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スタバの値下げ政策は何が間違っているのか

さて、先日このような記事ができて話題になっているが、食品売り場の経験が長い私から見ると、これはフードロス対策の根本からは外れた政策でしかないとみている。

そもそも、記事中にある『フードロスを減らし、環境保護や社会貢献につなげたいとしている。』というが、スタバの狙いとしては、

・値引きをすることで購買意欲をそそり、フードロスを減らす
・値引きの商品を買うことで寄附になるという社会貢献性を加味することによって、消費者の「値引きされているからと言って買うのが気が引ける」負の感情を減らす
・常に値引きが行われることではないことによって、値引き狙いの客が来る➡客層が悪くなることは避ける

ということなのだろう。これ自体はよくできた仕組みのように見える。

しかし、根本的には、現状の日本においては少子高齢化が進み、食べる限界の量以上の食品が製造されてスーパーやお店に並び、食べられないまま捨てられていく。

フードロスの大半は家庭で食べ残したものなどだが、外食や販売店のものは、加工で出るものよりも売れ残りが大半である。

リンク先の推移の方の資料を見てみると、平成30年度で600万トンの食品ロスのうち、事業系の食品ごみの割合として外食産業(116トン)は食品製造業(126トン)の次に多い。ではなぜここの2つで多くの食品ロスが生まれてしまうかというと、要は作りすぎ、仕入れすぎということが多い。

外食産業では、その日の客がどれだけ来るかが分からない。なので、仕入れた量がちょうどよく売れるということはめったになく、足りないか余るかだ。しかし、足りないことで「売り逃した(チャンスロス)」ということへはとんでもないくらいのプレッシャーがかかる(店長や上司から)。これは小売業でもそうなのだが、余らせてしまうより「チャンスロス」を発生させる方が悪い、という伝統のような考え方がある。私にしてみればこれこそが食品業界食品ロスの悪の根源である。

お客様の動向はわからない。だから、多く品揃えして、結果売れ残って、値引きででも買っていただければそれでいいじゃないか、、、という発想が残っている限りフードロスはゼロに近づいていかない(完全にゼロは不可能だと思うが)。

例えば、スターバックスがこうしてフードロスを「最後には」削減しようとしても、その上流の中間加工業者や材料の業者には相変わらずの量を発注し、新商品を考えたりで食材を様々使う。結果、いくつもの食材を複雑に使いこなすとなるとどの商品がどれだけ売れるかどうかが分からないため、各所で余剰を在庫したいというモチベーションが生まれてしまう。最終商品であるロスは減っても、中間材料のロスなどが減るかどうかは不透明だ。

何が言いたいかというと、フードロスを減らすには本来下記の点が必要である。

① 流通業者と一体となって商品量や発注量の見極めを行い、ロスの削減に努める。(発注量の見極め)

② ①を可能にするため、各店舗での詳細な売れ行き予想をPOSデータや顧客動向から見極め、各店舗の最小限発注数量を算出できるようにする。(販売数、製造数の見極め)

③ ②を可能にするため、また売り場の負担を増やさないためにも、品ぞろえは極力最低限にする。もしくは、既存の材料を使いまわしたりすることで品ぞろえがあるように見せつつも、材料や製造品の在庫リスクを減らす。(製造工程の複雑さ回避、売り場オペレーションコストの低減も兼ねる➡製造数量見極めを考える時間が取れたり、丁寧な接客でお客様に正規の値段で買っていただけるチャンスを増やすことができる)

で、これが一番できているのがコンビニだったりする(システム面で)。もちろんこれもコンビニといえど外すことは多い。なぜかというと、先に述べたような「チャンスロスを生みたくない」という根本的な心理があるからだ。

確かに、私も食品販売の現場にいたころは「売り切れてしまって閉店1時間前に何も並んでなかったら、そこから来る客に申し訳ないし、その客が『あのお店は品揃えが悪い』と思ったら、言いふらしたらどうしよう。。。」という心理が働く。

しかしながら、値引きをすることで売り切ることは、結果的にいえば「別に買わなくてよいもの」を買ってみようかという心理にもなる。スタバで値引きで買って食べたスコーンで、そのあとの夕飯を残すかもしれない。玉突き式に、どこかで買われた「ちょっとした余分」はどこかのフードロスを生む可能性を高めることになる。

値引き目当ての客が来ないように最大限の配慮をしているようには見えるが、そもそも値引きもせずフードロスも生まないためには「売り切れていたとしてもそれが消費者にとって(心理的などの)マイナスにならない」というくらいのブランドイメージを作る方がいい。

すなわち、『さすがにこの時間では売れ残っていないのか、、、それだけ美味しいのだろうな。ぜひ、時間があるときには狙って買いに来て食べよう』と思わせることが大切であり、来るか来ないかもわからない閉店1時間前のお客様に対していかに利益を上げようとするかと考えることは、結局フードロスを「スタバとしては減らせる」かもしれないが、社会全体で減らすような取り組みかというとそうではない。スタバレベルでもこうなると、結局世の中の流通業小売業外食業では「スタバみたいにうまい形で値引きをすれば社会貢献と訴えることもできて利益も上がって(ロス率が減るから)一石二鳥」と考える会社がどんどん出てきてもおかしくない。

フードロスを減らすには、先に述べた①②③を業界全体で、かつ社会的に取り組む必要がある。

もちろん、その基軸にならなければならないのは消費者一人一人が「俺がコンビニ行くタイミングで残っている商品が一つもない」などの不満でお店などを批判しないことだ。もちろん夜遅くまで仕事をする人もいるだろう。しかし、冷凍食品など美味しくて鮮度も保たれたままでしかも高くない商品だってある(セブンイレブンが冷凍総菜に非常に力を入れているのは、この辺の動きも見越しているのかもしれない)。

「自分が食べたいものがどのお店にもいつでもある」ことは、社会全体で言えばフードロスを生み出す雰囲気を作り出しているのだ、ということを考えた方がいい。

そして、スタバはじめブランド力のある食品業者は毅然として「売れ残りを出さない取組」を主導してほしいと思うのだが。

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