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【書き起こし】『暁闇』×阿部はりか監督

活弁シネマ倶楽部です。
不定期になりますが…本編の書き起こしをnoteに掲載します。

通信制限などで映像が再生できない方は、こちらの書き起こしでお楽しみください。

ただし、一点注意があります。
テキストはニュアンスが含まれにくい表現媒体です。
しかも、書き起こしは通常のテキストのように発表前に何度も推敲し、論理を確認し、細かいニュアンスを調整することができません。
だからこそ、書き起こしのテキストは誤解を招いたり、恣意的な切り取られ方をする可能性があります。(それによって炎上するニュースは日常的に起こっています。)

もし書き起こし内で引っ掛かる点があれば、映像をご覧になっていただきたいです。
映像はテキストでは表現しきれない被写体のゆらぎを写します。
そのゆらぎに含まれる情報があってはじめて、語り手の言葉は生きた言葉になります。

この書き起こしだけ(それも断片だけ)で判断するのではなく、語り手が語る言葉に耳を傾け、じっくりと楽しんでいただければと思います。
映画を見るという行為と同じような、能動的な体験をしていただけたら何より嬉しいです。最後になりますが、YouTubeチャンネルのご登録もお願いします。

渋谷を彷徨する少年少女の青春群像劇『暁闇』阿部はりか監督が語る!!活弁シネマ倶楽部#40

(インタビュアー)企画の経緯について教えていただけますか?

(阿部はりか)企画はもともとMOOSIC LABという映画祭というか、企画、イベントがあって。そこでミュージシャンと監督がコラボをして、映画を作って出品するというイベントなんですけれども。それに出さないかという感じで直井さんという主催の方と話をして、作り始めたという経緯があります。

(インタビュアー)タイトルが『暁闇』なんですけど、なかなか聞かないなって。「暁闇」というタイトルにした理由はなんでしょうか。

(阿部はりか)「暁闇」という言葉は日本の人も全然知らない人ばかりの言葉なんですけど、私も全然もともと知っていた言葉とかではなくて。脚本を考えている最中に偶然読んだ漫画の中で出てきた言葉で、その中でもちょっと難しい単語というイメージで登場をして。おばあちゃんが暁闇という2文字の漢字を女子高生に見せて、自分の孫の女子高生に見せて。「この言葉の意味分かる?」という感じで訊いて、という出方なんですけど。そのエピソードがすごく印象に残っていて。暁闇という言葉が引っかかるなと思って、英訳してみようと思って、英訳したんですよ。ネットでGoogleとかで。そしたら、「moonless dawn」という「月のない夜明け」という風な意味合いの言葉になって。自分が今回、映画は初めてなんですけど、これまで演劇を4作ぐらい作っていて、その中でわりと「月」というのが結構大事なモチーフというか。毎回自分の中で、何か1個キーポイントみたいなところがあったので、今回は映画というところに行くけど、そこでちょっと隠れている感じで月が入っているのはすごくいいなと思って、それで決めたという感じでした。

(インタビュアー)ポスタービジュアルとキャッチコピーがすごく印象的で、どうやってこのビジュアルとコピーになったかを教えていただけますか?

(阿部はりか)ビジュアルとコピーに関しては、コピーは音楽担当のLOWPOPLTD. なんですけど。あれってバンドとかではなくて、1人でやっているんです。その男の子が今回のエンディング曲の別のアレンジ・バージョンを作って、「こういうのを作ったんだよー」って送ってくれて。それの最後に英語でセリフが入っていて、そのセリフの日本語訳なんです。日本語訳の言葉を見たときに、この言葉すごく『暁闇』のことっぽいと思って。「これ使わせてほしい」という風に話をして、使わせてもらったという感じで。ビジュアル自体はすごく悩んだんですけど、写真は撮影の関係とかで、3人で撮れているのがすごく少なくて。屋上のところでスチールが入れていないんですよ、今回。だから結構どうしようかなって悩みながら。一番3人の感じが良いのが、あの写真かなというところで選んでという感じです。

(インタビュアー) : 今回ストーリーで中学生のお話なんですけど、阿部監督の実体験というのもありますか?

(阿部はりか)全然あります。

(インタビュアー) : ???[00:04:08.161] を通して、最初初の映画とおっしゃっていたと思うんですけれども。

(阿部はりか)今演劇をやっていたと言ったんですけど、演劇をやっている中でわりと演劇というものが自分の中で、すごく大事な空間というか、ちょっと守りたいものという感覚があって。現実ってわりとそんな平穏なことばかりじゃないというか。あまり考えたくないこととか、あまり見ないようにしていたこととかも、絶対何かしら起きてきちゃうものだと思うんですけど。そういうのを演劇のときは入れないようにしようってすごく思っていたんですけど。今回、映画を作るって決めたときに、そういう風に自分があまり意識しないように避けていたこととかをちょっと全部ちゃんと入れていたいなという気持ちがあって。それですごい昔の記憶というか、中学生とか高校生の頃に思っていたことから全部掘り起こす感じで話の中に入れたい!と思って、今回作ったという感じです。

(インタビュアー) 演劇の話も出ましたけれど、演劇と映画って違いますよね。

(阿部はりか)全然違いました。

(インタビュアー)映画は編集があるんですよね。

(阿部はりか)そうなんですよ。それが本当に違って、びっくりしました。

(インタビュアー)いかがでした?

(阿部はりか)編集はすごい楽しくて。演劇をやっているときは本番の直前とか本番になっても、ずっと役者の子たちとかと、基本的に一緒の空間にいてやっていることだから。最後まですごい全員とのコミュニケーションがすごくあるという感覚があるんですけど。だからある種、自分自身が一対一ですごい反省する時間とかみたいなものが発表までの間になくて。でも、映画は編集という作業をやったときに、すごい自分との対話というか、すごいストイックになれる時間で。こんな作業工程があるのかと思って、それはすごくびっくりしましたね。

(インタビュアー)映画と演劇の違いってどうでしょうか。

(阿部はりか)うーん...そうだな。違い...違いって一番思ったのは形に残るということで。演劇はその公演の期間が終わったら、それが再現できないというか。映像に残ったとしても、ちょっと違うものになっちゃうと思うんですけど。映画は形が残るものとして完成形だから、それによっていろいろな海外とかにも行くチャンスが、今回の規模的にも小規模だったり、予算も少なかったりするんですけど、それでも海外に行くチャンスがあったりとか、いろいろな方に観てもらえたりとか。そういう機会の多さはすごい圧倒的に違うなと思いましたね。

(インタビュアー)舞台となった渋谷に、何か特別な思い入れとかありますか?

(阿部はりか)結構あって。それは自分の個人的な思い入れとか、思い出とかもあるんですけど。それと別に自分が好きな映画で、渋谷を舞台にしている映画、日本の邦画が何作かあって。今回自分が映画撮るとなったときも、どこかの街を映すとしたら、自分も渋谷の映画がいいというのも、それで明確に思っていたということがあります。

(インタビュアー)作品の中に「暁闇」の「闇」、「闇(やみ」)の部分が入っていると思いました。メインの3人の他にサキさんのお父さんの役が印象に残っていて。キーパーソンだったんですが、描く時に何か工夫はありましたか?

(阿部はりか)サキちゃんのお父さんは、出番はすごい少ないんですけど、私も一番この映画の中で大きい役だなと思っていて。基本的に物語である以上、何かしら変化がないと展開が生まれないので。絶対登場人物みんな、なにかしらの変化が最初と終わりであるんですけど、お父さんに関しては、変化がないんです。サキちゃんのお父さんに関しては変化がなくて。元はお父さん役がコウくんのお父さんと、サキちゃんのお父さんが1人だって考え始めていたんですけど。それが、考えていくうちにどうしても分裂しちゃって、それは自分が背負わせたい変化しなきゃ展開できない要素と、変化させちゃったらちょっと物語の都合に寄せているんじゃない?っていう変わっちゃいけない要素がどうしても両方あって。それを両方残したいと思っていて。で、わかれていったというところがあって。なので、なんだろうな。サキちゃんのお父さんに関しては、「変われない」ということがあの映画の中で唯一、保てる...うーん、でも意外とわりと一番本当っぽい人だなという感じはなんとなくしています。

(インタビュアー)今回は感情を出さない主人公3人なんですけど、1つ特別な場所があって...屋上なんですが。日本の映画の中で「屋上」を描くものが多くて、中国だと屋上は行けないんです。

(阿部はりか)立ち入り禁止みたいな。

(インタビュアー)立ち入り禁止になっています。屋上に何か特別な思い入れはありましたか?

(阿部はりか)屋上に関しては、自分は屋上すごく好きなんですけど。中高生の頃は、日本でも全然学校の屋上って入れなくなっていて。でも、ベランダとかは入れるみたいな感じなんですけど。わりとそのベランダの記憶とかが、個人的な記憶としてはたぶんすごい結びついていて。今回、屋上を使いたかったのは、この物語の終盤の一番重要なシーンで屋上という位置じゃないと、成立し得ないような部分があったので。そういう意味で、場所としての高さみたいなものがほしくて。それでという意味もあると思います。

(インタビュアー)現場でのインスピレーションなどはありましたか?

(阿部はりか)ありました。結構今回の屋上は特殊な形をしているというか。所謂普通の柵がある屋上とかではないので、実際に行ってからコウくん、ユウカちゃん、サキちゃんの3人がどこに座るかみたいな配置とかの工夫がおもしろくできて、そのあたりはすごく楽しかったです。

(インタビュアー)撮影途中で脚本が変わったりなどはありましたか?

(阿部はりか)撮影中は...撮影に入ってからは変わることはなかったかと思います。でも、編集のときに結構セリフを削っているところは多くて。それはわりとざくざく減っているかもしれない。

(インタビュアー)映画でもう一つ印象に残ったのが花火のシーンですね。撮影は大変でしたか。

(阿部はりか)あれは大変で...(笑)足立区の花火大会だったんですけど、人がすごくて、駅からずっと満員電車みたいにぶわーって川のところまでいて、みんなでえんやえんやと歩いて行き。あれは花火の素材自体を花火大会の日に撮って、実際に引きの画のところは合成しているんですけど、花火大会の翌日に同じ場所にもう1回行って、そこで3人に立ってもらって。花火の光を照明で作って、花火の灯りに照らされている3人と、そこに合成で花火という風にやっていて。なので、本当に各部署の力が集結しているというか。しかもあれはサキちゃんが未成年だったので、実は撮影時間の関係でスタントの子が入ってくれたりとかしていて。スタントの子も、その日しか応援に来ていなかった子で。偶然背格好が似ていたから、偶然ハマったんですけど、というすごいバタバタな感じでなんとか成立した奇跡のシーンです。

(インタビュアー)あの花火のシーンはキーになるシーンだと思うのですが、監督的にはいかがでしょうか?

(阿部はりか)私的にはあそこの花火大会に行くところだけが「夢」という風に作っていて。わりとなんだろう...「3人の出会いから全部夢」という人と、あとこの間初めて聞いてびっくりしたのが、「花火大会までが本当で、花火大会以降だけが夢」という解釈を言われたことがあって。それ、すごいおもしろいなと思って。個人的には花火大会だけ夢にしているんですけど、自分自身がいろいろ逆に聞いて、あ、なるほどーって新しい見方ができているので、すごいうれしくおもしろく思っています。

(インタビュアー)公開してから新しい発見はありますか?

(阿部はりか)多いですね。それは本当にすごく多くて。韓国の映画祭に行かせていただいたんですけど、そのときも本当にお客さんから受け取ることが本当に多くて。それは本当にうれしいですね。

(インタビュアー)具体的に何か印象に残ったことは?

(阿部はりか)印象的なのは、今の夢の解釈がすごく印象的だったのと。あとは感想というか質問とかで、私に対しての質問じゃなかったんですけど...役者の子たちに対して、ここで親世代の問題って映画の中の時間ではそんなに描かれていないけど、そこに対してどういうことを想像したりとか、感じたりとかしながら演じたのかということとかを質問されている方がいて。なんか、それは私的にはわりと設定していることはあるんですけど、あまり具体的に伝えたりとかしているわけではないので。そこに関しての質問はすごい、なんだろうな...そこで役者の子たちからの反応を私が聞いて「あーっ」ていう風に思うこともあったし、すごくおもしろかったですね。

(インタビュアー)今回、メインの3人は感情を出さない中学生で。そもそも人は最初から感情を出さない性格ではないと思っていて、それが社会システムや社会の構造によって変わっていくのでは?と思っているのですが、その点に関しては阿部監督はいかがですか?

(阿部はりか)私自身も自分は普段あまり喋らない方なんですけど、そうなったのは別にたしかに最初からではなくて。生きていく中で、なんか喋らないようになっていったみたいな、結構自分自身の体感でわりと明確にあって。そういうのは結構他の人もたくさんそういう人、すごいいるなと思っていて。女の子も男の子もそうなんですけど。なんだろうな...社会のシステム含め、個人個人それぞれ理由は別々だと思うんですけど、「喋ってもなぁ...」みたいな絶望を抱えちゃうのってすごいあるんだろうなというのは結構思いますね、なんとなく。

(インタビュアー)インターネットがさらに孤独を強めていく傾向を感じています。

(阿部はりか)そうですね。あ、そうなんです。この映画もユウカちゃんが男の人と会うという設定があるんですけど、あれは基本的にネットを介して会うという風なイメージにしていて。かつ、そこにお金が絡んでいないということも設定しているんですけど、自分の身の周りの人とかでも意外と全然普通に普段喋っている友だちとかで、普通に出会い系アプリの話をされるときとかがあって。そういう感覚って、結構ちょっと一世代前のというか、1つ前のインターネットとちょっと違くなってきているというか。なんだろうな...なんか単純に寂しいみたいな。すごい簡単な感情をお互いに埋め合うだけみたいな感覚というか、そこに例えば趣味が合うとか、話ができるとかあまり関係なくて。お互いに寂しいという同じ感情を抱えているということだけの共通項がたぶん必要なんだと思うんですよ。なんかそういう一時的な関係が、すごい簡単に発生できやすい環境がたぶん整備されてきちゃっているから、逆に長期的な関係性を築かなくても、簡単に一回の関係性でなんか寂しいのが一回埋まって。また別の人と寂しい人と寂しいところだけで合致して埋まればそれでいいみたいなことが繰り返せるようになっちゃっているから...みたいなことの変化は結構感じてます。

(インタビュアー)キャスティングの経緯を教えていただけますか?

(阿部はりか)ユウカちゃんに関しては、自分の演劇の前の二作品に出てくれていて、そのときから二回ともすごく重要な役をやってくれていたので。今回も中尾さんに関しては初めからお願いしますって私から言っていて。柚くんに関しては、あのくらいの年齢の役ができる子で男の子で、なんかこうちゃんと演技できる人じゃないとダメなので、今回の役に関しては特に。誰かいないかなと思って、MOOSIC LABの主宰の直井さんに相談をして、そしたら、2017のビジュアルをやっていたので、柚くんが。そういう子がいるよって教えてくれて、出演作品をいろいろ見て、すごい演技できる子だなと思って、めっちゃ魅力的だと思ってお話をしてもらってという感じでした。サキちゃんに関しては、あの子は結構すごい悩んだ役なんですけど。初めはもともと自分の知り合いの子でお願いしようと思っていて、その子も演劇に出ていてくれた子なんですけど。ただちょっと年齢感が...演劇だとなんとかいけるけど、映画だとどうしても無理が出ちゃうなという感じだったので、実際にこの年齢としてできる感じの子と思って、事務所のホームページとかをすごい見て探して。越後さんの写真を見て、宣材が全然...マネージャーさんとかの方針で全然笑っていない写真ばっかりだったんですよ。で、すごい印象的な子だなと思って、会いたいですって言って、会ってみたら、なんかなんて言うのかな...すごいオーラというか。会ったときも全然笑わない感じの子で、声がすごいボソボソって喋っていて、すごいいいなと思って、それでお願いしました。

(インタビュアー)MOOSIC LABは監督としては初参加ですが、別の形で参加経験はありますよね?

(阿部はりか)そうなんです。わりとMOOSIC LAB自体とはすごい付き合いが長いというか。

(インタビュアー)今回、監督として参加してみていかがでしたか?

(阿部はりか)自分に関しては本当にこれまで映画を撮ったこともなかったし、でも明確に長編をやった方がいいって、自分の中で思っていたんですよ。で、結構プロットもなんとなく明確にあったので、それで直井さんという主宰の方に「長編でやりたいんです」ってことをいきなり言ったわけなんですけど。でも、やっぱそこで何か感じ取ってくれたものがあったから、「長編でやったらいいと思うよ」という感じで言ってくれたし。キャストに関しても、いろいろ相談乗ってくれて、スタッフに関しても直井さんから繋がりで本当に始まっていったので。そういう意味で、なんだろうな、何か受賞歴があるとか実績があるとかじゃなくても...なんかちょっとおもしろいんじゃないかとか、なんか爆発力があるかもとか、化けるかもとかいう感覚的な直感でおもしろさを感じ取った人に対して、「やったら?」ということを言ってくれる環境なので。それは本当にありがたいというか、本当に稀有な環境だなと思います。

(インタビュアー)MOOSIC LABの期間中にイベントもたくさんありますが、いかがでしたか?

(阿部はりか)本当に若い人が多くて、今年に関しては監督で大崎章さんという方が入っているので、その方だけちょっと年齢が高いんですけど。大崎さんに関しても、本当にフレンドリーというか、別け隔てなく優しく接してくれる方で。本当に同期でちょっと仲良くなるというか、一個同じ学年を経験しているみたいな感覚があって。やっぱり、同じ年で参加した監督で単独公開のときに、「アフタートーク来てよ」とか、お互いに会ったりとかできるし。その感じはすごく新鮮でしたね。サークルにいたりとか、映画学校にいたりとかしたことがあったわけではなかったので、同期ってこういう感じかと思って、おもしろかったです。

(インタビュアー)同期とか同世代の監督とも交流がありますよね。

(阿部はりか)そうですね。特にMOOSIC LABは、そういうのが生まれる感じがあって。イベント自体もすごいやるし、オープニングとかクロージングとか。あとは監督だけではなくて、ミュージシャン、俳優も基本的にすごい若手というか。そんなすごい売れてる!とかじゃなくて、ちょっとここから伸びるんじゃない?みたいな子たちが多いので、基本的にスタッフも監督もキャストもみんなすごく若くて、活気あるような環境なので、交流はすごい生まれていますね。

(インタビュアー)新しい出会いがあって、次の作品に繋がるという風になるんですかね。

(阿部はりか)うん、なっていると思います。

(インタビュアー)阿部監督は短編映画とかも撮ったことがない。

(阿部はりか)なかったですね。

(インタビュアー)いきなり長編映画を撮るのはなかなか珍しい感じもあるんですけど、いかがですか?

(阿部はりか)長編と言っても、57分間になっちゃったんですけど。元は脚本だったら、もうちょい70分、80分尺があったのですが。うーん、そうですね。演劇も四作全部それぞれ60分ぐらいなんですよ、全作品が。わりとそれと同じ感覚というか、やっぱちょっと自分がやりたいことを詰め込むには、たぶん60分くらいは必要だという感覚はなんとなく思っていて。あとはたぶん演劇とか、映画とかという括りとは別に、自分にとってすごい「物語」というものがすごい大事なものとして思っていて。物語の構造として、ちょっとどこか違う場所に行ってから、何かの変化とかがあって戻ってくるみたいな構造を、たぶんすごい大事に思っていて、それを作り上げられる尺って、ちょっと時間がないとだめなんですよ。だから短編でやっても、あまりやりたいことをできる感じではないだろうなと思っていて、なので最初から、たぶん自分が思う物語という形が一個できるものとして、長編がやりたいという風に言ったんだと思います。なので、結構無理は全然なくできたというか、むしろ短編からやり始めた方がすごいきつかっただろうなという感じはちょっとします。

(インタビュアー)映画との出会いについても訊きたいんですけど、いつ頃から映画を?

(阿部はりか)映画は自分の父親が海外の映画の配給会社にもともといた人で、今も海外のハリウッドとかの映画のグッズとかを扱っている仕事をしているんですけど。家に洋画のDVDとかすごいたくさんあったりとか、それこそ映画中に出てくる美術とか、グッズとかが置いてあったりする環境だったので。わりと映画自体はすごく身近な存在だったような印象です。

(インタビュアー)何か特別な映画はありますか?

(阿部はりか)作品としてという感じ?

(インタビュアー)作品でも監督でも。

(阿部はりか)監督としてだと、一番影響が大きいのは...中高の頃は演劇の方が影響がたぶん大きくて。イキウメという劇団の前川知大という人がすごい好きで。その人の演出というか、舞台の作り方とか、物語とかにものすごい影響を受けていて。それと、映画で言ったら一番大きいのは庵野秀明さん、『新世紀エヴァンゲリオン』の方の実写がたぶん一番影響が大きくて。その2人が真っ先に浮かぶという感じですね。

(インタビュアー)『エヴァンゲリオン』はリアルタイム世代ではないですよね?

(阿部はりか)じゃないです、そうなんです。

(インタビュアー)『エヴァンゲリオン』はいつ頃?

(阿部はりか)『エヴァンゲリオン』自体よりも、庵野さんの実写に先に私は出会っていて、そのあたりの邦画を結構ちょくちょく見たりとかしていて。映画に限らずカルチャーとしても、漫画だったら山本直樹さんとか、舞台だったら松尾スズキさんとか、そういう90年代半ばから終わりぐらいにすごい盛り上がっていたカルチャーの感じにすごいハマっていたので。なんだろうな...入りは松尾スズキさんからだったと思うんですけど、松尾スズキさんの大人計画の舞台を観始めて、そこから芋づる式になんかここで山本さんと一緒に漫画作っているんだとか、ここで庵野さんと一緒に...たぶんなんかやっていたんですけど、なんかやっているんだという感じで、どんどん繋がっていってどんどん繋がっていって観ていって、全部おもしろいみたいになったという感じだったと思います。

(インタビュアー)日本公開より先に韓国の全州国際映画祭で公開されていますけど、いかがでしたか?海外の映画祭は。

(阿部はりか)本当に初めての映画祭で、こんな幸せな環境で招待されていいんだろうかという感じで。全州って本当に映画の街というか、街中に撮影のカメラの人と録音部の銅像がドーンって置いてあって。街全体が本当に全州映画フェスティバルみたいな、本当に賑やかで。シネコン、シネコン、シネコンという感じで、本当に楽しくて。あと、やっぱこれは結構何回も言っちゃうんですけど、本当に若い人が街にも多いし、映画館にも多いし、あと若い人から出る質問が本当に鋭いというか。あまりエンタメとして受け取って消費しているという感じというか、たぶん一個ある種の異文化というフィルターを挟んでいるからかもしれないんですけど、そこで描かれている事象に対して、純粋に疑問だったりとか興味だったりとかを持って対話しようとしてくれているような印象があって。それがすごいおもしろかったし、うれしかったですね。

(インタビュアー)今後映画をつくる上で、海外を意識しながらつくりたいと思いますか?

(阿部はりか)あーどうなんだろう...

(インタビュアー)よりグローバルな話につくりたいとか。

(阿部はりか)あー...そうですね。今回に関しては、なんなら日本国内のことすらあまり考えずにつくったぐらいの感じがあったので。印象として思ったのは、自分がすごい本当に思っていることとか本当に真剣に考えていることとかについてつくろうとしたら、結構国を越えたりとかしても何か受け取ってもらえるものってちゃんとあるんだという印象の方が、どちらかと言うと強く。逆に海外向けにもうちょっとこうしてみようみたいなことよりかは、そういう面で言ったら思うのは翻訳、字幕の翻訳の精度とかそういうレベルの話というか。今回、字幕を作るときに細かいニュアンスを英語がすごい堪能な子に相談したりとかしていて。たぶんそういうところの方がこだわりたいというか、大事かなという気がしていますね。今の感じ。

(インタビュアー)たしかに翻訳で意味が変わりますもんね。

(阿部はりか)そうなんですよ。今回の『暁闇』の翻訳に関しては、一番ニュアンスが大事だったのが、コウくんがお父さんに気持ちを伝えるところなんですけど。そこがもともとわりと直訳で翻訳されていて。そこを、英語できないから全然ちがうこと言ったらあれなんですけど...「You don't know how much I love you」というのにしてもらって。それって日本語とは全然言っていることが違うんですけど。でも、言いたいことって英語に直すとそれなんですよ。直訳しちゃうと、全然違うから。そういうところとかをたぶんちゃんとこだわれたのが結構うれしくて。たぶん大事なことってそこだなという感じはなんかしています。

(インタビュアー)今後の活動は?

(阿部はりか)ずっと思っているのは、今回撮ったのが中学生の話だったんですけど、もう一つ年齢が上がった子たちの話がつくりたいなと思っていて。高校生ぐらいの年齢なんだけど、みんな学校には行っていないような子たちで、「行っていない」という形は家にずっといるとか、むしろ家にずっといないとかバラバラだと思うんですけど、その子たちが学校じゃないところで出会って、何か生き方みたいなものを作り上げていくような話がつくりたいなという気がしていて。今回の子たちって、やっぱりちょっと最後までずっと守られているというか、守っている状態で描いているんですけど。もうちょっとどうしようもなくなっちゃうことって絶対あるから、そういう状況になっちゃっているところからでも、そこから進んでいけるような感じの姿をつくりたいなってことをすごい思っています。

(阿部はりか)番組をご覧のみなさん。ご覧いただいてありがとうございます。拙い言葉で喋ってしまって恐縮なんですが、何か伝わっていることがあると嬉しいです。映画自体もすごい言葉が多かったりとかするようなものではないんですけれど、きっと何か受け取ってもらえるようなものがあるものにつくられていると自分では思っているので。そこから映画の中の世界のことというよりかは、何か自分が生きている世界の中の一つのこととして考えたりとか、受け取ってもらえたりとかしてもらえると嬉しいなと思っています。ぜひぜひ、劇場に足を運んでいただけると嬉しいです。ありがとうございました。

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