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【連載小説】ライトブルー・バード<7>sideサトシ②

↓前回までのお話です

そして超簡単な相関図はコチラ↓

   井原サトシ→♥️→山田カエデ→♥️→星名リュウヘイ(主人公)→♥️→今泉マナカ→♥️←荒川ヒロキ(ヒロキのみ大学3年。他は全員高校2年生)

 「サトシってそのチョコ好きだよな?」

   部活動終了後の更衣室。一口サイズのチョコを口に入れた井原サトシを見て、メンバーの一人が言った。

「あっ?」

 「『チロルチョコ・ストロベリーバニラ味』…なんかお前ってそればっか食ってね?」

「そっかぁ? 」

   サトシは 生返事をしながら、ピンク色の小さな包み紙をくしゃくしゃに丸めてゴミ箱へシュートしようとした。

  「あ、サトシちょっと待って!!」

  「何だよ? ゴミはゴミ箱だろ?」

  「その紙、俺にくれよ。『井原サトシが食べたチロルチョコの包み紙』って女子に言えば100円くらいで売れるかも」

「えっ…何?その気持ち悪い発想?マジで引くんだけど…」

サトシは白い目を友人に向ける。

 「ハハハ…冗談だよ冗談」

「………」

   冗談に聞こえなかったサトシは、丸めた包み紙を自分のポケットへ入れた。

 (…家で捨てよう)

「それにしてもさー、サトシは何で彼女作んねーんだよ。お前なら選び放題じゃん」

「興味ねーから」

『…カエデ以外は』という言葉を心の中で続ける。

「今泉マナカさんは? 彼女美人だし、イケメンのお前とお似合いだけど…」

「今泉はトモダチで、ある意味『同志』」

「へぇ~。よく分からないけどな…。ところでサトシ?」

「ん?」

「そのゴミ…俺が捨ててやるよ」

「……ねぇ…今すぐ殴っていい?」

  「…寒っ」  

    バスに揺られて40分。離れた場所にコンビニが1件しかない夜の住宅地は既に静まり返っている。日の入りと共に気温がぐっと低くなり、季節が進んだことを改めて感じながら、サトシは自宅までの暗い道を早足で歩いていた。

    彼がこの土地に引っ越してきたのは小学3年生の時で、もうすぐ8年が経とうとしている。そんなサトシは最初、この町が大嫌いだった。

   ここが辺鄙(へんぴ)な場所だから…という理由ではない。実は転校したばかりの頃、サトシは3人の男子から陰で嫌がらせを受けていたのだ。

   現在、身長180センチ越えのサトシ。しかし当時の並び順はリュウヘイに続く2番目の低さでカエデよりも小柄だった。そして彼の綺麗な顔立ちは、いじめっ子たちにとって格好の『ネタ』に…

 「サトシって女みてぇ!!」

 「ちゃんとついてんのかよ!!」

…と言われて危うくズボンを脱がされそうになったこともある。

   そんなことが1ヶ月ほど続いたある日、誰もいない公園で泣いている姿を、通りすがりのカエデに見られてしまった。

「サトシくん、どうしたの? 」

「何でもない」

「だって泣いてるし…」

「泣いてない」

「泣いてるじゃん」

 「泣いたらお父さんに叱られる。『男は泣くな』っていつも言われているから。だから泣いていない」

   下校からかなりの時間が経っているのに、サトシはまだランドセルを背負ったままだ。そんな彼が手に持っている紙バッグにはたくさんの靴の跡がついていることにカエデは気がついた。

 「サトシくん、それって今日の図工の作品だよね?」

   顔を真っ赤にして紙バックを自分の後ろに隠すサトシ。 カエデはその作品が先生に誉められていたことを思い出し全てを察した。

「…もしかしてアイツ?」

  ビンゴだった。カエデが口にした名前はリーダー格の男子だ。

「先生と…お母さんに言おうよ」

    サトシは思い切り首を横に振る。いじめっ子よりも父親にバレる方が怖かったのだ。カエデは「う~ん」と首を傾げたが、にっこり笑って…

「じゃあ、ソレ一緒に直そう!!」

と提案した。

「うちのお母さんがね…」

   潰された作品を内側から押しながら、カエデはサトシに向かって優しく話す。

「…『泣きたい時は泣いてもいい』って言っているよ」

「それはカエデちゃんが女の子だからでしょ?」

「ううん、お兄ちゃんにも言っている」

   サトシは「ふ~ん」とだけ呟く。暫くの間2人は無言で作業をしていたが、サトシの目から再び涙が溢れた。

「今日、…お母さんに『先生が誉めてくれた工作、今日見せてあげるよ』って約束…したん…だ…」

「うんうん」

   号泣してしまったサトシの肩をポンポン叩きながら一人で作業を続けるカエデ。

  そして…

 「…出来たよサトシくん!!よく見ればちょっと変な所もあるけど、これなら大丈夫」

   カエデから誇らしげな顔で作品を手渡された瞬間、サトシ少年は見事に恋に落ちてしまった。

    嫌がらせはあの後も続いたが、カエデが同じ教室にいることで、何とか学校生活を乗り切れた…とサトシは今でも思っている。

「ねぇサトシくん、やっぱり先生に言おうよ」

   心配したカエデが何度か相談することを勧めたが、これだけは断固拒否するサトシ。

  しかし転機は突然訪れる…

   下校中、サトシとカエデが一緒にいるところを3人組に冷やかされたので、カエデが今までのことを含めて抗議をした。するとリーダーの男子は彼女を突き飛ばしてしまったのだ。

   思いきり尻もちをついてしまい、泣いてしまったカエデ。

   この時サトシの中で何かがぶち切れた。

    ランドセルを下ろしたサトシはそれをリーダーの顔面めがけて思い切り投げつける。

「おいてめえ!!カエデちゃんに何すんだよ!!」

   リーダーは既に泣かしたので、実質1対2での大乱闘。そこから数分間、偶然通りかかった大人達にに引き離されるまでサトシは思いきり暴れまくり、気がついた時には残りの2人もベソをかいていた。

   学校からの連絡で保護者全員が呼び出され、サトシは厳重注意を受けたが、同時に3人組の今までの行いもバレてしまい、彼らは更に大きな雷を落とされてしまった。

 「偉いぞサトシ。それでこそ男だ!!」

   その夜、乱闘事件の詳細を聞いた父親が手放しで息子を誉めたが…、

 「いや、俺はお父さんのために喧嘩したワケじゃないから…」

   クールにそう言い残すと、サトシはさっさと部屋へ戻って行った。

   この日を境に父親が怖い存在ではなくなったサトシだが、中1の音楽で『♪グリーングリーン』を歌った時に吐き気を催した程度の『後遺症』は残っている…。

   公園が見えてきた。嫌な思い出の方が多いが、ここはカエデと一緒に工作を作り直した大切な場所だ。

   「おっ!!」

   数本の木々には電飾が施されていた。『イルミネーション』と言うには貧相だが、何もない暗い道では結構な目の保養になる。

   青い光に吸い寄せられるようにサトシは公園へと足を踏み入れ、ベンチに座った。

  そして カバンから例のチロルチョコを出して口に放り込む。

     高校受験の1日前、サトシはカエデからチロルチョコをもらった。

 「はい、サトシ」

 「はっ?」

  「私の大好物の味なんだ。今日の勉強の時に食べなよ。…あー、サトシは女の子からチョコは受け取らない主義なんだよね?でもこれはそうゆうものじゃないから気楽に受け取って…」

  (オイオイオイオイ!! お前からは『そうゆうもの』が欲しいんだけど…)

   サトシは全力でツッコミたい気持ちを押さえ、一言だけカエデに告げた。

「…まあ、貰ってやってもいいけど」

   その時の『チロルチョコ・ストロベリーバニラ味』の包み紙は今でも大切に取ってある。サトシは生徒手帳を開き、そこに挟んであった小さな包み紙を取り出した。

   ピンク色の光沢紙に青い光が反射している様子を見ながらサトシは思わず呟く。

「あれ?…もしかして…俺って気持ち悪い奴?」

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<8>↓に続きます。