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”小鳥たち”のX'MAS① sideユウスケ&ケイイチ(【連載小説】ライトブルー・バード第2部START!)

※今回は『BL注意(軽め)』ということでm(__)m💦

ライトブルー・バード第1部(全26話)は
コチラ↓

そして登場人物の紹介です。

白井ケイイチ(21) ファストフード店でアルバイトをしながら、大学合格を目指す『元サラリーマン理系男子』。顔良し、性格良し、頭はめちゃくちゃ良し(ではあるが……)

土居ユウスケ(21) フリーター男子。自他共に認めるチャラ男だが、未だに『帰ってきたドラえもん』を観ると泣いてしまう面も。ケイイチとは幼馴染みで親友(だと思っているが……)

小暮サヨコ(アラサー) ファストフード店チーフマネージャー。仕事が出来て人望はあるが、かなりの毒舌家。そして何故か『元』バイト生であるユウスケが一番の『餌食』だったりする。

星名リュウヘイ(17) 一応主人公。ファストフード店でアルバイトをしている男子高校生。学力は微妙だが素直な性格で、ケイイチを兄のように慕っている。彼に勉強を見てもらっているおかげなのか、最近は学年ビリを回避しているらしい。

白井ケイイチ


 白井ケイイチは密かにイライラしていた。

 原因は幼なじみで親友の土居ユウスケ。なんと言うか、ケイイチは最近の彼がめちゃくちゃウザくてしょうがない。

「なあケイ、今日ヒマ?」「ヒマ?」「ヒマだよね?」「ヒマ? ヒマ? ヒマ? ヒマ?」「ヒマにしとけよ」「遊ぼうよ」「ねぇケイぃぃ」「もしもしぃ? ケイ?」

 こんな感じで頻繁にLINEが来れば、さすがのケイイチも頭を抱えてしまうだろう。

 (何なんだよ! 全く……)

 勉強やバイトを理由に誘いを断ると、キャンキャンキャンキャンうるさいし……。

 (ユウくん、キミはワンコかよ!?)

 いや、同じワンコ男子でも、チワワのように可愛い星名リュウヘイならば、微笑ましい目で見ていられる自信がある。しかしユウスケは21歳。口を尖らせているようなメッセージを送られて来ても、『いい加減にしてくれ!』という感情しか沸いてこない。

 さっきまでのLINEのやりとりを思い出し、再び頭を抱えるケイイチ。

 ただし同性のユウスケに恋愛感情を持っているのは、他ならぬ自分なのだが……。

「…………」

 この時代は同性愛に対して、かなり寛容になったと思う。しかしながらケイイチが己の問題と併せて考えた場合、それは全くもって何の救いにもなっていない。
 
 だからこのやり場のない感情は必死で抑えて、親友の顔をして接しているというのに、ユウスケときたら彼の気持ちを逆撫でするかのように『ケイケイケイケイ……』とうるさい。

 (ま、ユウくんには『そういう感情』がないからこそ、何も考えずに振る舞えるんだろうな)

 つまり、ケイイチのモヤモヤを要約すると、この一言だけで済んでしまうのだ。

 ヒトの気も知らないでっ!!


 
 だからユウスケからマンションの合鍵を渡された時、彼は秒で断ってしまった。

「えー!? 何で遠慮するんだよ? ケイ。勉強に使っていいんだぞ。場所を変えると気分転換になって、めちゃくちゃはかどりそうじゃん?」 

「はっ? 僕はノートとシャーペンさえあれば、どこにいてもはかどるけど?」

「寂しいこと言うなよ、ケイ」

「……そ・れ・に・ね! ユウくん、君が女の子とイチャイチャしている最中に、僕が鍵開けたらどうするの?」

「えー? ソレ、サヨコさんや荒川にも全く同じこと言われたんだけど!?」

「だろうね」 

 ケイイチは冷ややかな目をユウスケに向ける。そして「逆に何で言われないと思ったの?」という言葉で彼にトドメを刺した。

「いやいや!! 俺、女の子は誰一人あの部屋に入れるつもりないよ!」

「はっ!? 何? その冗談」

 ケイイチは怪訝そうな表情で首を傾げる。

「ほ、本当だから!」

「まあ、女の子同士が鉢合わせしたら修羅場だから、最初から誰も部屋に入れないのは、いい判断かもね」

 自分が口にしたセリフを脳内が復唱する度に、自己嫌悪に陥ってしまうケイイチ。本当はこんなチクチクした言葉なんか、大好きなユウスケに言いたくないのに……。

 しかしユウスケは、そんな言葉の『棘』など気にせず、必死で右手を横に振りながら力説をする。その姿はまるで『彼女に言い訳をする彼氏』のようだ。

「いやいやいやいや……、そ・う・じゃ・な・く・て!……最近の俺は女の子と遊ぶより、ケイとつるんでいる方が楽だし、楽しいんだよ!」

「…………」

 『不意打ち』もいいところだ。

 ケイイチはその言葉にどう反応していいのか分からない。

 大抵の数式なら、自分は簡単に解けるのに、ヒトの気持ちは何でこんなに複雑で難しいのだろう。

「ユウくん……バカじゃないの?」

 こんな返答しか出てこない自分に、更に自己嫌悪感が増したケイイチだった。


 
「……な~んて言いながら、結局マンションのカギは受け取ったんだな? ケイイチ」

 ここは彼のアルバイト先であるファストフード店。この日は丁度、マネージャーの小暮サヨコと休憩時間が一緒だったので、ケイイチは彼女にユウスケの話を聞いてもらっていた。

 ユウスケへの想いに気付き、『オマエは男で良かったんだよ』と言ってくれたサヨコは、ケイイチの唯一の理解者だ。

「えぇ、まあ。あんな捨て犬みたいな表情されたら仕方ないですよね」

 そう言ってケイイチは溜め息をつく。そして「僕は最近のユウくんが何を考えているのかわかりません」と呟いた。

「多分何も考えていないと思う。っていうか、アイツは気づいていないんだよなぁ」

「えっ? 何に気づいてないんですか?」

「ごめん。何でもない、何でもない」

 サヨコは先日の居酒屋での出来事を思い出し、吹き出すのを必死に堪えている。

「でも、一番解らないのは、イライラしっ放しの僕自身です」

 切ない表情のケイイチ。彼は持っていたシャーペンを指先で器用にくるくると回した。

「確かにオマエはユウスケへの態度がつっけんどんだよな。他のスタッフには『温厚なお兄さん』キャラで通っているのに。人によっては二重人格に見えるかもなwww」

「はい、それが最近更にエスカレートしていて……」

  環境の違いから1年ほど疎遠になっていた幼なじみの2人……。再会時には一悶着があったものの、この出来事で自分の気持ちを再確認することとなり、彼は恋愛感情を封じ込めてユウスケと共に歩む道を選択する。

 勿論、苦しみは覚悟の上だ。

 そう、覚悟の上……。

 でも……思っていた苦しみとなんか違う。

「なんていうか……ユウくんの態度が想定外ばか過ぎて」

「うん無自覚ばかだな」

「一周回って……時々殴りたくなりますよ」

「オウ殴れ殴れwww まあ、非力のオマエが出す拳じゃ、虫に刺されのと同等レベルかもしれないけど……。それにしてもケイイチ、オマエは色々拗らせちゃったな」

「『拗らせ』ですか。……きっと僕は欲張りなんですね」

 ケイイチは苦笑いをしながら肩をすくめた。


 
 仕方なくカギは受け取ったが、ケイイチは彼のマンションに入り浸るつもりなど一切なかった。しかし蓋を開けてみれば、自分はこの部屋へと足繁く通い、合鍵はびっくりする位有効活用しているという『想定外オブ想定外』の状態に……。

 そしてケイイチは今日も自分で鍵を開け、ユウスケの部屋へ入る。

「あーあー」

 リビングの床には洋服やペットボトルが軽く散乱していた。そして台所へと向かい、シンクをチェックすると、使用済みの食器が無造作に置かれたままだ。

 ケイイチは前日、念入りに掃除をして帰ったのだが……。

 (ユウくん、これでよく『自立しよう』なんて思ったよなぁ)

 幼馴染み故、ユウスケの生活能力の低さは薄々分かってはいたが、目の当たりにすると溜め息しか出ない。

 特に彼の料理センスは壊滅的だ。 

 大根の皮を剥けば半分の太さになってしまうわ、味噌汁を作れば、水の中に味噌の『塊』を水にドボンと投入するわ……。

 料理をすればするほどフードロスに繋がってしまうユウスケには、さすがのケイイチも根負けしてしまった。

「ユウくん、もうやめてあげて!! 生産者の人たちが気の毒過ぎる」

 そんなワケでケイイチがほぼ毎日台所に立ち、その日の献立や作り置き系のおかずを用意するのが『日常』となってしまった。

 まるで『通い妻』だ

「……ふぅ」

 一仕事終えたケイイチは、主が不在の部屋をぐるりと見回す。本棚の一角には彼の祖母の写真が飾ってあり、これだけは埃をかぶらないように気を付けているようだった。その横にはケイイチが小学生時代に那須のお土産で買ってきた砂時計……。写真立ての側にあるからなのか、こちらもキチンと埃が掃われていた。

「…………」

 いずれユウスケには彼女が出来るのだから、彼の部屋に愛着が沸くことは出来る限り避けた方がいいとケイイチは思っている。

 それは自分の為であり、ユウスケ(と未来の『彼女』)の為でもあるのだから……。

 しかし心地よさに片足を突っ込んでいるような気持に嘘はつけない。ただし、この状態に『手遅れ』という名前を付けるのだけは死んでも避けたい……と思うケイイチだった。

 (僕は一体、何をやっているんだろう)


 この日のユウスケは帰宅時間が早かったため、夕食は二人でとった。

「……ユウくん、部屋散らかしすぎ! ボクがいなくなったらどうするの?」

 食事中に小言は言いたくないが、つい口が動いてしまう。

「えっ? ケイがいなくなるなんて、俺、絶対嫌だけど?」

 大根の煮物をほおばりながら、ユウスケは首をブンブン横に振る。目の前に座っている『親友の仮面』をかぶった男の気持ちも知らないで……。

「…………」

「それよりもケイ、聞いてくれよ。今日、仕事帰りに実家寄ったら、母さんが大根の煮物作ってたんだよ。で、味見したんだけど、ケイの作ったやつの方が俺好みでさ……、うっかり母さんにソレ言っちゃたwwww そしたら俺、何て言われたと思う? 『お前なんかケイイチくんと結婚しろっ!』だってさwwwwwwww」

「…………」

 相変わらず想定外の言葉を、変化球のように投げてくるユウスケ。

 サヨコはケイイチが男であることに『良かったな』と言ってくれたが、もしも自分が女ならば、今、この言葉をどんなふうに受け止めただろう。

「ユウくん……バカじゃないの? ちゃんとおばさんに謝っておきなよ」

 男の自分にはこれが精一杯だった。


 それから数日が経過した。

 ケイイチは慣れた手つきで鍵を開けると、玄関にユウスケの靴があることに気がついた。今日も仕事だと思っていたが、予定を聞き違えたのだろうか?

「ユウくん……今日はいたんだ?」

 しかしドアを開けたのに、リビングからは何のリアクションもない。首を傾げながら部屋に入ったケイイチが見たものは、ソファーで熟睡しているユウスケだった。

「なあんだ」

 ケイイチは彼の寝顔をじっと見つめる。今なら顔が見放題だ。ユウスケは一度眠ると多少のことでは目を覚まさないから……。これは長年の付き合いで把握済みのことだった。

 手のひらが眠っている彼の頬を触りたくて仕方がないと訴えているが、それはさすがに制止案件ということで、理性がストップをかける。

「…………」

 そう……、やはり自分はユウスケが好きなのだと改めて思う。

 そんなことを考えていた時、しっかり閉じていたハズのユウスケの両目が急にカッと見開いた。 

(……えっ?)

 『前置き』がない状態での目覚めは、彼に顔を近づけていたケイイチを狼狽えさせたが、どうやら思考の方は、まだ夢の中に置き忘れているらしい。現状を把握できていない様子が、それを物語っていた。

(えっ? えっ?)

 そんな彼はケイイチを凝視したままだ。

「……ゆ、ユウくん?」

 まるでその言葉が合図になったのように、ケイイチはユウスケに両手で頭を掴まれ、顔面を思い切りきり引き寄せられる。

 (えっ? えっ? えっ?)

 そして唇を強引に押し当てられ、そのまま2人の唇が重なった。

(えーーーーーーーーーーっ!!??)

 意味が分からない!!!! でも大好きなユウスケにキスされている自分の唇が、熱を帯びていくのだけは分かる。

 ユウスケの舌が自分の口の中に侵入してきた。

(こここここれが……ディープキ……ス?)

 このまま流れに任せてしまったら、絶対に頭の中がおかしくなる!! ケイイチは必死でユウスケから身体を離すと、思い切り声を荒げた。

「何すんだよっ!ユウくんっ!! 早く目を覚ませよっ!!! いくら寝ぼけているからって、やっていいことと悪いことがあるよね!!??」

 自分はユウスケにちゃんと怒ることが出来ているだろうか? 別の理由でドキドキしていることがバレていないだろうか……? 

 身体と唇がまだ火照っているのが嫌でも分かる。

「ケケケケケケ……ケイ!?」

 ユウスケはようやく思考がクリアになったらしい。

「お・は・よ・うっ!! どうやらユウくんは夢の中で女の子と随分イチャイチャしていたようだね? どんな夢を見るのかは君の勝手だけど、僕を巻き込むのはやめてくれよ!!」

 腕を組んだケイイチは、無理やり険しい顔を作り、混乱している幼なじみを見おろした。

「……えっ? えっ? 俺、もしかして本物のケイにキスしたの!?」

 ユウスケが驚いて自分の口を押さえた。

「しでかしたから、こうやって怒っているんでしょ!!」

 本当は怒ってなんかいない。

 こうでもしないと、『本当の自分』をさらけ出してしまいそうで、それが何よりも怖いから……。

「えっとぉぉ、そのぉ……ごめんっ! ケイと女の子を間違えちゃった」

「…………」

 (分かっていたよ。ソンナコト)

「実は最近、『いいな』って思っている女の子がいて、その子が夢に出てきてさ……」

「…………」

「ついつい夢ん中のその子にキスしちゃったwww」

 (だから、分かっていたってば)

「いやぁ、ケイ、マジで悪ぃ悪ぃww 事故に遭ったと思って忘れてくれよ」

「…………」

 ソファーから立ち上がり、ヘラヘラしながら自分の肩を叩こうとしたユウスケ。しかしその瞬間、ケイイチは思い切り拳を突き出し、気がつくと彼をぶっ飛ばしていた。

 ユウスケは叩き付けられるようにソファーへと逆戻り。何が起こったのか分からないまま、自分の頬を押さえている。

「…………い、痛ぇ」

「………」

「ケ、ケイ?」

「夢に出てくるくらい、その女の子が好きなら、僕なんか家に出入りさせるなよ!!」

「…………」

「ユウくん……君とは絶交だ」
 


 
 外に出たケイイチの目の前に、薄暗い風景が広がっていた。日の短い季節で良かった。だって今の自分の顔は誰にも見られたくないから……。そんなことを思いながら彼は早足で歩く。

 軽く流せば良かったんじゃないか!? ちょっとだけ説教して、あとは苦笑いして、「ユウくん、バカじゃないの?」って言って……。 

 自分の心の中だけで、『甘い思い出』として、こっそり取っておけば良かったんじゃないか!?

 こんなふうにならなければ、大好きな彼とキスなんかできないんだから、少しくらいのすれ違いは我慢しろよ!!

「……無理だよ」 

 心の底から聞こえた己の問いに、ケイイチは独り言で応える。

 ユウスケは女の子にあんな風にキスをするんだ……なんて思ったら、感情が拳に移動していた。

「…………」

 どうして自分は一番好きな人に、一番優しくできなくなってしまったのだろう。

「本当に欲張りなんだな……僕は」

 ポケットに手を入れると、返しそびれた合鍵に指が当たった。その鍵につけているシルバーのキーホルダーは、中学時代、ハワイ旅行をしてきたユウスケからのお土産だった。


土居ユウスケ


「……ナニナニ? ほーーーぉ! ユウスケ……、オマエが女の子とイチャイチャした夢を見たと? で、起きた時、目の前にケイイチがいて、間違えてキスして、ヤツにぶっ飛ばされたと……」

 ケイイチから何の連絡もないまま一週間が経った。ユウスケは元上司であるサヨコに半泣き状態のメッセージをLINEで送り、2人は今、カフェで向かい合っているところだった。

「……はい」

「そ、それは……うん、ゴシュウショウサマと言うべきか……」

 吹き出したいのを必死でこらえているサヨコのセリフは完全棒読みだ。

「あー、もう笑っていいですよ。俺もその方が気楽です」

「そぉ? じゃあ遠慮なくwwwwwwwwwwwwwww」

「……すいません。やっぱり地味に傷つきました」

「あ、悪い悪いwwwww」

 それでも笑いが止まるまでには、結構な時間がかかってしまったが……。

「『しでかした方』の俺が言うのもナンなんですけど、ケイにも笑って済ませて欲しかったです。ほら、男ってバカですから、同性同士でふざけてキスする奴だっているでしょ? そのノリで……」

「大バカだな……オマエ」

「自覚しています」

 ユウスケはテーブルに突っ伏した。

「なあユウスケ、1つ聞いていいか?」

「はい……どうぞ」

 そのままの状態で彼は返事をする。

「夢に出てきたのは、本当に『狙っている女の子』だったのか?」

「えっ!!!!!?????」

 がばっと顔を上げたユウスケ。視線の先には、「やっぱりな」とニヤニヤしているサヨコがいた。

「い、いやいやいやいや、『実は夢の中の相手もケイでした』なんて言ったら、ケイもサヨコさんもドン引きしますよね!? だからちょっと嘘を混ぜたんですよ!」

「えっ? ワタシはケイイチの『ケの字』も口に出していなけど? ほーぉ 夢でも現実でも相手はケイイチだったのねぇwwwww」

「…………」

「まあ、気にすんな。夢ん中の『出演者』は自分でコントロールできないんだし」

「…………まあ、そりゃそうですけど」

「で・も・ね」

「はい?」

「ケイイチと仲直りしたければ、それを言え! 洗いざらい言え! これがワタシからのアドバイス♡」

「はぁ!? 俺、ますます遠ざけられますよ!」

「大丈夫。……じゃあユウスケ、ワタシと賭けをしようぜ。もしもケイイチの機嫌が治らなかったらワタシの負けだ。これから1年間、店に来れば私のおごりで何でも食わせてやる」

「へっ?」

 サヨコは伝票を持って立ち上がる。

「勝てる自信があるから、ここは私がおごる。じゃーな」

「ちょ、ちょっと待ってください! じゃあ、俺が『負けた』時は何をすれば?」

「それはその時のオ・タ・ノ・シ・ミ♡」

「…………」

 サヨコの不敵な笑みが、ちょっとだけ怖く感じた。



 ケイイチのシフトをサヨコから教えてもらい、ユウスケは寒空の下で彼を待っていた。

(何やっているんだろうな、俺?)

 いい年して幼なじみ(それも同性)にここまで感情が振り回されているなんて……。

 自分で自分が解らない。

 1つだけ分かることといえば、『何がなんでも、ケイイチと仲直りをしたい!』ということだけ……。 

 そんなことを考えていると、裏口の扉が開いた。中から出てきたのはケイイチだ。

「ケイ!!」

 直前まで『ちゃんと声を掛けられるかどうか』とビビッていたのに、ケイイチの姿を見るやいなや口が勝手に彼の名前を呼んだ。

「ユウ……くん?」

「…………」

 ただし、次の言葉が出てこない。

 そんなユウスケを見つめるケイイチの瞳は、冬空のように冷たく感じた。

「用がないなら、僕は行くよ」

 自分の前を通り過ぎようとしたケイイチ。そんな彼の腕をユウスケは後ろからぎゅっと掴んだ。

「待てよケイ!!」

「!?」

 ケイイチの動きがストップする。それでもユウスケは手を離さなかった。

「ケイ、この間は本当にごめん!! 実は俺、オマエに少し嘘をついていた。夢の中にいたのは女の子じゃなくて、ケイ……オマエだった。いや、そもそも俺は今、狙っている女の子なんかいねーし……。あ、話が逸れたな。えっと……、夢の中のオマエが俺に愛想つかして、去って行こうとしていてさ、俺、必死で追いかけてオマエに追いついたんだよ。で、なんでか分からないけど、オマエにキスしようとした。で、起きた時にオマエがいたから、夢と現実がごっちゃになって……。なんで男のオマエにキスしようとしたか分からねーけど、ほら、夢って理解不可能な行動することがあるだろ? でも、夢の中の俺はきっとオマエにキスしたかったんだと思う。本当によく分からねーけど……」

「…………」

(言ったぞ! 言ったからなっ! サヨコさん)

 一気に言い切った疲労感から、肩で思い切り息をするユウスケ。一方、『一気に言われた側』のケイイチは、自分に背を向けたままなので、どんな表情をしているのか分からない。

(ケイ……なんか言ってくれよぉぉぉ)

「ユウくん…」

「は、はーい?」
 
 腕を掴まれたままのケイイチは、首だけをねじってユウスケに顔を向けた。

「バカじゃないの?」

 その口調にいつもの冷たさは全く感じられない。しかも彼の口角は明らかに上を向いていた。



「サヨコさん、ありがとうございました」

 次の日の夜、ユウスケは前日の報告がてら、客として来店した。

「なっ? ワタシの言った通りだったろ?」

 彼女はトレイ片手にユウスケの席までやってきて、どや顔の接客をする。

「はい。賭けは俺の負けです。で、何をすればいいんですか? 年末大掃除の力仕事?」

 ユウスケは苦笑いをしながらコーヒーに口をつける。

「あ、それもアリだったな。残念。……なあユウスケ、クリスマスは何か予定はあるか?」

「えっ? サヨコさんって、俺とクリスマスを過ごしたいの!?」

「バーカ! オマエとクリスマスを過ごすなら、一人でお茶漬けでもすすっている方がよっぽど有意義だわ。私じゃなくてケイイチの方だよ。アイツさ、クリスマスもフルでシフト入れてるんだよ。勉強もバイトも頑張りすぎだ。24日は独断でオフにするから、オマエは気晴らしにケイイチをどっかに連れて行け」

「…………」

 ユウスケは目を丸くしたが、すぐに二カっと笑ってサヨコにどや顔をした。

「俺……前々からそのつもりでいましたよ」

「ほーーーーーーぉ」

 サヨコも負けずに二カっと笑い返し、小さな声で「ゴチソウサマ」と言ってテーブルをあとにした。

「さてと」

 ユウスケは張り切ってスマホを手に取る。検索内容はもちろん『クリスマス』『お出かけスポット』etcで……。


《↓クリスマスエピソード②↓に続く》


ユウスケとサヨコの飲み会エピソードはコチラ↓


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