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MMTへの誤解を解く その12 理解のための補助線

人は「何」にお金を支払っているのか?

あたりまえのことだけど、
お金は、どんな場合も「人」に支払っている。
物やサービスに支払っているのではない。
物やサービスを提供してくれた「人」に
支払っている。

(以後、物やサービスのことを、略して
 「モノ」と記す)

更に突き詰めて、
では、人の何に払っているのか?
これを問うてみる。

この問いには、
「モノ」を産み出すために費やした彼ら・彼女らの

   勤労の対価

であると考えるのが自然ではないだろうか?

 例)空気が無料なのは、
   そこに人の勤労が介在していないからだ。
   空気にどんなに偉大な価値があるとしても
   空気にお金を支払うことはない。

 例)「空気の缶詰」という商品について。
   この商品には当然、
   人の勤労が介在している。
   これを買う時、その勤労の対価として
   お金を支払うわけだ。
   空気にお金を支払っているわけではない。

 例)太陽の光が無料なのは
   そこに人の勤労が介在していないからだ。
   太陽の光にたとえ無限の価値があるとしても
   太陽の光にお金を支払うことはない。

勤労した彼ら・彼女らは、
その対価を得ることで生活が成り立ち、
明日もまた新たな「モノ」を生み出せる。
そういう日常のサイクルが出来上がる。

もう一度言うが、
お金は「モノ」に支払われるのではなく、
「モノ」を産み出す人々に支払われる。

したがって、「モノ」の値段
(例えば「円」という、物差しの目盛り)
は「モノ」の価値を測っているのではなく、
そこに介在した勤労を測っていることになろう。

これを「勤労価値」と呼ぶことにしよう。

一つの商品にも、
それに関わった多くの勤労者の
勤労価値が、「人件費」などの名目で集積され、
「値段」の骨格が決まる。

「値段」を分解して根拠を探ってみると、
それらは全て100%「人件費」
すなわち勤労価値である。
なぜなら、お金は
人以外に支払われることは無いのだから。

値段を決めるそれ以外の要因といえば、
市場の相場変動ぐらいのものであろう。

経済活動の本質は、
勤労価値の受け渡しである。

一方、
お金を Gold に裏打ちできるような
「商品貨幣」だと勘違いしてしまうと、
お金は「モノ」と等価交換している
という認識に陥りがちで、
人に払っていることに思い至らないかもしれない。

スーパーマーケットのレジ会計で、
支払いのシーンだけを切り取って見てしまうと、
お金を「モノ」と等価交換しているような
錯覚に陥ってしまい、
つまり、お金に価値が宿っているかのような
錯覚に陥ってしまうため、
「商品貨幣論」の呪縛から
抜け出ることができない。
有力な経済学者たちを含め、
ほとんどの人たちが、この呪縛に陥っているために
MMTは誤解され、
正しい理解に、なかなか辿り着けないのだ。
(この点は、今日のテーマではないが重要)

あらためて確認しておくが、
お金とは、「信用貨幣」であり、
「信用貨幣」であるということは、
「先に受け取りました」ということを
相手に伝えるための、ただの「印」もしくは
「信号」のようなものである。
お金それ自体に、何か価値のようなものが
宿っているのでも
Gold の代役を演じているのでもない。

一万円札という紙切れに、
¥10,000 の価値が宿っている(商品貨幣)と
感じるのは錯覚である。

お金、つまり
「円」という物差しそれ自体には
価値は宿らない。

何を言いたいのか、というと
信用貨幣論を語る時、もしくは
MMTを語る時、

   通貨とは借用書である

という話をするわけだが、
そうすると当然、

  「え? 借用書? 何の借用書?
   一体なにを借りているの?」

という質問が出てくるわけだ。

これに対して、明確に答えてくれることが
思いの外、少ない。
なぜなら、MMT論者たちは普段、
政府や銀行の仕組みばかり論じて、
このページのような議論をほとんどしないからだ。

それで、上記の質問に対しては、

  「「モノ」の受け渡しで生ずる時間差を
   埋め合わせるための借用書だ」

と答えれば良いと思うけれど、
(というか、借用書とは本来そういうものだ)
それではピンとこないかもしれない。

だったら取り敢えず、

   「通貨は、勤労価値の借用書です」

と答えておけば一応、間違いではなかろう
ということだ。

MMTについて語る時、学ぶ時、
思考過程でここが抜け落ちていることが多く、
説明された側は、
もやもやとして釈然としない場合が多いのだ。

だからこそ、「勤労価値」と言う概念は、
MMTを理解するための案外重要な
補助線ではないかと思うのだ。

「勤労価値」それ自体の掘り下げは、
また次回に譲りたい。

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