ガンダムの世界の農業と食について②

※私は小説版を全部読んでいないので、その点で不確かな記述もあるかもしれません 

※異論反論大いに認めます。議論しながら楽しめればと思います。 

※ある程度宇宙世紀について知らない人でも読めるように努めていますが、分からない人がいたらごめんなさい 

※あと1回に分けて書く予定です。


前回に引き続きであるが、宇宙世紀における食事情はどういう状況であったのだろうか、というのが私の疑問である。大きく分けると

①100億の人口を養うためにはどのくらい農地が必要だったのだろうか。現実的に可能なのか

②どうやって作物を育てているのか。また主に何を食べていたのだろうか。

③食文化はどのように継承されているのだろうか

④食に関する「格差」がどのようにあっただろうか

⑤では、宇宙に人類が行かない(行けない)とした場合、地球の人口は何人までが許容されるのか

というのが私の考えていきたいことである。

本日は、②から④について考えてみたい。


さて、ダブルゼータガンダムのアニメ第33話「ダブリンの午後」において、ブライトが地球連邦政府高官のところに押しかけてハマーンにサイド3を明け渡すことに反対した際、高官たちはにべもなく一笑に付したばかりか、「座って一杯やらんか」「新鮮な野菜もあるぞ」ということばでブライトを誘惑した。

ここで「新鮮な野菜もあるぞ」ということが、すでに高官の人たちなど一部の特権階級でしか手に入りにくいものになっていることがうかがえる。前回の記事でも述べたが、天然のたんぱく質(肉)などはすでに手に入りにくいものなのだろう。高官がステーキらしきものをナイフで切っているシーンもあるが、硬そうだったのは赤身の肉だからだろうか。

推測できることは、この時代ではいわゆる人工肉や加工された食品を食べることが一般的だったのではないかということだ。魚については、戦争中で海にまで影響が出ている中で安心して漁船を稼働させることもむつかしいし、サプライチェーンもズタズタだろう。電源が不安で加工工場が安定稼働できるかどうかも分からない。水産は養殖が主体だと思われるが、それでもかなり厳しい状況だろう。

では、この中でいわゆる食文化は継承されているだろうか。

おそらく、ごくごく一部の金持ちが触れられる程度のものになっているのだろう。Zガンダムで香港の街中のシーンが映るが、おそらく中華料理レストランらしき看板もある。中身が中華料理かどうかだが。

食文化とは、金持ちだけが独占して継承されるものではない。宮廷料理などの料理を食文化とは言わない。庶民が日々食べ楽しみ、またその土地の特性を活かして育つ野菜や果物、魚や肉があるからこそ創意工夫や伝統によって紡がれるものである。宇宙世紀では、多くの食文化が廃れてしまっていると考えざるを得ないだろう。食の格差も相当激しい(そしてそれが宇宙民にとって地球圏への不満の原因の一つであった。だからこそ食糧生産区の事故がきっかけでサイド3の蜂起につながった)だろう。

一方で、ホワイトベースのタムラ料理長が貯蔵していた塩がなくなり補給を提言した際に、塩湖を探すなど、塩など料理一般に関する知識はクルーに浸透していたことが分かる。

立風書房の「機動戦士ガンダム超百科」によると、『ホワイトベースでの食事は豚肉の胡麻和え、リンゴ2切れ、サラダ、厚手のパン、タマゴ、蜂蜜入りミルクが基本とされる』とあるが、リンゴやパンは保存がききやすいし卵もまあ冷凍なども可能だが、戦闘でくるくる動く館内に卵をどうやって保管しているのか疑問は残る。おそらく中身だけ冷凍加工だろうか。ミルクも粉乳だろう。サラダといっても生鮮野菜ではなく缶詰の野菜のような状態ではないかと思われる。ただ、これ作るのに塩はそんなに必要なのだろうか。パンを艦内で焼いているなら必要だが。

さて、最後に、どのように作物が育てられていたかということについて触れたい。

植物が育つには、水と日光と栄養(≒土)が必要である。日光は問題ないとして、水は宇宙空間でもふんだんにあったのかというと、おそらく完ぺきに近い循環システムがあったのだろう。雨が降らないので潅水による提供で、それも無駄がないように管理され、コロニー内なら温度管理もできるのでビニールハウスも問題ない。土は最低限で殺菌されたものが持ち込まれ、必要な栄養は溶液で与えられれば除草剤は必要ない。虫もいないから農薬も必要ない。ほぼ完ぺきな無農薬栽培だろう。すべてが管理下にあるスペースコロニー内の中なら可能だ。
※ただ、ガンダム最終話で、ア・バオア・クーにホワイトベースが着底して陸戦の最中、ホワイトベースを守って奮戦するカイ・シデンが、次から次へと湧き出るリックドムやザクに対して『まるで蟻じゃねえか!』と叫んでいたので、コロニーには虫は居たのだろう。でもそれが農地に移動したら害虫扱いになるのだが。そのあたりは外部からの雑草や虫持ち込みが無いようチェックされていたのかもだが。あと、コロニーに動物もいないことは、ORIGINで、地球にセイラを逃そうとする母のアストライアとの会話の中で「地球の森には動物がいるのよ」というセリフがあることからも分かる。(逆シャアでシャアとアムロが殴り合って戯れるときとかテキサスコロニーとかでシャアが馬乗ったり牛がいたりするが、あれはあくまで観光用の動物で天然の動物はいないとみるべきだろう。ララァとアムロが見た白鳥も飼われているものだろう)

しかし、地球ではそうはいかない。コロニーが落とされた北米の穀倉地帯の風景は現代のものと変わらないように見えた。品種改良は進み、環境負荷にかからない農薬や除草剤が使われ、すべてロボットが生育をしているのかもしれない。生産性は非常に高まっていると思われるが、その結果、そういう生産性が高い作物しか残っていない可能性はある。

フランスの哲学者クロード・レヴィ=ストロースはその著書「悲しき熱帯」のなかで、画一化していく地球文明を評して「いつか世界の料理はサトウダイコンの一品料理のみになる」という表現をしたが、それに近い状況が生まれつつあったのではないかと推測される。

先のホワイトベースのメニューはまだましな方だったのだろう。それは、戦争状態という極限状態にある人間の心をケアするというためにわずかに残された食のカタチなのかもしれない。

現在の地球は人口がますます増える状況である。しかしこの状況下で食の多様性を守るためには、主要作物の生産性を上げることで余裕を生み、(カロリー面や生産性の意味では効率の悪い、あるいは塩分面で健康によろしくない塩漬けなどの伝統的保存方法などを含む)伝統野菜・伝統食文化を残すということが必要になる。

戦争という状況が発生すると、その伝統的文化を守る・残す余裕はなくなっていくというのは、この地球でも起きうる事態かもしれない。

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