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小説【 dreamers 】10

翌日登校しても英理は授業に身が入らなかった。真面目にやってるクラスメイトたちが子供に見える。君らは苦労を知らないね。勉強どころじゃない子もいるんだよ。勉強できる人って苦労を知らないだけかもね。

だいたい勉強どころか登校するのも、家を離れるのも嫌だった。こうしてるあいだにもママはまた男と会うかもしれない。

しかし昨日の今日でそれはないだろうと踏んだ。もし連日じゃ夢中じゃない。

英理は経験がなく性の営みがどれくらいの頻度でするものか、したがるものかわからなかったが今日はとりあえずだいじょうぶ、と思った。思いたかった。明日からの計画もある。できるだけ学校は休まない方がいい。

昨夜から練ったプランは母が男と会うのをもう一度確認すること。密会現場をスマートフォンで撮る。

本当なら昨日の現場を撮っておくべきだった、と悔やんだ。証拠を残せばすぐ役立ったかもしれない。でも撮らなかった。仕方ない。なぜ撮らなかった? 母を盗撮なんて嫌だった。不倫を疑い証拠を残すようなことをすれば、本当にそうなると怖れた。でも撮らなくてもそうなった。

撮っておけば母に見せるという手はあったかもしれない。

「ともだちが見かけて、撮って、送ってきた」と言って。「あやしい雰囲気だったって言うんだけど、そんなわけないよね?」

ママは動揺しただろう。発覚を怖れてこれ以上会うのをよしたかもしれない。

いや、動画や画像がなくても、

「男の人と歩いてたって、見たって言うの」

それで十分なのかもしれない。でも、

「まさか。見間違いでしょ」

「見間違いじゃないって」

「証拠は? 証拠もなしに信じるの?」

そう言われたら返せない。でも証拠を見せても、

「偶然会ったの。昔の知り合い。働いてた時のね。わー久しぶりって、それでこのカフェに入って。それだけよ。なに疑ってるの?」

シラを切られたら終わり。決定的な動画、ホテルに入るところの動画でもなければ。

でもそんな証拠は突きつけられない。

だけど中途半端な証拠では、気まずくなるだけでやめさせられるかは不確実。

だったらママにできることはない、男の方にするしかない、と英理は考えた。

男の方から会うのをやめるように、別れるように仕向ける。

別れを告げられてママは傷つくかもしれないけど、私が元気づける。このまま話題にしなければ気まずくならないし、一緒に買い物とか旅行に行こう。

   ***

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