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偽カマンベールチーズと現代数学

「数学でどのような研究をしているのですか?」と質問されることは多い。その度ごとに死ぬる思いだ。

なぜ、現代数学は説明しづらいのか?抽象的すぎるから?確かに。しかし、それ以上に、身近な事物を使って説明できないという事実が決定的だ。抽象的でもそれなりに身の回りのものと少しでも関係があれば、そこから落ち着いて話を紡ぎ出すことができる。しかし、数学ではそれすら難しい。リジッド幾何学の定理なんて、どうやって説明しますか?

もうずいぶん前にことになるが、フェイスブック上で一つの実験を試みたことがあった。それは、そのときちょっとやっていた数学の仕事を徹底的にチーズに喩えて説明したらどうなるか?というのもだ、結果は見事に滑稽なことになったが、それなりに好評であった。

そう!好評だったのだ!好評だったということが、ここでは重要だ。なにしろそれを読んだ人たちが、私の研究の内容に興味をもったからだ。そういう意味では、あの文章は成功だった。

ここに当時の文章を(少々手直しして)開陳しようと思う。

2012年8月14日の日記(@オースティン)

…1950年代にイタリア人数学者Severiが次のような予想を立てた。

●射影平面に同相な複素曲面は射影平面だけであろう。

このように数学の専門用語をバリバリ使うと読み手が減るかもしれない。私はそれを恐れる。そこで、用語だけ巧みに日常語にとり替えて、以下文章を続けてみよう。つまりこういうことだ。

●カマンベールチーズのように中身がドロッとしてしているチーズはカマンベールチーズだけであろう。

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このマガジンのタイトルにある「数学する精神」は2007年に私が書いた中公新書のタイトルです。その由来は、マガジン内の記事「このマガジンの名…

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