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【書き起こし】『おいしい家族』×ふくだももこ監督

活弁シネマ倶楽部です。
不定期になりますが…本編の書き起こしをnoteに掲載します。

通信制限などで映像が再生できない方は、こちらの書き起こしでお楽しみください。

ただし、一点注意があります。
テキストはニュアンスが含まれにくい表現媒体です。
しかも、書き起こしは通常のテキストのように発表前に何度も推敲し、論理を確認し、細かいニュアンスを調整することができません。
だからこそ、書き起こしのテキストは誤解を招いたり、恣意的な切り取られ方をする可能性があります。(それによって炎上するニュースは日常的に起こっています。)

もし書き起こし内で引っ掛かる点があれば、映像をご覧になっていただきたいです。
映像はテキストでは表現しきれない被写体のゆらぎを写します。
そのゆらぎに含まれる情報があってはじめて、語り手の言葉は生きた言葉になります。

この書き起こしだけ(それも断片だけ)で判断するのではなく、語り手が語る言葉に耳を傾け、じっくりと楽しんでいただければと思います。
映画を見るという行為と同じような、能動的な体験をしていただけたら何より嬉しいです。最後になりますが、YouTubeチャンネルのご登録もお願いします。

“生きてるだけでいい”って言われたい『おいしい家族』ふくだももこ監督が語る!!活弁シネマ倶楽部#46

(折田侑駿)始まりました、活弁シネマ倶楽部。この番組のMCを務めます、折田侑駿です。どうぞよろしくお願い致します。本日のゲストは『おいしい家族』を監督されました、ふくだももこさんです。よろしくお願いします。

(ふくだももこ)ふくだももこです。よろしくお願いします。

(折田侑駿)ふくだももこ監督は、1991年生まれの大阪生まれ、日本映画学校卒で、卒業制作として監督・脚本を務めた『グッバイ・マーザー』が色々な映画祭で入選・上映されて、今に至ると。その傍ら、傍らというか...監督をしながら、『えん』という作品で第40回すばる文学賞も受賞されていて...

(ふくだももこ)取っちゃいましたね。

(折田侑駿)小説家としても活動されていると。

(ふくだももこ)はい。才能が、ちょっと有り余っちゃってて。すいません。

(折田侑駿)(笑)悔しいです...

(ふくだももこ)(笑)

(折田侑駿)今日は、よろしくお願いします。

(ふくだももこ)緊張してる...

(折田侑駿)緊張しちゃってますね(笑)では...僕はこの『おいしい家族』を拝見させていただいて、本当に素晴らしい作品だなと思いました。

(ふくだももこ)嬉しい。

(折田侑駿)監督にとって本作が商業デビュー作であり、初めての長編作品ですよね。

(ふくだももこ)はい。

(折田侑駿)こちらの作品が...個人的な感想からなんですけど。

(ふくだももこ)はい、嬉しい。聞きたい。

(折田侑駿)なんだろうな...今の時代の、不寛容な...不寛容って言っちゃっていいのか分からないんですけど、僕は感じているので。その現代社会に対する批評的なまなざしがありながら、でも、その中で凄く優しいというか、温かい、穏やか、そして、ゆるい。

(ふくだももこ)うーん!

(折田侑駿)ゆるいというか...

(ふくだももこ)はい。

(折田侑駿)それでいてファンタジックな要素もあって、かつスタイリッシュ、みたいな。

(ふくだももこ)(笑)

(折田侑駿)そういう印象を色々と持ったんですけど。そのあたり、今日はちょっとお聞かせ願えればなと。

(ふくだももこ)なんかでもほんまに...「不寛容って言っていいのか分かんないですけど」とか、言葉をちゃんと選んでくださる方って、めっちゃ信用できるなと思って。

(折田侑駿)はい。

(ふくだももこ)私も色んなインタビューで、「受け入れる」とか「認める」とか、そういう言葉って、凄く上からな気がしてしまうんですよね。

(折田侑駿)うんうん。

(ふくだももこ)それをでも、「...っていうことじゃないんですけど、今、言葉として表すなら、こうなんですけどね...」みたいに一度自分の言った言葉を反芻して、それの意味が本当に合っているのかを考えてくださる方は、本当に素晴らしいなと思いますね。

(折田侑駿)ありがとうございます。それはもしかすると、僕もその...一応文章を書くのが本業なので...

(ふくだももこ)はい。

(折田侑駿)それでやっぱり、言葉を扱う職業ですけど、常に言葉に対して懐疑的な気持ちがあって。これが逆に、日常会話の妨げになっているという気もするんです。

(ふくだももこ)ああ!

(折田侑駿)もっとスパスパ言えたら、面白いんじゃないか、盛り上がるんじゃないかと思いながらも、言葉というものに対してどうしても不安になっちゃうっていうのがあるかもしれないですね。

(ふくだももこ)めっちゃ分かります。テラハの山ちゃんとかほんまそんな感じ。

(折田侑駿)(笑)

(ふくだももこ)スパっということが面白いけど、なんかそれで完全に...最近はそこまでないんですけど。昔、結婚以前とかにはありましたもんね。...ふふふ(笑)ごめんなさい、めっちゃ話が逸れましたね。

(折田侑駿)いえいえ。

(ふくだももこ)その...人格を否定するみたいなことにもなり得るから。

(折田侑駿)うん、そうですよね。

(ふくだももこ)むっちゃ難しい。凄い分かりますよ。

(折田侑駿)そこだけ抜き出されちゃったりすると印象も変わっちゃうし。

(ふくだももこ)そう、言葉はめっちゃ強いから。思いますね。

(折田侑駿)うん。その中で...その中でというか、さっき言ったような印象をこの『おいしい家族』に対して持ったんですけど。この作品は...えーと、2016年に公開された、文化庁の助成金で撮られた、「ndjc」の...

(ふくだももこ)そうです。文化庁からお金をもらって。国のお金で。

(折田侑駿)(笑)

(ふくだももこ)こんなん言うたらあかんねんけど(笑)

(折田侑駿)それで撮った短編作品が...えーと、何名かいらっしゃるんですよね?これで撮られる方は。

(ふくだももこ)そうですね。年に4人か5人が選出されるんですけど、うちらの年は4人で。

(折田侑駿)ちなみに今年は3人ですよね。

(ふくだももこ)はい、しかも1本は長編らしく。

(折田侑駿)え、そうなんですか。それは知らなかったな。

(ふくだももこ)そうなんですよ、すっごと思って。

(折田侑駿)マジすか。

(ふくだももこ)ヤバくないですか。

(折田侑駿)35ミリフィルムで。

(ふくだももこ)そう!

(折田侑駿)それは羨ましいですよね。

(ふくだももこ)めっちゃいい...

(折田侑駿)...で、その作品が『父の結婚』だと。

(ふくだももこ)そうですね、はい。

(折田侑駿)そちらの短編作品を基にして、今回、長編作品なったというところですけれども。その『父の結婚』の誕生というか、いきさつと、さらに『おいしい家族』に発展していった過程みたいなところをお聞かせ願えればと。

(ふくだももこ)えーと、『父の結婚』の時は、ほんま「映画、どうやって撮ったらいいんやろう」みたいな時やって。

(折田侑駿)はい。

(ふくだももこ)あの...山戸結希監督という人がいて。

(折田侑駿)はい、山戸さん。

(ふくだももこ)なんか...同世代っちゃ同世代なんですよね。で、びっくりするくらい...うちが瞬きした瞬間にもう、1キロくらい先にいる、みたいな。なんていうんですか...進み方をしている人なので。今もそうですけど。

(折田侑駿)うんうんうん。

(ふくだももこ)その人を見てると、「映画って、どうやって人の力で撮ればいいの?」っていう。自主映画でもなく。それで落ち込んだ時期があって。でもやっぱり映画撮りたいっていう想いがあって、文化庁がやってる映画プロジェクトに応募しようと決めて。

(折田侑駿)はい。

(ふくだももこ)それはもう、助成金をもらって、35ミリフィルムでオリジナル脚本で撮れるということが決まっていたので...

(折田侑駿)しかも、周りはプロのスタッフさんに囲まれて。

(ふくだももこ)そう!

(折田侑駿)で、役者さんも...

(ふくだももこ)プロの。そうですね。

(折田侑駿)はい。

(ふくだももこ)これしかないなと思って。でもじゃあどういうのを撮りたいのかって思った時に、フィルムだし、何かやっぱり古き良き日本の映画?...家族の映画を撮りたいなという気持ちと、かつ、新しい何かを撮りたいなと思ってて。やから、父親が...主人公が実家に帰ったら父親が亡き母親の格好をしていて、「『男性と結婚する』って言い出したら、どうなるだろう。面白いだろうな」と思ったのがきっかけでしたね。短編の時は。

(折田侑駿)うんうん。

(ふくだももこ)なんか、たくさんの言いたいことは...『おいしい家族』に通ずる言いたいことは本当にたくさんあったんですけど、あんまりそれを言葉にする術も知らないし、30分という短い時間の中で表現することもできなかったから、「『おいしい家族』を長編にしよう」ってなった時はめっちゃ嬉しかったですね。「全部表現できる。言いたかったこと全部表現できる」と思って。だから凄い嬉しかったですね。

(折田侑駿)はい。

(ふくだももこ)あれ、何の話でしたっけ?(笑)

(折田侑駿)誕生の...

(ふくだももこ)あ、誕生秘話!

(折田侑駿)そうですね。...というところから、その着想というか。

(ふくだももこ)本当は最初はそのぐらいだったんですけど、でも、うーん...。全然伝わんなかったってのが自分の中であって。

(折田侑駿)あ、その『父の結婚』の時に?

(ふくだももこ)そうです、『父の結婚』の時に。本当はこの『おいしい家族』みたいに、誰を好きでもいいし、どんな格好をしていてもいいし、何になりたくてもいいって思ってたんですけど、何かそこまで...うーん...はっきりと言葉で言えず。それも、観てる人に分かってもらえていなかったので。

(折田侑駿)うーん。

(ふくだももこ)ただ、“オトンが女装を始めて、ゲイで、男性と結婚するって言い出した”みたいなとこだけしか受け取ってもらえてないなって思っていて。

(折田侑駿)うん。

(ふくだももこ)でも、完璧に理解してくれた人が一人いたんですけど。

(折田侑駿)ああ、そうなんですか。

(ふくだももこ)なんか...Twitterで(笑)

(折田侑駿)Twitterで(笑)

(ふくだももこ)山中崇さんって俳優の方が出ていて、その山中崇さんのファンの方なんですけど。

(折田侑駿)はい。

(ふくだももこ)もう、凄い長いツイートをしてくださってて。一言一句、私が言いたかったことがまんま伝わっていた方もいたんですけど、やっぱりこういう人をもっと増やしたいと思って。だから長編になった時には「分かるようにちゃんと言おう」って思いましたね。全部言おうって。

(折田侑駿)それはその、撮った後に...どういうところから長編にしようという話がきたんでしょう?

(ふくだももこ)『父の結婚』が公開されて、舞台挨拶で板尾(創路)さんが「これ良い映画だから、長編にするために誰かお金出して...出したってください」って舞台上で言ってくださって。

(折田侑駿)うん。

(ふくだももこ)「おお!」と思って。それを聞いた日活っていう会社の、若いプロデューサーが...1個上とかなんですけど。

(折田侑駿)あ、そうなんですか。

(ふくだももこ)そうなんですよ。プロデューサーさん凄い若くて。が、声をかけてきてくれて。最初は全然違う企画をやろうってなってたんですけど、上手く噛み合わず。

(折田侑駿)うんうん。

(ふくだももこ)それで次第に、「『父の結婚』良かったし、あれ長編にすれば?」って日活の上の人とか、彼も思ってくれてたらしくて、「あ、じゃあこれにしよう」と、決まりましたね。

(折田侑駿)そういう流れだったんだ...

(ふくだももこ)でもその間に、3ヶ月から半年くらい要している気がしますね。

(折田侑駿)やっぱりそれくらいはかかりますよね...

(ふくだももこ)いやー、かかるんですよね。

(折田侑駿)長編作品だし、商業作品だし。

(ふくだももこ)だからその時は、派遣でOLやってました。

(折田侑駿)あ、そうなんだ...

(ふくだももこ)暇だし、と思って(笑)

(折田侑駿)生活しないといけないですしね。なるほどなるほど。

(ふくだももこ)はい。

(折田侑駿)この作品は、その...まあポスターとか今あっちこっちで見かけている方も多いと思いますし、これが放映される時には上映が始まっているでしょうし...

(ふくだももこ)ああ! そうなんですか?

(折田侑駿)...ですよね?

(ふくだももこ)...18日...あ、じゃあ、始まる直前か。

(折田侑駿)直前ですね。失礼しました。直前に...なので、ポスターとか見て、この役者さんの並びをね、色んな方が見られてると思うんですけど。今回、映画初主演した...初主演となった松本穂香さんもそうですし、この企画にかなり大きく影響されている板尾創路さん。それから、本当に役者としても見ない日はないんじゃないかというくらい出ている浜野謙太さんであったり、今凄く勢いのついている笠松将さんだったり、あとモトーラ世理奈さんもそうですね...

(ふくだももこ)(ポスターを指しながら)これシャーリー。

(折田侑駿)シャーリーさん。...出てらっしゃいますけれども、このキャスティングっていうのは...まあ板尾さんについてもお聞きしたいんですけど、どういうところから...特にこの松本さん主演ということもありますし。オファーだったのか、オーディションだったのか、そういうところを聞いてみたいですね。どういう選ぶ基準があったのか。

(ふくだももこ)完全に全員オファーで...

(折田侑駿)あ、全員?

(ふくだももこ)はい。

(折田侑駿)そうなんだ...。

(ふくだももこ)全員オファーですね。で、(松本)穂香ちゃんは...私、朝ドラの『ひよっこ』がめっちゃ好きで。

(折田侑駿)はいはいはい。良いですよね。

(ふくだももこ)そうなんですよ。岡田(惠和)さんの脚本めっちゃ好きで。なんか、あんな悪い人が出てこず、主人公にとって理不尽に悪いことも起こらず...。

(折田侑駿)うんうん。

(ふくだももこ)「あ、こういう世界で良いんや」って思わしてくれた作品やったんですね。凄く影響を受けてます。映画自体も。

(折田侑駿)あ、それはたしかに通じるところを感じます。

(ふくだももこ)そう、悪者が出てこないとか。で、観てて、穂香ちゃんが...青天目澄子(なばためすみこ)という眼鏡の食いしん坊の女の子役で出ていて。「なんかおもろい顔の子やな」って...

(折田侑駿)(笑)

(ふくだももこ)凄く良い意味で。綺麗やし可愛いけど、それだけじゃなく、かつ、誰にも似てない、みたいな。「この人面白そうやな~」と思って。で、「松本穂香って良くない?」ってプロデューサーに言うてたら、「良いと思う」となって。穂香ちゃんも受けてくれたので、そっから本当に色々回りだしましたね。

(折田侑駿)そっかそっか。松本さん決まって...

(ふくだももこ)あ、でも板尾さんは決まってましたね。長編になるって決まった瞬間に電話して...派遣の会社から(笑)

(折田侑駿)(笑)

(ふくだももこ)「(長編化)決まりましたー」言うたら、板尾さん京都の映画祭かなんか出てるところで、「そうか、おめでとう! でもこれからちょっとレッドカーペット行かなあかんからごめんな~おめでとう!」言われて(笑)でもめっちゃ喜んでくれたし、「出てください」って言ったら「出る出る~」って言うてくださって。

(折田侑駿)快諾だったんですね。

(ふくだももこ)そうですね。超嬉しかった。

(折田侑駿)そっかそっか。

(ふくだももこ)あとはほんま...モトーラちゃん...

(折田侑駿)はい。

(ふくだももこ)...とハマケンさん、あとキーになってる...ここには居ないですけど三河悠冴くんっていう...

(折田侑駿)そうですね。三河さんも今、凄く出られてて、あちこちで見ますね。

(ふくだももこ)モトーラちゃんと三河くんに関しては、本当に最初から当て書きでしたね。

(折田侑駿)そうなんだ!

(ふくだももこ)この二人を撮りたいっていうのが凄くあって。...が、ために、高校生役を...

(折田侑駿)あ、キャラクターを作ったんですね。

(ふくだももこ)最初は小学生とかにしてたんですけど...「待てよ待てよ、高校生にしたらこの二人にできる」みたいな。プロデューサーに電話しながら、「できるんだ、できるんだ」って言いながらやりましたね。

(折田侑駿)それ小学生だったら全く違う映画になってたでしょうね。

(ふくだももこ)そうそう、そうなんですよ。

(折田侑駿)ここで高校生というところは大きいですよね。一番アイデンティティーが揺らぐ時期というか。それが一つ、この物語の核にもなっているなと思いますね。

(ふくだももこ)そう! そうなんです。

(折田侑駿)で、笠松さんは...

(ふくだももこ)笠松くんは、私の師匠がピンク映画の監督のサトウトシキさんという人なんですけど。

(折田侑駿)はい。

(ふくだももこ)の、映画に出てて。観に行ってて。凄い年齢も不詳やけど、なんかめっちゃ色気あるなと思って。ギラギラしてて。舞台挨拶にも出てきてて。不思議な存在やなと、一目惚れみたいな感覚で。

(折田侑駿)あ、そうなんだ。

(ふくだももこ)もうその舞台挨拶中に、プロデューサーにラインして。「笠松将、翠(役)が良い」って言ってて。たまたまプロデューサーの一人が笠松くんと仲良くって。「あ、良いと思う」って言ってくれて。もう...本人もびっくりしてましたけど、そんなふうな決まり方をしましたね。

(折田侑駿)そうなんだ。僕も凄く好きな俳優の一人で、まあたしかにギラギラしてるのがかなり魅力というか、硬派というか。今なかなかちょっといないタイプというか...

(ふくだももこ)いないいない。

(折田侑駿)ちょっと...それこそ昭和の、ねえ?彷彿とさせるような印象があるんですけれども、本作ではまた全然違うキャラクターに扮していて、愛らしいなあ!と思って。

(ふくだももこ)そう!

(折田侑駿)ますます好きになりましたね。

(ふくだももこ)むっちゃ笑うし、むっちゃ可愛いし、でもなんか、知ってる人間から見たら、笠松くんってああいう人間じゃないですか。ちょっと人懐っこくて。

(折田侑駿)何かこう...“剥き出し”みたいなところがどう映るかもあるのかなと思ったりもしましたね。そこが凄く魅力的だなと思って。このキャスティングは本当に素晴らしいなと思いました。そういう決まり方だったんですね。

(ふくだももこ)はい。

(折田侑駿)まあそれで、今回その松本穂香さんが主演で、今まだにじゅう...

(ふくだももこ)22歳?

(折田侑駿)ですよね。で、かなり若手の部類にある女優さんで。高校生役とかも今...

(ふくだももこ)そうですよ。

(折田侑駿)まだまだ演れるところですけども、本作では“別居中の人妻”っていう。「マジか」と思って凄いびっくりしたんですよ。最初に観る前は、あらすじとかも知らずに観たので。この設定とかも、もう最初っから決めてた?

(ふくだももこ)そうですね。結婚の色んな形を見せたいなと思っていて。別に結婚することだけが全てじゃないというか。別に離婚してたって、結婚してなくたって良くって。ただその人がしたかったらすれば良いし、したくなかったらそれで良いし、そこに囚われる必要はないよなっていう一個のメタファーというか。

(折田侑駿)はい。

(ふくだももこ)そういう形で、その主人公が別居していて...あ、ネタバレ...。もう最終的に離婚するっていうふうにしたんですけど。それは最初から思ってましたね。やっぱり一個...28歳の女性としての...一個のメンドイなと思うシークエンスの一つとして、“結婚するのか、しないのか”っていうのはめちゃくちゃあるし。うちですらあんねやから、普通に働いてる人ととか、OLさんとか周りにめっちゃ言われんねやろなって。言われなくても凄い強制されてるような、空気になっちゃうんだろうなと思うと...。でもなんか、アレらしいですよ...。独身女性...一番...人生の生活の満足度が高いのって、独身女性なんですって。

(折田侑駿)そうなんですか。それ何情報ですか?

(ふくだももこ)何かので聞いて(笑)たしかにうちの周りの独身の40代の女性とかって凄い楽しそうに生きてはるんで、全然良いよなと思いますけどね。別に結婚を否定してるわけじゃなくって。

(折田侑駿)はい。いやでも、その感覚...僕はふくださんより一学年上なんですけど。

(ふくだももこ)はい。

(折田侑駿)まだ28で、今年29歳になるんですけど。まあ...男ですけど、やっぱりそこは気にしているというか。田舎から出てきて、生きてて...結婚とかね、そろそろ...みたいな。

(ふくだももこ)したいですか、結婚?

(折田侑駿)結婚はしたい...

(ふくだももこ)あ!したいんだ!

(折田侑駿)やがていつかは...

(ふくだももこ)今じゃない?

(折田侑駿)や、それはそれこそ...なんだろう...この作品観てても思ったりしましたし。まあそれを、「男だから」とかいう言い方をしちゃいましたけど...「男なのに」というか。まあ僕は一人の人間として、そういう相手を見つけたら一緒に居たいなということを、今作を観て改めて思ったっていうのが一つありますね。

(ふくだももこ)ああ、嬉しい。家族...家族というね。

(折田侑駿)家族...という形を...色んな形があると思いますけどね。

(ふくだももこ)ですね。

(折田侑駿)仲間とか集めたら、すぐ“ファミリー”とか言っちゃいますもんね。

(ふくだももこ)ははは(笑)

(折田侑駿)テンション上がって(笑)

(ふくだももこ)やだ~(笑)そういう人とは友達になれないな(笑)

(折田侑駿)いやいやいや(笑)

(ふくだももこ)ファミリー(笑)

(折田侑駿)役者さんたちはそういうふうに決まったって話ですけど、その...演技面というか、リハーサルだったりとか、けっこう時間をかけたんですか?

(ふくだももこ)いや、全然。リハ1回だけ。しかもたしか1時間くらいで終わったんじゃないかな。

(折田侑駿)あ、本当ですか。まあ、皆さんお忙しいっていうのも...

(ふくだももこ)けっこう時間は空けてくださったんですけど、なんかあんまり...そこは自分の課題でもあるんですけど。あんまり...演出っていうものを...芝居の演出?

(折田侑駿)ああ。お芝居に対して。

(ふくだももこ)それができなくて。今...今のレベルだと。課題なんで、していくんですけど。うーん...この作品に関しては自分で本を書いているのもあって、自分で凄くキャスティングのことも言わせてもらったし、なんかもうその時点で、この人たちのことを信頼していて。

(折田侑駿)はい、

(ふくだももこ)“この人がこのセリフを言えば、もうこの役の言葉になるだろう”って、この役として、人物として立ち上がるだろうという確信があって。だから1回リハで、1時間くらい食卓のシーンをやってもらったら、「もういいや」と。

(折田侑駿)そのリハの時点で確信が持てたと。さらに、強まったと。

(ふくだももこ)そうですね。だから、自分に力量がないのもあるけど、凄く信頼はしてましたね。この人たちには凄くしてました。

(折田侑駿)うんうん。でもそれが、不安になってた場合もあるかもしれないですもんね。今までの作品はどんな感じだったんですか?

(ふくだももこ)うーん...でもなんか、映画の現場って色んなプロの人がいて、その人たちが一つの作品に向かって120%力を出してくれて。私の監督という立場の人間は、“選ぶ仕事”だと思っているので。あんまり迷ったりしないでおこうという...今の年齢で、新人っていうのもあるんですけど。「ナメられてはいけない」とか。

(折田侑駿)うん。

(ふくだももこ)だから迷わないでいようという意識は持っていて。この作品ではそれが凄く出てますね。

(折田侑駿)特に今まで以上に作品に関わっている人数も多いでしょうし、年齢も違う、色んなタイプの方が集まっているわけですよね。それはなおさらですよね。

(ふくだももこ)ですね。凄く気負って...今思えば気負っていたかもしれないなと...

(折田侑駿)ちょっと虚勢...虚勢って言い方もあれですけど...。

(ふくだももこ)でもそうです。あったかもしれないけど、でも、現場のことを思い出すと、楽しかったことしか思い出せなくて。だから、けっきょく何もストレスはなかったんですよね。だし、役者さんがその役になってくれさえすれば、台本に書いてないセリフを言おうが、動きをしようが、なんでも良くて。だからけっこうアドリブもいっぱい入って。

(折田侑駿)そうなんだ...!

(ふくだももこ)めっちゃ入ってます。なので、あんまり演技指導みたいなことはしてなくて。戒めも込めて、今後はそういうのにちゃんと向き合っていかなきゃいけないんだろうなと思いつつ。でもこの作品は、それをしなくていい環境に皆が居させてくれたんで。それが凄く良い作用として映画に還元されてるから、超ラッキーやったなって思ってます。

(折田侑駿)はあ...でもそれは、作品を観ていて受け取る印象そのままだなと。これがピリピリして...ふくださんがイライラしながら撮ってたら嫌だなっていう(笑)

(ふくだももこ)そうですよね(笑)

(折田侑駿)ちょっと思いましたね。でも映画ってそういうものなのかなって思ったりはするじゃないですか。

(ふくだももこ)何かね、ありますよね。

(折田侑駿)それはもしかすると、そういう「場」を作るふくださんの一つの...なんだろうな...一つの才能だったり、もしかするとそれが一つの手法として、今後の方法論みたいな感じになってくかもしれないですよね。もしかすると。

(ふくだももこ)三宅唱監督みたいな。「場」を作って、役者を自由に羽ばたかせる。カメラも自由に羽ばたかせるみたいな。もうあそこまでいけたら素晴らしい...ほんと凄いと思うんですけど。でも、結果的にそうなった、幸福な作品でしたね。

(折田侑駿)そうですよね。それこそ撮影とかも長回しが多用されていて、本当に伸び伸びと、生き生きとした人たちの姿があったんで、それがどういうところからきてるのだろうなと思ってましたね。

(ふくだももこ)でも、島で撮ってるのが凄い...

(折田侑駿)あ!そうですよね。それは大きい。これは、えっと...

(ふくだももこ)東京都の新島っていうところと、入江と港は式根島っていう隣のもっとちっちゃい島で。いやー、その新島に1週間くらい泊まりきりだったので...

(折田侑駿)2週間くらい?

(ふくだももこ)あ、1週間。全部で10日で撮ってるんで。

(折田侑駿)マジっすか!?

(ふくだももこ)もうエグいっすよ(笑)

(折田侑駿)マジ...マジか...それは「マジか」っていう...。

(ふくだももこ)そうなんですよ。10日ですよ。でも「10日でハードなことなかったですか?」って穂香ちゃんのインタビューで聞いてたりしたら、「全然なかった」みたいな。何か島に流れてる時間が凄くゆったりしてるから、「全然ハードに感じなかった」って言ってて。だから皆、島で撮影した方が良いですよ(笑)家と...家のロケ地と宿が徒歩5分とかだったんですよ。

(折田侑駿)あ、そう。それは良いですね!

(ふくだももこ)そう!

(折田侑駿)ロケバスにギューギューにならずに...

(ふくだももこ)そう! そうなんですよ!だから集合時間の15分前に起きれば良い、みたいな。

(折田侑駿)なるほど(笑)それは凄く...思いましたね。島で撮ったっていうのは、ああいう...なんでしょうね。役者さんも開放的な気分になれるんじゃないかなと思いましたし、監督もアイデアとか、イマジネーション豊かになるんじゃないかなと...。僕も今年、夏だったんで海に行ったりしたんですけど...やっぱりなるじゃないですか、色々思いついたり。

(ふくだももこ)うんうん。

(折田侑駿)だから、それは凄い感じましたね。

(ふくだももこ)ね。創作が生まれる瞬間って、凄い...心が凄い圧迫されて、何かに対して攻撃的になっている時か、めちゃくちゃ心がゆったりしていて、色んなことに目が向く時のどっちかだなと思って。中途半端な時って、本当に何も書けなくないですか?

(折田侑駿)たしかに。

(ふくだももこ)そうやって、心にゆとりを持てて、豊かな時間の中に居れた時だったんで、この撮影の時は。だからもう目につくもの目につくもの、「これを...こう撮りたい」みたいなことを凄い思いついて。

(折田侑駿)うん。

(ふくだももこ)だから実際にロケ地とか変わったりとかしたんで。

(折田侑駿)あ、現場で思いついて?

(ふくだももこ)はい。あの...教会とか。たまたまあって。賛美歌が聞こえてきて、歩いてたら教会があって。「めっちゃ良い!」ってなって。

(折田侑駿)え、じゃあ脚本には?

(ふくだももこ)脚本には最初はなくって。ロケハンに行った時にそれを見つけて。「めっちゃ良い!」って。

(折田侑駿)はー、かなり印象的なシーンで出てきますよね。

(ふくだももこ)イマジネーションを爆発させてくれる島でしたね。

(折田侑駿)ちなみに、今までの作品だったり、それこそ執筆活動とかもそうですけど...いつも開放的な気分で作ってきたわけじゃないですよね?

(ふくだももこ)小説はどっちかっていうと、心をこう...ぐぅーってして。尖らせて、何か本当に、「これを書かねば、これから生きていけないのでは...」みたいなことを書いたりするんですけど。この映画はもっと単純にお客さんが観た時に...人が観た時に「ああ、良い映画だったな」って思ってもらえる映画にしたいというのがあったので。“ユートピアを描く”って決めていたので。それを私だけが感じるんじゃなくて、観てくれた人に一番に感じて欲しいなって気持ちで撮ってましたね。

(折田侑駿)じゃああらかじめ、観てくれる人の世代だったり幅だったりは意識してない?

(ふくだももこ)それはしてないですね...

(折田侑駿)その、出口というか。

(ふくだももこ)どの年齢であっても、どの世代であっても、どの性別であっても、きっと良く感じてくれる人はいるだろうなっていう確信はありましたね。...だし、どの世代の人にも、どの性別の人にも、自分ごととして捉えられるように。で、ちょっと心を軽くしてもらえるように...なったら良いなと思って撮ってました。

(折田侑駿)教会をたまたま見つけたという話ですが、さすがに学校だったり家屋だったりとかは、ロケハンの時に決めてっていう?

(ふくだももこ)そうですね。

(折田侑駿)どれもこれも「良いな~」っていう。あれは実際に住める家屋?

(ふくだももこ)あのー、あの実家は人は住んでなかったんですけど、まだ持ち主の方が手入れとかしてて、人の匂いがギリギリする...本当に空き家って人が住まなくなったら、すぐ崩れちゃうというか、すぐダメになっちゃうんですけど。やっぱりちょっとでも人の匂いがすると、家としての形を保ってくれるんですよね。

(折田侑駿)はあ...

(ふくだももこ)そうなんですよ。そういう家が新島には一軒しかなくて。

(折田侑駿)そうなんだ!

(ふくだももこ)空き家はあるんですけど、持ち主が不明だったり。だから撮影するのに使えるのが、あそこしかなくって。でもあそこが奇跡的に本当に素晴らしい家の状態を保ってくれてたんで。

(折田侑駿)家としての...なんだろう...「生気」みたいな。

(ふくだももこ)そうです、生気が凄くあって。まだほのかに...ガッツリじゃなくてほのかに残ってて。で、間取りも良くって。廊下...台所に続く廊下とか、もう凄い好きで。小津安二郎映画の廊下のような(笑)

(折田侑駿)はい(笑)

(ふくだももこ)その時、凄い小津さんの映画を観てたので、「この廊下を、こう撮る」みたいなのをめっちゃ決めて。で、美術さんが家具を入れてくれたりして...したらもう、「あ、この家族は、ここに何十年も住んできたんだな」みたいなのが出て。いやあ、良い家だったんですよね。あの家も撮影終わって、1週間後くらいには、もう違う人の手に渡って。

(折田侑駿)そうなんですか。

(ふくだももこ)その間の時期みたいな感じだったんで。だから好きにして良いですよ、みたいな。

(折田侑駿)次の人がいきなり「ゲット!」みたいなのじゃなくて、決めてたんですよね?

(ふくだももこ)そう。

(折田侑駿)めちゃくちゃ奇跡的に...すご!

(ふくだももこ)だから一週間ズレてたら撮れなかったし、この間行ったんですけど、新島での上映があって。

(折田侑駿)はい。

(ふくだももこ)行ったら...やっぱ変わってて。

(折田侑駿)そうなんだ!それはまた面白そう。

(ふくだももこ)いやあ、ほんまに良かった~怖いわ~。そういう奇跡が。

(折田侑駿)またそこには違う家族が住んでるっていう感じが出てるんですか?

(ふくだももこ)そこは何かね、土建屋さんたちが会社にしてて...

(折田侑駿)全く違う...

(ふくだももこ)物置きみたいになってて。

(折田侑駿)あー、そうなんだ。

(ふくだももこ)壁も壊されてたりしたし。やっぱそうなんだなと思って。それこそ、1年経って行ったら、撮影してた時にやってた店が無くなっちゃってたりしたんで。

(折田侑駿)あの、バーとか...?

(ふくだももこ)バーはあったんですけど、あの...主人公の穂香ちゃんが、バケツで水をバシャッとかけられるシーンがあるんですけど、ハマケンさんと仕事してて。その店が潰れちゃってましたね。

(折田侑駿)けっこう大きい...

(ふくだももこ)そうですね。商店だったんですけど、酒屋さんか何かの。いやなんか、それを目の当たりにした時に、「映画で残すということは、こういう意味があるんだ」っていうことを肌で感じた瞬間でしたね、あれは。

(折田侑駿)そっかそっか。色んな奇跡が重なって出来上がった作品なんですね...。

(ふくだももこ)はい。

(折田侑駿)そういう魅力的な場所に、こうして魅力的な人たちが集まって出来上がった『おいしい家族』ですけれども。観てて一つ思ったのが、その...今の、今東京で生活してる感覚からすると正反対というか、その...なんていうのかな...非現実的とどうしても感じてしまう。でもそれが、非現実的じゃないギリギリの何かリアリティを保っている作品だなと思ってて。ただその、「非現実的」と感じてしまうところが、まずちょっとおかしいのかなということとか考えさせられた作品で。それはこの主人公と被るところがもしかするとあるのかもしれないし、今生活してることが当たり前...今ある環境が当たり前となっちゃっている。で、そこにこう、色んなタイプの人たちが集まってきて...それこそ、性別も関係ないし、人種も関係ないし、さらに言えば血の繋がりだって関係ないっていうことをこの作品から受け取ったんですけれども。ただだから、自分たちが今見てる世界とこの映画の中にある世界って...もちろんロケーションの美しさとか、「綺麗だなあ!」っていうのをちょっとファンタジックだなと思っちゃったりするんですけど。本当に何かその、目に見えてくるものも凄くリアルですし、その...緩やかに描かれているファンタジックな世界と、こっちの世界の違いって、本当に些細なことでしかないのかなというのを凄く受け取ってて。

(ふくだももこ)うん。

(折田侑駿)試写会の時に監督が、上映前に言ってた言葉が未だに記憶に残ってて。「この作品ではユートピアを描いた」と。「今隣にいる人に優しくできたら世界は変わる」というようなことをおっしゃってたかと思うんです。それが未だに...この作品観た後に色んな人に言っちゃったっていう。

(ふくだももこ)素晴らしい...。

(折田侑駿)それは自分もちょっと、そういうことを考えているというか...こういうこと言うと何か恥ずかしいですけど...。それはもう、今までの監督の人生というか、どういうところから、そんな考えに至ったのかということを聞いてみたいんですけど。

(ふくだももこ)ああ...そうですね、試写会で「ユートピアを描いてます」ということの次に、「自分を大切にして、人に優しくすることができれば、世界はきっと良くなる」って言ってるんですけど。

(折田侑駿)はい。

(ふくだももこ)その優しくする人は、知ってる人でも知らない人でも、ただ今隣に居る人...に優しくすることが...優しくするっていうか...ちょっとでもしんどいなって思ってる人がいたら、当たり前に手を差し伸べられる人間になりたいって自分は思ってるんです。100%できてるかはあれですけど...。うーん...やっぱ、どうしようもなく自分が優しくされてきたんだなという感覚がめちゃくちゃあって。

(折田侑駿)はい。

(ふくだももこ)そうですね。え...あれは言った方が良いですか?(笑)

(折田侑駿)話したいことがあれば、ぜひお聞きしたいです。

(ふくだももこ)まあ...そうですね。イベントとかでも出てるんで...色んな記事でも出てるんであれなんですけど。

(折田侑駿)はい。

(ふくだももこ)自分自身が、両親と血が繋がらない養子で育って。というか、生まれてすぐ...まあ、生んだ人が、私を育てられなくて、施設に託して。で、新聞に載った私を見て、両親が...子どもを生めない両親が引き取ってくれて。なんか、その時点で...うーん...今、映画監督で、こういう「自分の思うユートピアを撮りました」とか言えてるのって、まずもう、自分が生きているからで。生んだ人が...色々な方法はあったと思うんですよね。どんな人かは全然分かんないですけど。

(折田侑駿)うん。

(ふくだももこ)トイレに流しちゃったかもしれないし、ロッカーに入れちゃったかもしれないし。でも、そうせずに、ちゃんと社会と繋がりのある人だったから、施設に託すという選択肢を持ってくれて。そんで両親が、ほんま、もうほんまに何の制限もなく育ててくれて。愛を持って育ててくれて。なんやろう...なんの疑いもなく「映画監督になる」って言ったりしたし。なんの反対もされなかったし。私の人生に一瞬でも関わってくれた人たちが、とんでもなく私に優しくしてくれていたから、こんなにも自己肯定力が高いんだと思うし。もう、生きてるだけで、それだけで、素晴らしいことだって思えるし。そういう感覚を...特に自分のことを大切だと思えない人...その感覚もめちゃくちゃ分かります。けど、自分のことって自分しか、本当の意味で愛せないから...。

(折田侑駿)うんうん。

(ふくだももこ)他人が...他人に愛してもらって、自分を愛せるっていうのも凄くある...けど、最終的には自分で自分を大切にすることが一番難しいし、けど一番やんなきゃならないこと...。じゃないと、誰かに愛を持って接したり、優しくしたりできないから。とにかくとにかく...めちゃくちゃ...心しんどいなって思うねんやったら...「そんなあんたが苦しまなきゃいけないことはない」って言いたいし思いたいですね。というのを、この映画で本当に言いたいなあと。でもこんな難しいこと言ってないですよ、映画は(笑)

(折田侑駿)今おっしゃってたことを...試写会の上映前におっしゃってて。「はあ...」と思って聞いていて。実際に観てみたら、想いがそのまま反映されている映画だなと思いましたし、今、監督がおっしゃってたように、「生きてるだけで良い」ってことが、この映画にはストレートに表れているなと、お話を聞いていて改めて思いました。

(ふくだももこ)「生きてるだけで良い」って、全子どもが、全親に言われたい言葉ナンバーワンだと思ってて。けど、めっちゃ言うの難しいじゃないですか。

(折田侑駿)難しい...

(ふくだももこ)自分に子どもができたとして、自分の子どもに言えるかって...もちろん言っていきたいけど。言えるか分かんないくらい難しいけど、でもほんまそれだけで良いのになって。それだけ言ってもらえたら、なんにだってなれるし、どんなしんどいことだって...だって「生きてるだけで良いんやもん」って思えるし。

(折田侑駿)うん。

(ふくだももこ)そういう想いを、ちゃんと言葉にしなければいけないし。ね?言われたいしね?

(折田侑駿)言われたいですよ、それは!

(ふくだももこ)誰だって...飲み会で初めて会った人にも言われたいくらい(笑)

(折田侑駿)たしかに...!

(ふくだももこ)言っていきましょう...みなさん。

(折田侑駿)そうですね...そういう運動を。

(ふくだももこ)そう! 自己啓発セミナーみたいになってきたな(笑)

(折田侑駿)(笑)

(ふくだももこ)でも、輪になって、隣の人に言うとかでも良いと思うんですよ。「生きてるだけで良いですよ」みたいな。めっちゃ良いじゃん。私やろうかな、自己啓発セミナー(笑)

(折田侑駿)上映イベントとかで一回...

(ふくだももこ)ああ! やろうかな、お客さんと。「みんな、隣の人に言って下さい。せーの、『生きてるだけで良いんやで』」(笑)

(折田侑駿)それ良いですよ。

(ふくだももこ)やります。ありがとうございます!

(折田侑駿)この作品は、それこそ家族の話ということで。本当に印象的なのが、“メシを食う”...

(ふくだももこ)そうですね~。

(折田侑駿)まあ、『おいしい家族』というタイトルでもありますけど。僕はこの作品を観て、夜にとりあえず家で納豆を食ったっていう。

(ふくだももこ)おお!

(折田侑駿)で、次の週末に...そうめんをゆがいて...さすがに一人暮らしなんで天ぷらは揚げられないので、スーパーのお惣菜の天ぷらを麺つゆで食べたっていう。

(ふくだももこ)ええ!嬉しい!

(折田侑駿)なんですよ。

(ふくだももこ)めっちゃ嬉しい。

(折田侑駿)それをやっちゃうくらい、「かなり美味そうに食うな...この人たち」っていう。納豆なんてそれこそ、音のボリュームにもかなりこだわった?

(ふくだももこ)めちゃくちゃ...後付の効果音で。

(折田侑駿)あ、やっぱそうなんだ。

(ふくだももこ)食べる音にはめちゃくちゃ付けてもらいましたね。

(折田侑駿)そうめんすする音だったりとか。

(ふくだももこ)そうですそうです。

(折田侑駿)いちいちが美味そう...まぁあの、食べ物のチョイスも凄い...「食いてえ!」ってなるものばかりなんですけど。

(ふくだももこ)美味しいものは...そう、美味しいものがね、あれば生きていけるんですよ。

(折田侑駿)その...食事に何を選ぶかっていうのは、監督のこだわりがけっこうあったんですか?

(ふくだももこ)完全に私の趣味で。

(折田侑駿)あ、趣味。音のしやすさとかでも選んだんですか? 音のするもの?

(ふくだももこ)ああ!たしかに...

(折田侑駿)食べている実感というか...

(ふくだももこ)意識してなかったですね...

(折田侑駿)でも納豆だったり、天ぷらをかじる音だったり...

(ふくだももこ)そうですね。でも咀嚼音...今ユーチューブにめちゃくちゃ上がってるじゃないですか。何でしたっけ?...「ASMR」っていう、咀嚼音だけを集めた音源みたいな。めっちゃ気持ち良いんですよ。

(折田侑駿)そうなんだ...。今はどうか分からないですけど、昔はけっこう不快なもの...というか。

(ふくだももこ)そうそう、そうなんですよ。でも、映画とかで使われる咀嚼音ってめちゃくちゃ美味そうじゃないですか?

(折田侑駿)たしかに。

(ふくだももこ)それが根底にあって。食べ物って見た目だけじゃなくて、「音」と、食べてる人の「食い方」と「表情」が一番美味そうに見えるポイントだと思って。そこはめっちゃこだわりましたね。嬉しい。そんな気づいて...観て下さって。

(折田侑駿)音もそうだし、それこそその...浜野さんとモトーラさんが久々に、こう...大量の食事を取れる、みたいな。あの矢継ぎ早な箸の動きとか、あれとか凄い好きでしたね。

(ふくだももこ)3日間くらい何も食ってないんか?みたいな(笑)

(折田侑駿)「うっま、うっま」って。

(ふくだももこ)(笑)

(折田侑駿)あのモトーラさんの反応とかも良いですよね。

(ふくだももこ)可愛いんです。

(折田侑駿)食事のシーンはそうなんですね。

(ふくだももこ)はい、こだわってますね。

(折田侑駿)これネタバレ大丈夫ですか?

(ふくだももこ)全然大丈夫です。

(折田侑駿)食事のシーンでもそうなんですけど...あのスリランカカレーを食べるっていうシーンで、映画の中で松本さんは実際には...板尾さん演じるお父さんにしてお母さんの「これはスリランカカレーだから、スリランカ流に手で食べよう」と言って、カレーを食べるシーンがありますよね。

(ふくだももこ)はい。

(折田侑駿)そのシーンで彼女は、食べはしないけど...まあかじったりはしますけども、カレー自体を混ぜて食べるということはしないけれども、ただあの場にいて、“クラッカーを鳴らす”だとか...だから何かこう、この家族に対して違和感を感じながらも...都会から久々に帰ってきて違和感を感じながらも、そこに溶け込む素養がある...というか。

(ふくだももこ)あー、本当だ。

(折田侑駿)そこもだし、あのー、犬の...ポン太...ポン太ですよね?

(ふくだももこ)はい。

(折田侑駿)あそこで僕は泣いちゃって。

(ふくだももこ)ヤバいですね!怖っ(笑)

(折田侑駿)マジかと思って。だってあそこで、ちょっとあれ...言い方が悪いですけど、バカみたいなシーンじゃないですか、本当。(故郷に)帰ってきたばかりの彼女に、浜野さん演じる和生が「一週間前に(犬が)死んだんだ」って。しかもあそこって映画の中で最も...芝居じみた芝居を浜野さんもしてらっしゃる感じですよね。

(ふくだももこ)(笑)

(折田侑駿)でも映画の中でも実際に...ポン太は出てこないですけど、亡くなって...っていう話で。松本さんの顔を見て...橙花さんの顔を見て、和男が「似てる」と。「ポン太に似てる」と。で、「ちょっと真似をしてみてくれ」と。それで意外とすんなり「ワンワン」と言っちゃうと。意外とだから彼女は、都会に染まったのかは分からないけども、都会に揉まれて考え方が変わってしまったのか分からないですけど、何かそうやって他者を受け入れる...違いを受け入れる素質を本来は持っていたのかな...と、自分と重なる部分を感じたんです。だからあそこはポロポロ泣いちゃったんです。

(ふくだももこ)凄い...。

(折田侑駿)凄い良いシーンだなと。笑えるのに、何で泣けちゃうんだろうと。

(ふくだももこ)凄い。いや、最高じゃないですか。すごっ。

(折田侑駿)え、あれは現場で考えたんですか?

(ふくだももこ)あれは一応脚本に「犬の真似をする」とだけは書いてるんですけど。あの二人が思った以上に凄い本気で、ちゃんと設定も話し合って演ってくれたみたいで。

(折田侑駿)あー、そうなんだ。

(ふくだももこ)...凄い嬉しい受け取り方...。やっぱり何かこの映画、うちが思ってる百倍、観てくれてる人が豊かに受け取ってくれてるなって思う瞬間がある。全然...意図とか聞かれたら全然...そんなふうに思ってないが、「あなたの中でそう思ってもらえたなら、そういう映画です」って思うんですけど。今のは本当に凄いな...。たしかにそう...穂香ちゃんがインタビューで「橙花はどんな気持ちなんですか?」って聞かれてて言ってたのが、「...この家族を否定したいとか、(この家族を)受け入れている島の人たちを否定したいとかじゃなくって、ただ実家に久々に帰ったら家族があまりにも、自分の知らない間に変わっていたことが寂しくて。だからツンツンしちゃうんだ。って思って演ってました」って言っていて。

(折田侑駿)うんうん。

(ふくだももこ)私は橙花が一番分かんない人物だったんです。主人公なんですけど。自分のマインドとは真逆の人だったので、本当はどんな気持ちだったんだろうなと思っていたら、橙花を演じた穂香ちゃんが「ただ寂しかったから」と言っていて。その通りだと思いました。おっしゃって下さったように、橙花も、別に否定したいとかじゃなくって、その素質ももちろんあって...ただただ、「何も言わずに置いてかないでよ」っていう気持ちやったんやなと思うと、「なんかごめんね」っていう気持ちになった(笑)

(折田侑駿)うん。

(ふくだももこ)いやあ、良いこと言うなと思って。そうだったんだと、インタビューで初めて橙花のことが分かって。穂香ちゃんの言う言葉によって、橙花のことを凄く理解していけましたね。

(折田侑駿)この作品において彼女は、まあ「異物」っていう立場になっちゃってて...社会一般的に言えば、マイノリティになっちゃっているってことですよね。

(ふくだももこ)そうですね。マジョリティがマイノリティに、みたいな。

(折田侑駿)うんうん。

(ふくだももこ)...凄く嬉しいな。

(折田侑駿)でも、1年ぶりに会った友達とかっていうのも、1年会わなければ、ガラッと変わってたり...

(ふくだももこ)そう!めっちゃ変わりますよね。

(折田侑駿)その時に、やっぱり反応に困ったりするじゃないですか。

(ふくだももこ)ね。あの...マルチにハマったとか(笑)言わないけど、そんなことは。とか、明らかにその人自身が変わってしまって...まあたしかになあ、それは寂しいわ。寂しいって言うか、反発もしたくなるわ。

(折田侑駿)ただでもそれがね、じっくりこう、お酒でも飲みながら喋ってたりすると、実は何か「新しい仕事を初めて...」だとか、何か一つ虚勢を張らないといけない立場に立たされているとか。そういうのって、やっぱり時間をかけないと分からないじゃないですか。そういう時間ってやっぱり何か、せっついてって作れるものじゃないし、そんな時間がこの映画の中には流れているのかなと凄く感じました。

(ふくだももこ)凄い...凄い...。私よりこの映画の監督に向いているのでは?(笑)いや本当に凄い。

(折田侑駿)いやいや(笑)

(ふくだももこ)本当に凄い。しかも凄い嬉しい。(スタッフに向かって)今の絶対使って下さいね。

(一同)(笑)

(ふくだももこ)今の友達のくだり。すごーい。たしかにそうですわ。初めて今、実感として持てました、橙花のことが。

(折田侑駿)うん。

(ふくだももこ)たしかにそうだし、今の話を強く言えば、不寛容とされてしまうのって、本当に時間がないから...ですよね。色んなことに対して。人間関係を築く時間も、凄くこう早く早く...クイクイ...

(折田侑駿)システマティックに。

(ふくだももこ)そうそうそうそう。になってて。本当はそんなことないんですよね。やっぱ、嫌いだった人のことを好きになることってめちゃくちゃあるから、それはその人と過ごしてきた時間によって...で、どうしても「本当にコイツ好かないんだけど、嫌いになれないんだよ」っていうのって、時間じゃないですか。

(折田侑駿)うんうん。そしてそこには、時間をかけたいですよね。

(ふくだももこ)そうですよね。ほんま最初パって見て「嫌い」って終わったら、その人のこと一生嫌いで終わっちゃう。嫌だよなあ。もったいないよなあ。はあ...。

(折田侑駿)(笑)

(ふくだももこ)いや、23歳ぐらいの時はほんとそれで...

(折田侑駿)自分もですよ。

(ふくだももこ)ね!

(折田侑駿)一時期ね。

(ふくだももこ)ありますよね!

(折田侑駿)この歳になって、そんなことを考えられるようになるっていう。

(ふくだももこ)うん。26歳ぐらいになる時に...

(折田侑駿)そうです、まさに。特に、大学卒業しての23、24歳の時ってやりたいことあって、「コイツとは違う!」みたいなのあったり...しますよね。

(ふくだももこ)ありますね。たしかに、この間、三河くんっていう男の子が...をきっかけに会った俳優の子と、会った日に喧嘩しちゃって...

(折田侑駿)え、ふくださんが?

(ふくだももこ)はい(笑)

(折田侑駿)会った日に(笑)

(ふくだももこ)喧嘩しちゃって。喧嘩っていうか、お互い譲れないものが食い違ったみたいな感じで。

(折田侑駿)それは場所としては撮影現場とかじゃなくて?

(ふくだももこ)あ、居酒屋で...(笑)

(折田侑駿)(笑)

(ふくだももこ)居酒屋で、朝3時くらいの出来事ですけど。で、そっから私は、もう彼の作品を観ることもできなくなっちゃって。スクリーンに映ると、「わっ! わっ!」みたいな。心が「シャッ」てなってたんですけど。彼の...あれもあって、つい一昨日くらいに飲みの会で一緒になって。

(折田侑駿)はい。

(ふくだももこ)仲直りをしようって。

(折田侑駿)それはふくださんから持ちかけた?

(ふくだももこ)いや、そこは彼を三河くんが呼んで...

(折田侑駿)あー、なるほどなるほど。

(ふくだももこ)お互いに何か引っ掛かってたから、「もっかいちゃんと話そう」みたいな。

(折田侑駿)うんうんうん。

(ふくだももこ)あれはでも、本当にそれこそ時間が解決させる。彼も凄く、当時会った時よりめちゃくちゃ柔らかくなっていて。その日は、顔も凄く良い顔になっていて。で、彼からしたら、私も凄く柔らかくなったと言われて。だから、ちょっと...お互いのトゲトゲしてる時期に会ってしまったから、そういうことになっちゃったけど...いやだから、出会えて良かったなって思っているくらい。...三河くんありがとう。

(折田侑駿)彼(三河さん)としては、自分にとって好きな人同士が...っていう。そういうこともありますよね、たしかに。

(ふくだももこ)そうそう。いやでも、うーん...お互い大人になって良かったなって。それは時間が解決した。お互いに流れる時間が...こう良い時にまた出会わせてくれたんで。良かったなと。はあ~良かった、ほんま。

(折田侑駿)ですね。...この『おいしい家族』は音楽が印象的ですよね、やっぱり。

(ふくだももこ)めちゃめちゃ良い音楽。

(折田侑駿)そこは聞かずにはおれない感じなんですけど。こちらの音楽は、本多俊之さんという方がね...伊丹...

(ふくだももこ)伊丹十三監督、森田芳光監督...などなど...

(折田侑駿)錚々たる監督たちの音楽を手がけてきた方ですけれども、どういったところから繋がったんですか?

(ふくだももこ)プロデューサーと喋ってて、「この映画をどういうもんにしたいか」みたいな時に、こう...社会を描いていて、で、エンターテインメント...エンターテインメントではないかもしれないけど、「明るい話で、かつ作家性が出ている作品にしたいね」っていうことで。「それは、伊丹十三じゃん」ってなって。

(折田侑駿)もともとかなり好きだった?

(ふくだももこ)めちゃくちゃ好きですね。やっぱ作家性が出ていない映画は...監督の作家性が出ていない映画は...なんだろう...映画として、あまり好きではないので。

(折田侑駿)ふくださん的に、「この監督だからこその!」みたいなものを感じられた瞬間に...

(ふくだももこ)そうです、グワーッって好きになりますね。最近『メランコリック』とか観てても思いますし。

(折田侑駿)あー、なるほど。

(ふくだももこ)で、じゃあ音楽...「本多さんって方がいるぞ!」ってなって。プロデューサーが熱烈オファーしてくださって、まさかの受けて下さって。いやー、凄い良い出会いですね、本多さんとは。年は親ぐらい離れてるんですけど。でも後々聞いたら、本多さんが伊丹さんと出会った時の年齢が、伊丹さんが凄く上で、本多さんがめちゃくちゃ若くて、20代とかで。今の本多さんの年齢と今の私の年齢が、こう...真逆になって...

(折田侑駿)ああ...!

(ふくだももこ)だから本多さんも「自分が伊丹さんに拾ってもらったように、何か映画界にとって返す時期なんだなと思った」って言って下さって。もう...めちゃくちゃ美しい...もうスタンディングオベーション(笑)

(折田侑駿)(笑)

(ふくだももこ)めっちゃ嬉しかったですもん。いや、凄い...ですよね。やっぱ巨匠と呼ばれる人たち...素晴らしい仕事をしてきた人たち...で、かつ、自分の表現をしてきた人たちって、どっかでそう思うんだなって。

(折田侑駿)凄いな...。

(ふくだももこ)若いとか、新人だとか関係なく...ま、関係あるけど。それが映画界にとって、良いことであれば...

(折田侑駿)本当に広い目線で...

(ふくだももこ)そう、そう。私も絶対にそうなろうと思いました。50、60まで映画撮ってるか分かんないけど(笑)そうしなければならないって、もうなんか、「映画界」っていう大きな川に自分も入った、みたいな...それが嬉しかったですね。

(折田侑駿)その言葉は実感としても大きいですよね。ふくださんのおっしゃる「川」に、自分も入れたっていう。

(ふくだももこ)伊丹さんとかはもう海になってしまわれてますけど(笑)亡くなった人のことは「海」っていう。今決めました。

(折田侑駿)なるほど。本当に音楽ね、それこそ銀座の街のシーンとかもやっぱり...あの当時の映画を彷彿させるようなムーディーな。

(ふくだももこ)そうですよ。

(折田侑駿)ノスタルジーをかきたてられる。

(ふくだももこ)私ジャズ好きで。映画でかかるジャズが凄い好きなんですよね。あれ『ミッドナイト・イン・パリ』(2011)を...

(折田侑駿)うんうん。

(ふくだももこ)イメージして...みたいな。今思えばすげえ失礼な(笑)

(折田侑駿)あ、そういう注文も...

(ふくだももこ)しましたね。本多さんがサックスの名手っていうのもあったから、分かってくれるだろうと思って。でもなんか、ラッシュ...あの、編集しただけのものを観てもらって、本多さんが一番に言って下さったのが、「凄い良かったし、君は映画に音楽をつけるということに対して、人物の感情を助長させるような音楽が好きじゃないよね」って言われて。

(折田侑駿)ほうほう。

(ふくだももこ)映画観ただけでそんなこと分かるのかと。でも全くその通りで。泣けるシーンに壮大な音楽をつけたりとかがあんまり好きじゃなくて。その時点で、とんでもなく信用できるなって思いましたね。そっからめっちゃ話は早かったです。「ここにはこういう曲が...」みたいな。

(折田侑駿)そうなんだ。

(ふくだももこ)本多さんはほんま、若手全員...本多さんにダメもとでオファーした方が良いと思う(笑)あんな良い人いないぜ。

(折田侑駿)そっかそっか。...ふくださんは、映画監督でありながら、小説家でもあるわけじゃないですか。

(ふくだももこ)はい。

(折田侑駿)今も、日常的に書かれてる...?

(ふくだももこ)あ、はい。編集者に「書け書け」って言われて(笑)でも書きたい...何かしなきゃ...何かしなきゃ何者でもないという感覚がどっかであって。映画ってやっぱり色んな人が関わるから、こう...映画に入ると映画にわーっと入っていっちゃいがちなんですけど、でも小説も書いていたいですね。ずっと書いていたい。だし、書きたいことはたくさんある。

(折田侑駿)その『えん』という作品は、初めて書かれた作品?

(ふくだももこ)そうですね。映画...どうしようもねえなって思って、でも...でも何かしたいからと思って書いてたら、先輩が読んでくれて。「これ面白いから、賞に出しなよ」って言ってくれて。賞とかにも詳しい人だったんで。「この賞が狙い目」みたいなことも言ってくれて。

(折田侑駿)ああ、なるほど。アドバイスを。

(ふくだももこ)そうなんですよ、編集者みたいに。カラオケで5時間くらい「この文章は、こう受け取られるが、それで良いのか?」みたいに詰められて、ほんま勘弁してくれって思ってたけど、でもそれがなかったら絶対に受賞できてなかったんで。

(折田侑駿)それまではふくださんは、書ければ良いというか...それとも何か世に届けたい想いがあったんですか?

(ふくだももこ)そんときは、完全に自分のために書いてましたね。でもそれを書き終わって...ああでもそうだわ...自分のために書いてた小説を書き終わってから初めて、「何か人のために映画を撮ってみよう」と思ったのかもしれない。

(折田侑駿)ああー。一回、(自分の)内に入るところがあってから?

(ふくだももこ)うん。自分の中の一個...“第◯章”が完結した、みたいな。そこから外に向かおう、みたいな。うわ、今知った!

(折田侑駿)(笑)やっぱり人と話していると、気づきがあったりしますよね。

(ふくだももこ)そう。

(折田侑駿)整理がついたり。

(ふくだももこ)そう。

(折田侑駿)それこそ、この『おいしい家族』の小説版も出ると。

(ふくだももこ)そう!(スタッフ・カメラに向かって)絶対買えよ!(笑)

(折田侑駿)(笑)

(ふくだももこ)5冊買って下さい。

(折田侑駿)それはやっぱりあれですか...どういう流れで小説に?もちろん小説家でもあるんだから...

(ふくだももこ)そうですね、流れに組み込まれていって。私も凄い軽い気持ちで「あ、書く書く」みたいなこと言ってたんですけど、いざやってみたら...

(折田侑駿)だって脚本として書いていたものを小説にするのではなく、映画になったものを小説にするんですよね?

(ふくだももこ)いや、めっちゃしんどいっすわ。ほんまもう一生やんないと思うくらい。しんどかったですね。映画と小説の...書く脳が違うというか...だったんで。で、脚本からやって、映画として完成させて、何回も書いて何回も何回も観たものを、改めて、また新しく小説にするのってめっちゃしんどくって。なんでこんなことを受けてしまったんだって、何回も自分のことを呪ったんですけど。でも全部撮り終わったからこそ、この映画をちょっと俯瞰してみて...やっぱ一人ひとりの人物が、「このシーンの時、何を思っていたか」みたいなことは、映画では(観客に)委ねているので。それが(小説では)全部書けるんだっていう。本当に余すことなく、私の思想を書けるんだって思い始めてからはなんか楽しくなってきて。あとはやっぱ、橙花のことを考えるようになってから...

(折田侑駿)それこそさっきは分かんないって、まだ...

(ふくだももこ)そう、「分かんない」ってなってて。でも穂香ちゃんのインタビューも、その時くらいから始まりはじめて。で、そっから自分の中で橙花という人が、やっと動き出して。今まで誰かに預けて、託していた人が自分の中でやっと歩き始めた感覚があったから、そう...書いてて、「あ、あれも書きたい、これも書きたい」ってなって。だから小説は...凄く良い小説なんです(笑)

(折田侑駿)買います(笑)

(ふくだももこ)ありがとうございます。

(折田侑駿)僕は本も凄く好きなので、買いますね。

(ふくだももこ)嬉しい~。

(折田侑駿)ほぼ映画のまんまというか?

(ふくだももこ)まんま...

(折田侑駿)小説は小説なりの?

(ふくだももこ)人物は...この出てる人たちの特徴を全部書いてます。この人たちの世界で、ハマケンさんとモトーラちゃん...和男とダリアの、“どうして親子になったのか?”とか。

(折田侑駿)はいはい。

(ふくだももこ)映画で描ききれなかった過去とか、それこそお父さんの気持ちとか...いや、お父さんだけは書いてないのか。でも橙花から見たお父さんを、こう...お父さんのことがストンと心に落ちてきた過程とか、めちゃくちゃ書いてます。あと、翠のこととか。だからチャプター分けしたんですよね。

(折田侑駿)あ、そうなんだ。

(ふくだももこ)ダリアパート、和男パート、翠パート、橙花パート...みたいに、色んな人に焦点を当てて書いたから、だから改めて、映画を撮ってから...改めて人物たちのことを知っていく作業でした。

(折田侑駿)それ凄く楽しみ。

(ふくだももこ)いやだから、めっちゃインタビューも答えやすくなりましたね。

(折田侑駿)あ、そっか、一回整理してると(笑)

(ふくだももこ)そうそうそう(笑)

(折田侑駿)なるほどな。...そうやってふくださんは映画を撮られて、本作がこれから上映で。

(ふくだももこ)はい。

(折田侑駿)次回作も準備というか、構想なりあるでしょうし、小説もやっぱり今後も書いていきたいというところですけれども。さっきも、書いてる脳と、映画を撮る脳は違うって話がありましたが...それもそうかなとは思いつつ、ふくださんの中で表現としての位置づけというか...全く違うものですか?

(ふくだももこ)うーん...『おいしい家族』の小説を書いたことによって、「違う」という感覚がちょっと薄れたかもしれない...

(折田侑駿)ある種の垣根というか。

(ふくだももこ)そうですね。「できるんだ!」って、一個自分の自信になったので。

(折田侑駿)うんうん。

(ふくだももこ)けどまあ...やっぱまだ別モンかもしれない(笑)

(折田侑駿)なんだろう...映像で綴ることと、文字で物語を紡いでいくことの違いというか、魅力ってどういうところだと思いますか?

(ふくだももこ)文章って...メリット・デメリット一緒ですけど...全部書けるし、全部書かなきゃいけないじゃないですか。気持ちも、行動も、言葉も。

(折田侑駿)描写。

(ふくだももこ)そう。それが大変だけど、一番楽しいじゃないですか。映画はやっぱ、映画っちゅうか脚本?は...書くけど、それが色んな人に委ねられる。で、皆で一個のものを作るという作業だから、ある種ちょっと無責任でいられる。だけど小説は本当にそれだけで一個の作品。だから全然違うけど、どっちも楽しいですよね。

(折田侑駿)映画だと共同作業だから...無責任って言葉が出ましたけど...まあだからこそ、お客さんも含めて「作る」というか、「想像の余白がある」というか...

(ふくだももこ)そうそう、そうですね。

(折田侑駿)文章ももちろんそうなんでしょうけど、文章はそこを“いかに埋めるか”ってところだったりすると思うので...

(ふくだももこ)はい。

(折田侑駿)...映画を観てから読むか、読んでから観るか...

(ふくだももこ)そうです。上から見るか、横から見るか...なんだっけ? 下から見るか横から見るか?...打ち上げ花火。でもそうですね...友達は、「映画を観てから小説の方が良い」って言ってました。観て読んだやつ。

(折田侑駿)あ、そっか、すでに。

(ふくだももこ)文芸誌には載ってたので。あ、単行本が、この公開日の1週間後くらいに発売なんですよ。書くのが遅すぎて、間に合わず。だから、一回...映画はちょっと余白があるから、それを観てもらって。で、「あの時、あの人はどう思ってたんだろう」って思ったりした時に読んでもらえたら、凄い色んなことが...「こんなこと考えてたんだ!」って色んな発見があると思うんで。

(折田侑駿)そっかそっか。ディテールが書かれているので、やっぱり観た後にですよね。

(ふくだももこ)それが良いかもしれない。それか、どっちも単体で楽しめるので...どっちでも良い(笑)

(折田侑駿)(笑)

(ふくだももこ)ただ、本は買ってくれた方がうちの金になる。

(折田侑駿)いや、映画も観てもらわないと!

(ふくだももこ)あははは(笑)

(折田侑駿)映画をまずは...

(ふくだももこ)映画観て欲しい。

(折田侑駿)じゃあ今日はこのへんで。ありがとうございました。

(ふくだももこ)ありがとうございました!

(折田侑駿)番組を楽しんでいただけた方は、「#活弁シネマ倶楽部」で投稿をお願いします。活弁シネマ倶楽部のTwitterアカウントもありますので、そちらの方もぜひフォローしてください。

(ふくだももこ)『おいしい家族』(のアカウント)もあります。

(折田侑駿)『おいしい家族』もね。では今回はここまでです。これからも活弁シネマ倶楽部をよろしくお願いいたします。今回のゲストは『おいしい家族』のふくだももこ監督でした。ありがとうございました。

(ふくだももこ)ふくだももこでした。ありがとうございました!

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