなってしまいます。
ですので、ここでは制度上は対象者が「全住民」だったとしても、その中でもコアなステークホルダーとなるメインターゲットは、きちんと考えておきましょう、という前提でお話しします。
「ゼロか100か」のように合わない人を切り捨てるのではなく、大事に付き合う人を明確にする、という考え方です。

メインターゲットを考える際に有効な手段として、ペルソナを作るのが一般的です。

ペルソナ
parsonの派生語で、ラテン語で「人格、仮面、登場人物」のこと
転じて、「理想の顧客像」となった

一般的には、「ターゲット」よりももっと深く詳細な人物設定であると言われています。
先述した通り、詳細な人物設定を作っておくことで、担当者の認識・イメージを統一できるほか、顧客目線の精度が上がり、より具体化・効率化できるというメリットもあります。

ペルソナマーケティングの事例:株式会社ヤッホーブルーイング

事例として、よなよなエールで有名な株式会社ヤッホーブルーイングをみてみましょう。

ヤッホーブルーイングのターゲットは「ビールを飲まない層」だそうです。
「え?ビールを売っているのに、ビールを飲まない人がターゲット??」と私も大変驚きました。
ですが、理由を聞いて納得。ビールをよく飲む人は、キリン派、アサヒ派、サッポロ派など既に好みの銘柄が決まっていて、それを変えることはまずないのです。
飲み会でお酌をする時に「俺は○○しか飲まないから!」とか「ビールって言ったら普通△△だろ!」とか言われたことがありますが、あまり酒の強くない私のような人間にとっては、そんなの知ったこっちゃないというのが正直な感想です。

しかし、世のビール市場は大手メーカーが圧倒的にシェアしており、他の銘柄が入り込む余地はほとんどない超レッドオーシャンです。
そんな中で見つけたブルーオーシャンが、私のように「ビールは嫌いじゃないけど、こだわりはなく、おいしければ何でも飲む」ような層だったのでしょう。
したがって、よなよなエールのコンセプトも「99人が嫌いでも、1人が熱狂すれば良い」という設定なのだそう。
刺さるのは1人かもしれないけれど、その1人がインフルエンサーとなって周りの友人や知人に紹介すれば、気の合う友人同士なら反応するかもしれない。
またその友人が誰かに紹介して、という広がりを生んでいきますので、最初から万人受けを狙うよりもターゲットを絞った方が届きやすいという好例です。

そんな中でも、水曜日のネコという商品のペルソナが非常に印象的でしたのでご紹介します。
コンセプトは「仕事終わりにオフタイムでリセットするビール」ということで、女性をターゲットにした商品です。

30歳前後のオピニオンリーダーの女性
責任ある仕事をこなすOL
休日は朝からヨガ
住んでるところは東横線、日比谷線沿線
駅でいえば中目黒、自由が丘
独身または既婚で子供がいない
お酒や美味しいものが好き
ファッションや持ち物にこだわりが強い
家に帰ったらお酒を飲んで素になる
雑誌のイメージは、Oggi、Ginger、Crea

ここまで詳細に設定すると、例えば商品のPRをするという時に、より具体的・効率的なアイデアや行動が生まれます
試飲イベントを行う際の場所は、まず中目黒か自由が丘を検討すればいいし、ヨガ教室にコラボイベントを依頼してもいい。広告もまずは東横線、日比谷線沿線の電車やOggi、Ginger、Creaに掲載して反応を見ればいい。
その結果を分析してペルソナを修正すればいいし、あるいは他にも別のペルソナを作ってみてもいい、というようにPDCAサイクルも効果的に回すことができます。
ペルソナを作りっぱなしにせず、検証して修正していくことが大切です。

ペルソナ当てゲームで練習

とはいえ、行政の仕事においては、そんなに頻繁にペルソナを設定する業務は少ないかもしれません。
そこで、私が練習としてやっているのがペルソナ当てゲームです。
何か気になる施策や事業を見つけたら(もちろん一般に販売されている商品でも構いません)、そのメインターゲットは誰だろう?と勝手にペルソナを妄想するのです。
したがって、正解は分かりませんし、ないのかもしれません。

例えば、住みたいまちランキングで毎年上位に来る吉祥寺(武蔵野市)には、「ベビ吉」というベビーカー貸し出しサービス事業があります。
通常、ベビーカーの貸し出しは同一施設や店舗内に限られるのですが、これは吉祥寺駅周辺であれば、施設や店舗の外に持ち出して、まちなかを歩いて回ることができるというサービスです。
このペルソナを私なりに勝手に考えてみました。

34歳(20~30代)、核家族
自動車運転免許は持っていない
育休中または子育てのために退職したママ
吉祥寺から10km圏内に住む(武蔵小金井、阿佐ヶ谷、千歳烏山、大泉学園)
平日昼間に来て、ママ友とのショッピングやランチでリフレッシュ
夢(子育てが落ち着いたらやりたいこと)がある

先程言った通り、これが正解かどうかは分かりません。
人によっては、「ベビーカーを家から持参する必要がないので、自家用車ではなく公共交通機関でも気軽に買い物に来れる。そうすると、交通量も減って歩行者も歩きやすく回遊性が増すので、地域振興につながる。だから、ターゲットは地元商店じゃないか。」という人もいると思います。

他にも考える訓練として、自分や家族、友人などをペルソナにして、その人が気に入りそうなものは何か、その人に気に入ってもらうためにはどうするか、を考えるのも面白いと思います。
また、複数の人の意見を聞いてみると、自分にはなかった異なる視点に気づかされますので、グループワークもおすすめです。
個人的には、人材育成の研修に取り入れても面白いのではないかと思っています。

つづく

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