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電楽サロン
2023年7月3日 10:11
前回 畳をばちんと叩く音がした。「心はぶち殺すに限る」 道場内にしわがれた声が響き渡る。木戸の祖父、玄昌によるものだ。 木戸と塚本は、放課後に祖父の道場に足を運んでいた。道場は公民館の隣にあった。戦前からある建物で、立派な檜で造られている。そのため、道場は誰もいなくなると、ほのかに檜の香りが感じられた。 道場の壁には無数の写真がかけられており、木戸たちを見下ろしている。「歴代の零指だ
2023年7月4日 10:14
前回 木戸の合図と重なるように、空気を裂く音がした。 玄昌の指が塚本の鳩尾に沈む。 嗄れた声が塚本から絞り出される。肺が真空パックのように潰れ、全身を圧搾器で潰される苦しみが塚本を襲った。 木戸が塚本を支えて立たせた。「六指獄は本来なら、一指までの六つの段階を踏んで会得する」 玄昌が構える。視線は塚本の脇腹その一点に注がれていた。玄昌の指先から脇腹へと不可視のレールが敷かれている。確
2023年7月6日 18:36
前回 木戸の父母が死んだのは5歳の頃だった。 どこかの他流派との闘いに敗れたのだという。玄昌は言葉少なく木戸の問いに応じた。 次の日、玄昌は早朝から家を出た。外が暗くなっても玄昌は帰ってこなかった。両親のように消えたのではないか。そう思いかけた時、玄昌が帰ってきた。木戸は玄昌の姿を見て息を呑んだ。──玄爺、血だらけだ──敵の血なり。手当は無用 玄昌は一人で街の道場を巡り、皆殺しにして
2023年7月7日 08:04
前回 塚本の木戸流は日を追うごとに冴えを見せていた。季節は流れ、吹く風も骨身に染みる冷たさとなった。気がつけば、試合は明日に控えていた。 その日も桜が舞った。 臼田直義は図書委員だった。身体は大きく、180cm、130kgの体格があった。入学した時は、運動部から誘いがいくつもやってきたが全て断っていた。 争いごとよりも、静かに本を読んで一日を過ごせるならずっとそうしていたい性質だった。
2023年7月9日 23:09
前回「アーマーゲドン……!」 木戸はその破滅的な名前を繰り返した。 西洋甲冑のどす黒い殺気が強まる。 木戸は氷川を背後に隠す。塚本が気絶したままである今、彼女の命は木戸が守らなければならなかった。「あの甲冑知ってるの」 氷川の質問に、木戸は首を横に振る。 アーデルベルトと目の前の甲冑は何の繋がりがあるのか。木戸が思案する暇はなかった。「全員粉砕だ! 千斤担ぎのヴィルヘルムよ!」