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生命の起源:存続指向性を持つエフェクターの集合

私は、要素が影響を与え合う仕組みをエフェクトシステムと呼んでいます。

エフェクトシステムは、要素同士が影響しあう様子を理解するためのモデルです。このため、分析したい対象に絞ってエフェクトシステムとしてモデル化するという使い方をします。

例えば月と地球は重力で引き寄せ合って動きに影響を与え合っているため、エフェクトシステムを形成しています。友人同士も互いに影響を与え合っていますので、エフェクトシステムです。もちろん、2つの要素だけでなく多数の要素を含んだエフェクトシステムも考えられます。極論すれば、宇宙全体も原子が影響を及ぼし合っている巨大で複雑なエフェクトシステムと捉えることができます。

私はシステム工学の観点から生命の起源について個人研究を行っています。ここでは、エフェクトシステムの視点から、生命現象を考えてみたいと思います。

■エフェクター

エフェクトシステム内の要素として、同じ影響を周囲に与えたり、与えられたりする性質を維持しているものを、エフェクターと呼ぶことにします。影響の性質が維持できなくなれば、エフェクターは消えてしまうということです。

例えば電球は周囲に光で照らすという影響を与えることができるエフェクターです。表面のガラスが傷ついたり多少変形してもこの性質は維持されます。一方で中の発光しているフィラメントが切れてしまえば、光で照らすという影響を与えることができなくなります。物質的には、ほぼ同じものが残っていますが、光らなくなってしまった時点で電球というエフェクターは消えてしまったと考えます。

■エフェクターの組合せ

エネルギー保存の法則や質量保存の法則が成り立つような範囲では、原子をエフェクターの基本単位と考える事ができます。そして、原子は永続的に存在するエフェクターです。

原子が結合したものが分子です。結合することで分子は生まれ、分離することで分子は消えます。このため、1つの分子という捉え方をすると、分子は生成して消滅するエフェクターです。

一方で、ある空間内で同じ種類の多数の分子が生成と消滅を繰り返している場合、その空間内には、その種類の分子が永続的に存在する場合があります。その場合、その空間内において、その種類の分子は永続的に存在するエフェクターと捉えることができます。

この時、同じ種類の分子は、同じ影響を周囲とやり取りする性質を持っています。反対に言えば、同じ影響を周囲とやり取りする性質を持っている分子が、同じ種類の分子です。

さらに分子が複数組み合わされて、複雑な化学物質ができます。こうした化学物質も個々に捉えれば生成して消滅するエフェクターですが、空間内に同じ種類の化学物質が永続的に存在し続ける場合もあります。

それがさらに組み合わされて、電球が出来上がります。先ほどの話のように生成された電球はやがては電球としての性質を失ってエフェクターとしては消えてしまいます。しかし、私たちの社会空間の中で電球が製造される限りは、電球は永続的なエフェクターです。

また電球のような人為的な無生物だけではありません。化学物質が組み合わされることで、生物も生みだされています。個々の生物は生まれては消えるエフェクターですが、生物は入れ替わりながら地球上に存在し続けています。したがって生物も、全てが絶滅することが無ければ、永続的に存在し続けるエフェクターと言えます。

■エフェクターのレイヤー構造と支え合いのネットワーク構造

ここで見たように、より基礎的な層に位置する永続的な存在をベースにして、その上に上位層のエフェクターが生成されます。そして、上位層のエフェクターが長く存続できるようになると、それをベースにしてさらに上位層にエフェクターが生成されます。

このようにして、エフェクターは層状の構造(レイヤー構造)を持ちます。

また、構成物としてのレイヤー構造だけでなく、支え合いの関係も存在しています。

先ほどの説明では、電球を化学物質の組合せとして生成される層に位置付けていました。しかし、電球が生成され続けるためには、人間が必要です。つまり、生物である人間が、電球の生成を支えています。これは物質的なレイヤー構造とは別の支え合いの関係になります。

支え合いの関係は層状の構造ではなく、ループを含むネットワーク構造になります。電球を生成するためには人間が必要ですが、人間もまた、電球に支えられているという関係もあるためです。

これで、エフェクターと、エフェクター同士の関係が整理できました。ここで疑問として浮かんでくるのは、どのように下位層から、上位層の永続的なエフェクターが生み出されるのかという事です。それこそが、エフェクトシステムの視点から見た生命の起源に直結します。

そこで、以降ではエフェクトシステム内に、新しい永続的なエフェクターが生み出される条件を考えていきます。

■新しい永続的なエフェクターの誕生の概要

エフェクトシステム内に、永続的なエフェクターがあり、影響を及ぼしあって位置や状態が時々刻々と変化しているとします。この変化の中で、エフェクトシステム内にエフェクターの集合が現れる事があります。

このエフェクターの集合が、存続指向性という性質を持っている場合があります。存続指向性は私が付けた名称で、存続する性質が時間と共に高まっていく性質を意味します。

エフェクターの集合は現れては消える性質のものです。しかし、存続指向性の性質があり、環境的な条件が整っていれば、やがて十分に長く存続することができるようになります。そのようなエフェクターの集合は、その集合を1つのエフェクターと見なすことができます。

これが上位層に新しいエフェクターが誕生する仕組みの概要です。

ここからは、エフェクターの集合、エフェクターの集合の存続性、存続指向性といった概念について詳しく説明していきます。

■エフェクターの集合

エフェクターの集合は、その名の通り複数のエフェクターが集まったものです。特に、密接に影響を与え合う状態になっている集まりを指します。影響を与え合っていれば、物理的に近くにあるという事は必須ではありません。

エフェクトシステム内のエフェクターの位置や状態が時間と共に変化する中で、偶発的に特定のエフェクターが密接な影響を与え合う状態になる事があります。このためには、エフェクトシステムが局所性を持っている必要があります。局所性が無く、全体が均質なまま推移するようなエフェクトシステムでは、エフェクターの集合は現れません。

物理空間における原子の動きを考えると、それぞれの原子はバラバラの方向に異なる速度で移動しています。これにより、偶発的に一部の原子が密集して強い影響を与え合う事があり得ます。従って、通常の物理空間は、局所性を持つエフェクトシステムであり、原子というエフェクターの集合が現れては消えるという条件を満たしています。

■エフェクターの集合の存続性

エフェクターの集合は、個別のエフェクターが周囲に与える影響とは異なる影響を周囲に与えます。それは、単純に影響を与える量が総和となるという場合もあります。また、一部の影響が相殺し合う事で、全体として特殊な質の影響を与えるという場合もあります。さらに、複数の影響が時間差で段階的に及ぶことが、異なる質の影響となるという事も考えられます。

周囲とやり取りする影響が同じである限り、エフェクターの集合は存在し続けていると捉えることができます。反対に、周囲とやり取りする影響が変化してしまうと、エフェクターの集合は消えることになります。これは電球の例で示した通りの考え方です。

エフェクターの集合が同じ影響を周囲とやり取りし続けることが、エフェクターの集合の存続性です。このためには、エフェクターの集合を構成しているエフェクターの種類や量、それぞれのエフェクターの状態、エフェクター同士の構造が、一定の範囲に収まっている必要があります。また、そのために周囲の環境の条件も維持されている必要があります。

■エフェクターの集合の存続性の例

例えば水を例に考えてみます。

水は水素原子2個と酸素原子1個が結合した水分子の集合です。水素原子2個と酸素原子1個がバラバラに存在していても、水分子と同じ影響を周囲に与えることはできません。

水分子が生成されて存続されるためには、水素原子2個と酸素原子1個が近くにあり、結合された状態が維持される必要があります。

このため、原子が集まるための条件、例えば惑星のように重力を持って原子を引き寄せる環境が必要です。かつ、地球環境とは極端に異なる温度や圧力などの条件下では結合ができないため、それらの環境が揃っていることも条件です。

水分子があっても、気体である水蒸気や固体である氷では、液体の水と同じ影響を周囲と与え合うことはできません。このため、水が液体でいられる温度や圧力などの環境条件が必要です。

このように、素材となるエフェクターが集まるだけでなく、環境条件が整う事で、エフェクターの集合は特定の影響を持つようになります。そして、その条件が維持されることが、エフェクターの集合が存続するためには必要です。ただし、電球の例のように環境は維持されていてもエフェクターの集合が消えることはあります。

また、液体の水は時間と共に中の一部の水分子が揮発し水蒸気になってしまったり、反対に空気中の水蒸気が液体の水の中に入ってくるという事を繰り返しています。このためエフェクターの集合の構成要素は入れ替わっていることになりますが、集合全体として性質は維持されます。これも電球が単体としては消えてしまっても、社会の中には存続し続けるという話と同様です。

■存続指向性

エフェクターの集合が、時間と共に存続性を高めていく傾向にある時、そのエフェクターの集合は存続指向性を持っている、と呼ぶことにします。

存続性にはこれまでに見た通り、2つの側面があります。1つは、そのエフェクターの集合が構成要素、状態、構造を維持し続けることです。

もう1つは、ある空間内に、同じ性質を持つエフェクターの集合が存続し続けるという事です。そのために新しく生成されたり外部からその空間に入ってくることで、消失や流出分が補えれば、存続していると捉える事ができます。

存続指向性を持つエフェクターの集合は、この2つの面を併せて、時間と共に存続性が高まっていく性質をもっています。もちろん存続性が高まるためには環境条件も整っている必要があります。存続指向性を持ち、存続性が高まるための条件が十分にそろっていれば、エフェクターの集合は永続的に存続できるようになっていきます。

そして、永続的に存続できるエフェクターの集合は、元のエフェクターをベースとした、上位層の新しいエフェクターと考える事ができます。

■さいごに

エフェクトシステム内に以下の条件が満たされていると、新しいエフェクターが出現することになります。

(1) エフェクトシステム内に存続し続けるエフェクターがある
(2) エフェクターが局所化され、エフェクターの集合が現れる場合がある
(3) 一部のエフェクターの集合が存続指向性を持つ
(4) 存続指向性が十分に発揮できる条件が揃っている

この条件が満たされていると、影響システム内に新しいエフェクターが出現します。

エフェクトシステム内に新しいエフェクターが加わると、同じ層やさらに上位層に、これまでにないエフェクターの集合が現れる可能性があります。それらの中にも、存続指向性を持ち、条件が満たされるエフェクターの集合があれば、また、次の新しいエフェクターが生み出されることになります。

これが繰り返されることで、エフェクトシステム内には、複数の階層構造と複雑な支え合いのネットワーク構造を形成しながら、多種多様な永続的なエフェクターが生み出されます。

無生物から生物が誕生するという現象は、エフェクトシステムの視点からは、このようにエフェクターが連鎖的に生み出されていく現象の積み重ねであると考える事ができると思います。

この分析の興味深い点は、原子や分子が存続することも、気体や液体や固体として存続することも、電球のような工業製品の存続も、生物の存続も、全てエフェクターの存続性という概念で包括できる点です。

そして、存続指向性を持つエフェクターの集合が繰り返し現れると、生命のような複雑な現象が登場し、それが生命現象の鍵になっていることが分かります。従って、エフェクトシステムの視点からは、生命の本質は存続指向性であり。この存続指向性の理解を深めることが、生命の起源の探求に繋がるという事になります。

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