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理念のネットワーク:生命と社会のモデル化

私はシステムエンジニアの立場から、生命の起源や知能の本質、社会の在り方などについて個人研究を行っています。

特にバイオテクノロジやAIの高度化、Web3あるいはその先のWeb4に基づく進化したコミュニケーションの時代に向けて、生命とAIの位置づけ、知能の本質、技術と社会の関わりについて考えていく必要性が高まっている事が、私の個人研究の背景にはあります。

この記事では、生物や知能や社会のように複雑なシステムを理解するために、理念(Concept)を持ったエージェントとオブジェクトの相互作用として捉えることを提案したいと考えています。

■理念(Concept)

理念(Concept)は、最初は単なる思い付きであったり着想だったりするものです。ある理念は意味や価値を持つことなく消えてくことになりますが、一部の理念は、エージェントとオブジェクトによって構成される環境の中で有用性を発揮することがあります。

ここでは、理念(Concept)という言葉を、知性が存在しない環境における、有用な結びつきや構造を指す言葉としても拡張して使用します。例えば温度を自動的に一定に保つような作用をする仕組みがあれば、そこは知的ではないとしても、温度を保つという理念を持ったエージェントが存在するという考え方をします。知性のない自然環境下でも、エージェントとして扱う事ができる現象は様々に存在します。

理念が保存され再利用されるメカニズムが働くと、有用な理念が環境中に蓄積していったり、より有用性の高い理念に置き換わったりするでしょう。

そうした有用性が高い理念は、知能や社会など知性のある対象領域では理想や信念と呼ばれ、普遍性が高いものと考えられるようになります。また、化学物質や原始的な生物などの非知性的な対象領域における有用性が高い理念は、本質や原理といったものとして私たちは分析して理解します。

こうして無生物、生物、知性、社会というオブジェクトとエージェントの複雑な構造の中で、イルミネーションのように多数の多様な理念が偶発的に生まれ、その中から有用なものが蓄積されていきます。

■エージェントとオブジェクト

オブジェクトは、法則に基づいて状態を維持したり変化させるものです。

エージェントは、目的や目標を持ち、それを満たすようにオブジェクトに働きかけるものです。ここで、エージェントが持つ目的や目標のことを理念(Concept)と呼ぶことにします。

エージェントと相互作用するオブジェクトには、物理的な物質やその構造があります。加えて、情報やその構造もオブジェクトしてエージェントと相互作用します。

通常、エージェントのメカニズムは、ハードウェアとソフトウェアの組み合わせによるシステムとして実現されています。

ハードウェアは物理的な物質やその構造、そしてソフトウェアは情報やその構造の集まりです。このため、エージェントは自分自身や他のエージェントのメカニズムを構成しているシステムとも相互作用します。

また、エージェントの本質である理念も、情報やその構造です。従って、エージェントは、自分自身や他のエージェントの理念とも、相互作用します。

■複雑なシステム内の相互作用

ここで、相互作用という表現を少し分解して整理します。

エージェントはオブジェクトの状態を把握します。そして理念に照らして、オブジェクトの状態を維持させたり変化させたりするように働きかけます。これが、エージェントとオブジェクトの相互作用です。

複雑なシステムの中では、複数のオブジェクトとエージェントが、それぞれ相互作用します。また、エージェントの作用がなくても自然法則に従って物質や情報は変化します。

自然法則やエージェントの作用を受けて変化したオブジェクトの状態を把握して、再びエージェントは理念に照らしてオブジェクトに作用します。この繰り返しが、複雑なシステムを時間と共に変化させていきます。

■理念のネットワーク

エージェントの持つ理念も、オブジェクトに含まれています。従って、複雑なシステムの時間変化の中で、理念もまた変化していきます。

理念がエージェントの本質です。理念が無ければエージェントは存在せず、自然法則に従うオブジェクトだけがシステム内に存在することになります。

エージェントが理念にオブジェクトを近づける能力には様々なレベルがあります。しかしそれを抽象化すれば、複雑なシステムは理念の集合であり、理念同士が間接的に作用し合って変化していく理念のネットワークとして捉えることができます。

■理念とオブジェクトのアライメント

理念のネットワークを中心に見れば、理念の集合の変化に沿うように、複雑なシステム内のオブジェクトも変化していくことになります。

エージェントは理念に照らしてオブジェクトに作用するため、エージェントの能力が高ければ高いほど、オブジェクトは理念に近づきます。

つまり、複雑なシステムにおいては、オブジェクトは理念のネットワークに沿って整列(アライメント)されていくことになります。

もちろん、自然法則によるオブジェクトの変化の方が影響が強ければ、理念とオブジェクトは乖離します。エージェントの能力が高い事が、オブジェクトのアライメントには必要です。

■エージェントの進化

エージェントを形成するハードウェアとソフトウェアもオブジェクトです。より能力の高いエージェントを実現するような理念があれば、その理念は強化されるはずです。

これは、理念のネットワークが、時間と共にエージェントの能力が高くなる方向へと変化していく傾向にあることを意味します。理念のネットワークによる、エージェントの進化です。

エージェントが進化することで、自然法則によるオブジェクトの変化よりもアライメントする作用が強くなります。こうして、複雑なシステムの中では、理念に沿ってオブジェクトがアライメントされていく傾向が強まっていきます。

■理念の動的な変化と多様性

理念は固定的な唯一の絶対的なものではなく、時間と共に変化していく情報に過ぎません。

しかし、よりオブジェクトがアライメントされやすいような理念の集合が強化され、存続していきます。

オブジェクトのアライメントが進行することも、理念のネットワークへ影響を与えます。それにより、より強く広範なオブジェクトをアライメントできるような新しい理念の集合が生まれれば、かつての理念は淘汰されるかもしれません。

また、オブジェクトは複雑なシステム内に均一に存在しているわけではありません。このため、システム内の局所毎に、その局所にあるオブジェクト群の特性に沿った形で、局所的な理念の集合が変化していくことになります。

こうして、理念のネットワークは常に変化していき、また、高い多様性を獲得していくことになります。

■不満を表明する能力

エージェントが理念に沿うようにオブジェクトに作用するためには、エージェントには高度なメカニズムが必要になるように思えるかもしれません。

しかし、エージェントは非常にシンプルな仕組みでも実現できます。それは、不満を表明する仕組みです。

理念に近づけるためには、オブジェクトの性質を理解し、エージェントの選択が未来のオブジェクトに与える影響を予測する必要があります。

しかし、ランダムに行動を選択していれば、偶然理想に近づくこともあります。シンプルなエージェントは、これを狙います。

しかし、せっかくオブジェクトが理念に一致する状態になったのに、さらにランダムに作用してしまうと、その状態を自ら崩すことになります。

従って、オブジェクトが理念に一致する状態であれば何もせず、理念と不一致があればランダムでも良いのでオブジェクトに何らかの作用をする、という仕組みがエージェントの最小要件です。

こうした最小能力のエージェントが、様々な理念を持って多様に登場し、そこに自然淘汰や学習的なメカニズムが働けば、理念ネットワークは進化していくはずです。

■最小能力のエージェントからの進化

そして理念ネットワークの進化の中で、不満の表明としてオブジェクトをランダムに操作していただけの最小能力のエージェントも、徐々に進化していきます。

ランダムな操作でなく固定的な作用をしたり、オブジェクトを理念に近づける方向に作用したり、理念との差異の大きさに沿って作用の大きさを変えたりします。

より高度化すれば、様々なパターンの差異に適切に反応したり、先を予測して制御したりもできるでしょう。さらには他のエージェントを支配したり共同して大きな作用を及ぼすこともできるようになります。

■ニューロンの例

人工知能の実現技術の1つであるニューラルネットワークは、個々のニューロンがネットワーク状に繋がって構成されています。

1つのニューロンは、まさに最小に近い能力を持ったエージェントに相当する仕組みを持っています。

ニューロンは複数の信号を入力として受け取り、1つの信号を出力するというモデルです。ニューロンをエージェントとして捉えれば、入力信号はオブジェクトの状態で、出力信号はオブジェクトへの作用です。

そして出力が大きくなるような入力は、理念との差異が大きいと解釈できます。出力がゼロになるような入力は、理念に一致していることになります。

ニューロンの反応は比較的シンプルな計算式で表現できます。つまり、ニューロンというエージェントが持つ理念は、数式で表現できるということです。

ニューロンが接続してできるニューラルネットワークは、エージェントのネットワークということになります。理念に着目すれば、ニューラルネットワークは理念のネットワークです。

そして個々の理念が数式で表現できるため、ニューラルネットワークが形成する理念のネットワークも、同様に数式で表現可能です。

■さいごに

理念(Concept)のネットワークは、古代ギリシャの哲学者プラトンのイデア論と通じるところがあります。プラトンは不変のイデアの存在を前提としていたようですが、理念のネットワークでは理念は変化します。

しかし進化がある時点で停滞すれば、その間は理念は一定に見えるかもしれません。

そしてオブジェクトは現実であり、理念に現実を近づけようとすることがエージェントの本質です。この点はイデア論そのものでしょう。

理念のネットワークは、生物や知能や社会のような複雑なシステムを理解するためのシステムモデルと分析のフレームワークです。

このフレームワークに沿って複雑なシステムを分析することで、こうした複雑なシステムの理解を深めることができると考えています。

また、私の個人研究のメインテーマである生命の起源においても、理念のネットワークのフレームワークを適用することで、より深い検討ができると思っています。

さらに今後、テクノロジが社会に与える影響について考える中で、Web4時代の技術的なキーワードはまさにAIによるエージェントだと気がつきました。理念のネットワークに基けば、AIエージェントの本質も理念です。どのような理念を持ったAIエージェントを私たちが社会に実装して活用していくのか、それがWeb4時代の社会においては、議論の中核となっていくでしょう。

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