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魚屋は何故衰退したか。なぜ魚売り場は面白くないのか。

昨夜、所属する「明るい水産業を創る会」では、オンライン勉強会として「ウエカツ水産」の上田勝彦氏をゲストに招いて、ウエカツ水産のこれまでと、これからについてのお話を伺うことができた。
改めて言うておくと、私は2003年から2007年まで百貨店で魚やスタッフ・副主任を務め、一日で50匹の鯛(1.5kgアップ)やカンパチ5本、ヒラメ3枚を3枚卸にする作業を毎朝2時間程度のうちに終わらせたり、氷の上に魚をきれいに並べる仕事をしていた。昼過ぎに全国の漁港からの情報を見て発注し、売り出し計画を考案した。塩干品も寿司も担当した。1日150万くらいの売り上げをたたき出していた。

上田さんは元水産庁の職員であったが、全国各地を魚食の講演で渡り歩いた末、2015年に独立。今も全国で魚食の普及を行っている。

上田さんのお話を聞いて、一番心に残ったことは「魚を食べなくなったといわれているが、魚のことを本当に『伝えよう』としてそれができていたのか。『伝わった』のか」ということだ。これは、どんな業界にも言えることだが、最も大切なことでもある。魚をさばく講座に親子が来てくれた、楽しんでくれた、漁港お直送のイベントにたくさんの人が来てくれた、、、で、魚の業界は変わったのか。相も変わらず魚の売り上げは落ちている。一方で魚の資源保護がうたわれているが達成できていない。

※マグロの漁獲高については異論もある。ただ、私は巻き網漁法の削減を訴えている。ちなみに上田氏は水産資源については温暖化による変動や陸上の環境変化(農業衰退による窒素の海への流入減少)を挙げている。陸上の環境変化は特に沿岸漁業、いかなごやカキ養殖・ノリ養殖などに大きな影響を与えている。

それは、私も含めて、多くのさかなに関わる人の活動が「伝わっていない」せいにあるのかもしれない

① 魚に対する自信をつける上田氏の教室

上田氏の魚料理の講座では、魚をさばくということから「始まらない」という。まずは切り身で、上田氏の指導の下「焼く」「煮る」などの、簡単だが本当に練り上げられた調理法を学ぶ。そして、『私でも美味しくできた』と自信をつけさせたうえで、「自分で捌いてみたい」という人が現れたら、徹底して反復して練習させる。これが大切なのだという。おっしゃる通りだ。まずは、魚に対する偏見や誤解を解いていったりすることも必要な場合もあるだろう。魚は簡単に料理できる、ということが理解できて、あとは興味の軸を高めるのである。
また、魚料理と野菜の組み合わせ相性などの話も伝える。魚とレシピの話というより、料理法を魚にどう応用できるかなどの話も。これは非常に参考になる話であった。1つのレシピからは1つの料理しか生まれない。たとえば、サバの塩焼きと秋刀魚の塩焼きは、魚料理に慣れていない人から見れば「全く違う料理」に見える。これは私の経験から見てもそうだ。「青のさかな」といってもなかなかであろう。「焼く」ということの基本をしっかり学べばいい。


②なぜ魚のことが「伝わっていないのか」

先ほど私は「学べば」という言葉を使ったが、これが曲者である。「学んだ」だけでは「伝わったこと」にはならない。学んで、考えて、やってみて、結果を反省して、またやる!ということの繰り返しでやっと「身につく」
これは私がかつてやった教室でも経験がある。女性、平均年齢60歳ばかりが25人ほど集まった中での魚をさばく講座を行ったが、魚の洗い方や包丁の持ち方、刃の使い方(角度なども)、刃の入れ方などが間違っている人が多く、「切れない」「ヌルヌルする」「うまく骨と身が分かれない」となり、『魚をさばくことは難しい』となっている人が多かった。しかし、その人の持ち方などを修正助言しても、3分後には元に戻る。習性はすぐに治るものではない。

さて、魚離れの話に戻ると、魚を食べよう!という言葉は「伝わっている」。おそらく。では、何が伝わっていないのか。何を伝えなければいけないのか。栄養価なのか、魚食文化を守るためなのか。

ここからは私の意見になるが、おそらく「魚を食べたい」人はいるが、「高い」「調理が難しい」などの様々な理由がある。子供が魚を食べないという人もいるが、「美味しく料理された魚は食べている」ことが多い。それはレストランだったり様々だろうが。そこで一番解消してあげなければならない「心理障壁」は人それぞれだろうが、何よりも「美味しい」ということを知ってもらうことなのだろう。またそれが「あなたでもできる」ということである。それは、『骨がない』『フライパンで焼くだけ』などという「簡単においしい」というようなものばかり進めている今の魚売り場のことではない。美味しく焼くには、美味しく煮るには少しのコツがある。先日エビチリ作ったが、エビはしっかり下ごしらえする、片栗粉をまぶすときは水けをしっかりふき取ってからまんべんなくまぶす、火を通しすぎないようにいったん炒めて火から下ろし、改めてソースにからめるなど、、、
書いていると難しいと感じてしまうかもしれないが、これは肉でも野菜でも共通することである。レシピだけを追っていてもわからないことがある。「美味しい料理をするための基本」をしっかり伝えて「理解して実践できる」までするような企画が必要なのだと思う。ただのPRイベントをするくらいなら、何らかの仕組みで「みっちり学べるコース」を少しの人数でも学んでもらえるようなことをする方がいいのかもしれない。イベントでは日常では作れないのだ。


③ なぜ今の魚売り場は活気がないのか

一部の本当に素晴らしい魚屋を除けば、多くの魚売り場は活気がない。そもそも「対面」と呼ばれる、魚屋のスタッフとコミュニケーションをとれるような売り場があるところが少ない。私の住むところの半径3キロ以内には2件の魚屋(うち1件はプロの業務用)と6件のスーパーがあるが、しっかりした対面があるのはイカリと万代だけである。
さて、平成6年に24000件あったといわれる魚屋(鮮魚店)は、平成26年に7500件ほどに減っている。(水産庁HP 図2-4-16 全国の鮮魚小売業の食料品専門店の数の推移 参照)

なぜここまで減ったのかといえば、魚を買わなくなっただけでなく、スーパーが多くの人にとって日常の買い物の場所になったこともあるし、魚屋単体だけではお客様を捕まえきれないことにも関係する。しかし、魚屋は利益を出すのが難しい。野菜は高くなってもある程度の数量は動くが、魚は高くなれば消費者は鶏肉や豚肉に移行する。魚は加工にも保管にも、肉屋より電気代も水道代も必要だ。職人の数も。衛生管理も非常に厳しい(保健所の検査も厳しい)。家族経営では後継者作りも難しい。

一方で、スーパーの魚売り場は、魚の売り上げが徐々に落ちている。スーパーでも職人をたくさん抱えて、電気代がかかる魚売り場は頭痛の種である。そのため、センター加工の切り身、真空パックの切り身など、「現場で作業する必要がない」商品が多くなっている。頭のついたままのさかな、いわゆる「丸物」はほとんど見かけない。魚の種類もどんどん減ってきていて、サーモンとマグロとサバとウナギとタコとエビに、あと数種類くらいしかないスーパーすらある。

私の魚屋としての経験で言うと、『魚屋は「あの魚屋は面白い」と思ってもらえることを失ってしまったらお終い』という思いがあった。その「面白い」表現は、「品揃え(魚種と価格帯)」と「コミュニケーション」であった。毎日話をするようなお客さんが30人はいた。この30人が、それなりに頻度良く来てくれる売り場であれば売り上げが維持できると感じていた。とはいえそれでは150万円売れないので、「売り上げを取る商品」「利益も上げる商品」「利益にならなくていいので、うちの魚屋の格を保つ商品」「利益はギリギリでも、競合店を意識した価格の商品」の種類とそれぞれの商品量を気にしていた。具体的に言うとフグやクジラ、キンキやのどぐろなどはいいサイズのものを定期的に並べていたし、秋刀魚が安いときはあまりそれを大量に安売りせず(季節ものなのである程度は売るが、客単価を下げてしまう)、酢で〆て棒寿司を大量に作って売り出しした。一方で、小さいが天然の鯛が安いなら、切り身で安く見えるように売り出した。そういう手間暇をかけてこそ、売り上げと利益は出る。

今の売り場はそういう仕組みをできない。値引きをした商品はデータ化され、次の発注が抑えられる。真空パックの日持ちする商品に置き換わる。値引きや廃棄ロスが少なくなるが、品ぞろえは魅力がなくなる。それも判断の一つだろうが、それは「魚の魅力を伝える」売り場ではない。単に、売り場の都合(会社の都合)である。

美味しい魚の料理方法は、POPにあるのかもしれない。ネットに乗っているかもしれない。しかし、それは上田氏が行っているような、「魚の美味しさを伝える」ようなものになっているのか。

一方で、小学生の魚の博士はTVなどで注目されている。私の昨年担当したクラスにもいた(包丁遣いは実に危なっかしかったが、一生懸命だった)。魚の料理をというより、魚の魅力に引き寄せられているように見える。大人でもそうだろう。魚や食材に対してもっと魅力を伝えた方がいい。伝えなければいけない。その仕組みが今の魚売り場には欠けている。

かといって昔ながらの、、、では利益を出しにくいかもしれないが、時間帯MDや厨房内調理(保健所の確認必要だが)の活用などで、まだまだできることはある。スーパーは、野菜・精肉・鮮魚・冷凍・総菜などのブロックごとで売り上げを追う仕組みだが、その垣根を超える仕組みなどをしていくことでお客様の「美味しい」「楽しい」を最大化する。そんな仕組みをして魚売り場を楽しくさせる(もちろん野菜や精肉売り場も)仕掛けをもっとしていってほしい。

本当ならば来年、単体でそういう魚屋をやるかもしれなかったが、少し先になりそうなので、本日はここまで。
本当に水産業を考えている人はとても多い。まだ何とかなると信じている。

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